2・相棒と友
三日間の休みを言い渡されている俺は後二日の休みをどうしようか思案していた。いつもなら外に出て剣の型でも確認しているところだが、いかんせん、身体を休めろと言われているし、メイドのサーシャが許してくれそうにもない。
それに加え、サーシャが「魔法を使うのも、勉強するのも少しは休んで下さい、いいですね? いいですよね? わかりましたか? わかってくれて良かったです」と言いながら全ての教材や参考書や魔導書を取り上げられてしまっている。
そんなこんなで、暇を持て余していた時だ。俺の唯一と言っていい男友人のシャーニッドが家に訪れて来た。
「やあ、ギルバート。辛気そうな表情だね。
学園長に呼ばれたらしいね?」
「……シャーニッド、どこでその情報を?」
学園長に呼びたされたのは昨日のことである。昨日も休日で学校はなかったはずなのに、そんな情報を持っているシャーニッドに俺は訝しむ。
「僕の可愛いアイリスが教えてくれたんだよ。本当に兄思いのいい妹だよ、アイリスといえばね____」
「その話は後で聞くとして、何か用があったんじゃないのか?」
このパターンになるとシャーニッドは止めなければ7時間は語っている、流石にそれはやめて頂きたい。
「あ、あぁ、そうだったね。
いや、ギルバート、学園長の話って学園長対抗戦のことだよね?」
「あぁ、そうだったな、半分は」
「半分は? いや、まあ、その話は後にしよう。その話の中で今回の学園対抗戦のルールや競技については説明はあったかい?」
「ん?」
そういえば……一切なかった気がする。
「いや、なかったな」
「なるほど、それは『良かった』」
「良かった?」
「ええ、ギルバート、今回の学園対抗戦はね」
シャーニッドは一拍おいて言った。
「____二人対二人のタッグマッチなんだよ」
「はぁ!?」
シャーニッドはやれやれと肩を竦めながら説明に入る。
「学園長の言い分では、『最近は騎士団の新人になかなか団体行動や協力し合うことができない人が多くなって困っている。しかし、騎士団に入れば一人での行動は殆ど無くなる。だからこそ、この大会を通して協力して勝利を勝ち取るということを諸君等には身につけてほしい』だそうだ。
それと『大会に参加するものは10日以内にペアと一緒に大会の受付に学園長の元へ来ること』とも言っていたね」
「……お前がその話しを持ってきたということは」
「流石、親友、その通り。
僕とペアになってはくれませんでしょうか?」
少しの沈黙、いや、刹那の、と表現した方が適切だったかもしれない。しかし、少なくとも俺は長い時間思考を停止しなければいけないような事態だったのだ。
「……そ、それは願ってもないことだが、お前はいいのか? 仮にも貴族が平民なんかとペアになって」
タッグマッチは基本的に同じ身分同士ですることが暗黙のルールみたいになっている。これは身分が上のものが下のものと組むと連携以前の問題に発展する恐れがあるからだ。
「構わないし、僕の……いや、僕の父様と同じ階級の親を持つ生徒は騎士科に居ないしね。
____なにより、足を引っ張るような輩とは組みたくないよ」
そうだ、そうだった。シャーニッドは良くも悪くも実力史上主義なのである。
実力がないなら貴族でも容赦はないし、逆に実力……または、努力をしているものにたいしては、身分関係なく接してくれる。
まぁ、そんなやつだからこそ、俺と付き合っていけるのかもしれない。
「そうか……なら、断る道理は無いな。
よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします、相棒」
右手を差し出され、俺はその手を右手で握り返す。
剣士らしいゴツゴツした皮膚の感覚が手から伝わってくる。
それは力強さと一緒に、頼もしさがあった。