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〜翡翠の彼、瑠璃の彼女〜  作者: 狼×狐
第二章・変わりゆく学園生活
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11・双子

 半ばから斬り落とされた剣の柄を片手に、エリックが舞台から降りてくる。その顔には尋常でない疲労の色が浮かんでおり、隣を歩くユリアナも憔悴した面持ちだ。


 それもそうであろう、ギルバートらと同じく優勝候補の一角に数えられていたエリックたちだ。まさか、あんな正体も知れない人間に負けるなど思いもしなかった。


 次の試合のために控えていたギルバートの横を、エリックが通る。エリックは努めて笑みを浮かべ、ギルバートに言った。


「悪ぃ、お前らとの勝負はまた今度だな」

「ああ……」

「次のお前らの相手、ちっこい双子魔導師だけどさ。腕前は本物だ、気を引き締めろよ?」


 ユリアナも頷いている。同じ学園の代表者だ、エリックらが言うのならば間違いない。こうした対戦で不利と思われがちな魔術でここまで勝ち残ってきたのだから、本当に侮ることはできない。


「分かっている。決勝に進んで、お前の仇をとってやるさ」

「おいおい、俺はまだ死んでないぞ!?」


 ギルバートの冗談にエリックは苦く笑い、ひらひらと手を振ってユリアナと共にその場を去った。


 刀の鞘を握り直したシャーニッドがポツリとつぶやく。


「誰なんだろう、あのアンノウンとかいうのは」

「さあな、また学園長の良からぬ企みが裏にあるような気もするが……とりあえず俺たちは、目の前の試合に集中するだけだろう?」

「ごもっとも」


 シャーニッドは頷き、ふたりは舞台へと上がった。


 準決勝ともなれば、その歓声の度合いは初戦を遥かに上回る。先程のエリックとユリアナの戦いで虚を突かれていた観客たちも、盛り上がりを取り戻している。


 なんといっても、これは初めて平民の特待生が頂点に立つかもしれないのだ。注目度は高い。


 向かい側に、対戦相手の少年魔導師がふたり現れた。一卵性の双子だというが、本当にそっくりだ。髪の色や目の色は勿論、ひとつひとつの顔のパーツから身長、表情、動作まで揃っている。息ピッタリというより、分身と考えたほうが良いのかもしれない。辛うじて見分けるとすれば、前髪の分け目が右か左か、だろう。


『さあ準決勝第2組! ギルバート、シャーニッド対カシキ、ミナヤ! どちらが決勝の舞台への切符を手にするのか!?』


 アナウンスが流れる。と、向かいに立つ双子は見事に同じタイミングで深々と頭を下げてきた。


「すいません、よろしくお願いします!」

「すいません、よろしくお願いします!」


 あまりの異口同音っぷりと腰の低さにギルバートは唖然とし、シャーニッドはにこにこと『こちらこそー』と返す。そういえば同年代のはずなのだが、この双子は何やらとてつもなく幼く見える。


 カウントが開始される。ギルバートとシャーニッドはそれぞれ身構え、双子――カシキとミナヤは詠唱の準備に入る。


『始め!』


 号令と共に、双子が同時に巨大な炎の球を飛ばしてきた。


 魔導師を相手に真っ向から飛び込んでいくのは無謀だ。短期決戦を得意とするギルバートとシャーニッドでも、一撃目は様子を伺う必要がある。


 その場を飛びのいて炎を躱したふたりであったが、火の魔術は絶えることなく飛来する。ギルバートも魔術で応戦したいところであるが、ここまで圧倒的な火力の差があると、ギルバートの魔術が真っ向から打ち破られてしまうことは目に見えていた。仕方なく剣でそれを斬り払いつつ、ギルバートが顔をしかめる。


「開始早々これか……迂闊に近寄れないな」

「僕、熱いの嫌いなんだよね」


 知るか、と思わず突っ込みたくなる台詞とともに、シャーニッドが賭けに出た。大きく双子魔導師の片割れ――分け目が右のカシキ――との間合いを詰める。肉薄してしまえば、魔導師は手も足も出ない。


 はずなのであるが、シャーニッドの試みは二重の意味で失敗した。ひとつは、カシキの詠唱速度が常軌を逸するほど速かったこと。もうひとつは、すぐさま分け目が左のミナヤが援護に入ったのだ。


 シャーニッドはすぐに身を退いた。ギルバートも隙を突いてミナヤに近づこうとしたが、あまりの火力でさすがに手も足も出ない。


「すいません、ほんとごめんなさいっ」


 カシキが涙目で謝りつつ、シャーニッドに向けて特大の炎を打ち出す。回避には成功したものの、つづく爆風によってシャーニッドの身体が浮いた。


 爆音。


「シャーニッド!」


 ギルバートが叫ぶ。しかしながら、シャーニッドの安否を確認する暇もなくミナヤの攻撃が襲い掛かる。


 魔術の基本と呼ばれる炎。扱いは割と容易といわれる炎属性魔術の、この双子はまさに専門家といえた。そう言う意味では、希少な雷属性の魔術を扱うユリアナより優れているだろう。


 おまけに、双子特有の連携なのか、必ず互いのアシストが入る。本人に隙があっても、片割れが援護するので近づけるわけがない。


 先程の爆発にシャーニッドが直撃し、戦闘不能の状態になってしまったなら――もはや勝ち目は薄い。


「残念、僕は意外としぶとい人間だよ」


 湧いて出たかのような無造作さでふらりと爆炎の中から姿を見せたのは、間違いなくシャーニッドであった。掠り傷は負っているが、手にはしっかりと刀が握られている。戦意もある。


「さすがだ」


 親友の姿にギルバートは少し微笑み、双子魔導師を見据える。ふたりは怪我をしているシャーニッドを見てあたふたし「ごめんなさいすいません」と叫んでいる。気弱なようでいてとんでもない魔術をぶっ放してくるあたり、只者ではない。


「一連の動きでコツは掴めたな。どちらか片方を攻撃して防がれてしまうのなら……」


 ギルバートの言葉の続きを、シャーニッドが受け取る。


「両方同時に、攻撃してしまえばいいね」


 双子の生来の呼吸に劣らぬ、親友同士の連携の見せ所だ。


 予備動作なく、ふたりは同時に地面を蹴った。


 あっ、と観客席から声が上がる。疾走。驚くことに速さがまったく同じである。カシキとミナヤの詠唱が始まり、同時に打ち出される。それを、ギルバートとシャーニッドはそれぞれ剣で弾き飛ばした。二撃目は軽く上半身を反らして回避。


 肉薄。


 まったく同じ剣の軌道。滑らかな動きで突きつけられた、二筋の銀色の光。


 カシキとミナヤの首元にはそれぞれギルバートとシャーニッドの刃があてがわれており、双子魔導師は「ごめんなさぁい!」と戦いぶりにそぐわない情けない悲鳴を上げたのだった。


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