第六章~さぁ……戦争をしよう~
集え戦友よ! そして戦え! コレは戦争だ、否! 大戦争だ! 一心不乱の大戦争だ!
文章を読むことを忘れ、外で遊ぶことも忘れ、偏見だけでモノを言う退屈な人間たちに我らの軍靴の音を思い知らせてやるのだ! ハイル、ノベル! ハイル、ノベル!
武器は手にしたか? 紙は? 手にしたのなら征くぞ!
大革命だ! 小説家や漫画家を見下す姿勢の現代社会を転覆させるのだ!!
………………………、
スンマセン、調子乗りました。アホなこと言いすぎました。ゴメンナサイ。
「まずは一人目」
壁に激突し、そのまま倒れ適応しなう飛鳥を横目に響介はそう言った。
「お次は、と」
響介は二人に注意を払いつつ追い打ちを掛ける。が、飛鳥はすぐに上体を起こし、反撃に刀を横に一閃する。
「おっと危ねぇ」
反撃が来ることが分かっていたのか響介は軽口をたたきそれをあっさりと躱す。しかも避け様に棍で飛鳥の側頭部を殴る。
「がッ……‼」
飛鳥はモロに頭に衝撃を受け、短く呻くとそのまま気を失う。
「はいイッチョ上がり」
そう言って響介は棍を投げ捨て、謙之に殴りかかる。
「っ⁉」
響介が武器を捨てた事に驚き謙之は一瞬怯む。響介の素人丸出しのパンチをしかし謙之は躱す。
「おいおい。武器を捨てて来るなんて、随分と甘く見られたものだ、な‼」
謙之はそう言って響介に拳を叩き込む。それを響介は体を捻り、腕で払う。
「おっと、危な――だっ⁉」
体を捻り、無理な体制で謙之の拳を防いだため、響介は受け身も取れずに床に倒れ、頭を思い切りたたきつける。
「――っ‼ ――っ‼」
患部を押さえながら痛そうに転げまわる響介。
「……く、くくく。やるな。まさか俺にダメージを与えるとは……」
どこのラスボスだよと言うツッコミがそこかしこから来そうな発言を、自滅した響介が偉そうに言う。というか、あからさま過ぎてむしろザコキャラかイロモノである。
「誰が、ザコキャラだコラァ‼」
「……誰に向かって言っているんだ。お前?」
響介がアホな事をやっているため、謙之に怪訝そうに訊ねられる。
「あー、うん。気にすんな。気にしただけ損するぞ」
面倒臭そうに、響介は返す。
「で、何だって? 武器捨てられてご立腹ってか」
「当り前だろう。武器を捨てられれば『お前なんか素手で十分だ』とバカにされているようなものじゃないか」
そう言いながらも殴る事を止めない謙之。
「そーかい? 俺がそれやられた時ゃ『ラッキー、完全に慢心してやがる。コイツ馬鹿だ』て歓喜しまくったがね」
謙之とは真逆の事を響介は言った。そういうものは人によって違うのだから仕方がないのだが。
「でもまあ、ココまでやっても一発も当らずに避け続けるなんて、凄いとしか言いようがない訳だがな」
謙之は本気で拳をふるっている。更に謙之の攻撃の間隙を縫うように香織も木刀で襲ってきているというのに、余裕の表情で軽々と躱されては怒る気にもなれなかった。
「……全く、ちゃらんぽらんな癖して、強過ぎよ。アナタ」
香織が響介の後ろで感心したような、呆れたような感じで呟く。
「むしろ、お前さんらが型にはまり過ぎてんのが悪いんじゃね? いくら強くても、そんな単調なテクじゃ、誰も喜ばねーよ」
もっと変化球とか入れなきゃ。と嘯く響介。
「ま、ルール無用の喧嘩で鍛えたんじゃねーンだ。そーいった事は無理だろーがな」
そういって響介は謙之の顔面目がけてに殴りかかる。しかし謙之はすぐにそれを難なく避けきる。
「喧嘩じゃ、こんな事もありなんだゾ?」
響介は、そう言うなり腕を曲げ、謙之の横っ面に裏拳をかます。
「ぐぁ⁉」
予想外の攻撃に、謙之は反応し切れずにモロに拳を受ける。
「で、こっから連撃に入る……と」
そう言って響介は追い打ちを掛けるように続けざまに攻撃を繰り返そうとする。
まずもう片方の手で再度謙之の顔面を殴り、その勢いのまま脇腹に膝蹴りを入れる。蹴りを入れた足で謙之の足を踏みつけ、逃げられないようにしてから顔や腹、胸を容赦なく殴り続ける。
謙之もされるがままと言う訳ではなかった。足を踏みつけられた後も、何とか反撃しようと殴ってはいるが、全て片手で払われ、ガードをしても直線的でない響介の拳はそれをすり抜けて謙之を殴るため、防ぎようもない。
「必殺、“これで終わりだ‼ といっても大体、終わる事はないけどアッパー”」
響介は、訳の分からない事を言う。謙之はそれを聞き、すぐにアゴを両手でガードするが、響介は言葉とは裏腹に鳩尾へ渾身の膝蹴りを入れ、謙之が体をくの字に折り曲げた所を後頭部に肘打ちをかます。
「って、アッパーじゃないじゃない‼」
それを見て香織が大声でツッコム。そして謙之は、そのまま意識を失う。
「というツッコミは受け付けません」
響介はそう言うと、倒れる謙之から一歩さがる。そして、謙之を引きずって隅まで持って行くと、また棍を拾って香織の元まで行く。
「アナタって、心底イヤな奴よね」
香織は、木刀を構えながら響介にそう言う。響介は、そーかい。と言って棍を肩で担ぐ。
「さて。そっちのサムライガールも目を覚ます頃合いだし、第二回戦やりますか」
寝転んでいる飛鳥を見ながら響介がそう言う。
「ん……、くっ」
響介の言うとおり、飛鳥が目を覚ます。
「痛っ……」
側頭部に走る痛みに顔を歪め、何とか体を起こす。
「よォ。おはよーさん」
そんな飛鳥に響介はイヤらしい笑みを浮かべながらそう言う。
飛鳥は、最初は状況が呑み込めずに困惑した表情を浮かべたが、すぐに自分がどうなったのかを思い出し、悔しげに歯噛みをする。
「……自分は、負けたんだな」
声を震わせながらそう呟く。
「いや? まだ負けてないだろ」
「……は?」
響介の言葉に、飛鳥は訳が分からない問った風にポカン、と口を開ける。
「いいか良く聞け、小娘。いや、サムライガール。一度気絶した程度で負けになるのなら、そこな会長ちゃんはもう、既に俺に負けた事になる」
そういって香織を指さす。
「え? 私?」
いきなり名指し(?)され、呆けたように訊ねる。
「おう、お前だ。……そこの貧乳会長だってさっき俺に気絶させられたんだ。だのに見てみろ。まだ負けてないと第二、第三ラウンドまで開きやがって『〝君って厚顔だねって言われた事無い?〟って訊かれた事無い?』て、訊いてみたいよ」
ヤレヤレだぜ。と言いたげに肩を竦め、首を振る。
「ねぇ、それって本人の前で言うこと?」
「ま、かくいう俺も、まさかの不意打ちでオネンネ、させられちまったわけだが」
「無視する。ここで⁉」
叫ぶ香織を放置して話を続ける。
「だからつわ、……ゴホン‼ つまり、何が言いたいかと言うと、だ」
そこまで言うと、少し考えるように一度、言葉を区切る。そして、スゥと息を吸い、
「うん。もうちょっと図々しく生きた方が楽しいってこった」
自信満々に幼い子供の様な無邪気な笑みを浮かべてそう言った。
「は? ……え、つまりどういう事だ?」
そんな響介とは正反対に困惑した表情を浮かべて訊ねる。
それを見て響介は、一気にシラケたような顔をして肩を落とす。
「ンだよ、察しワリィな。ようは負けを認めなけりゃ、1回や2回は無かったコトにしても許されんだよ」
分ったか? と、不機嫌に訊ねる。それを聞いて飛鳥は、数秒ポカンと呆けるとぷっ、と噴き出す。
「あははははっ、はっ、はは、あははははははっ」
そのまま飛鳥は大声で笑いだす。その傍で、香織が驚いて呆けている。
「……何だよ」
そんな飛鳥に気分を害しムッとした表情で響介が訊ねる。
「……ふぅ。いや、悪い。不快に思ったのなら謝るよ」
あらかた笑い終えると、指で涙をぬぐいながら飛鳥はそう響介に謝る。
「悪いな轟。それと、ありがとう」
飛鳥がそう言うと、次は響介が「はぁ?」と意味不明だと言いたげに訊ねる。
「どーいうこった? 俺がいつどこでお前に感謝されるようなコトしたってんだ? 刀か? 刀貸したときか?」
どこか慌てふためいている感じで、語気を荒げて訊ねる。
「いや、そうじゃなくて。さっき言った事、アレは自分をフォローするつもりで言ったんだろう?」
そう嬉しそうに言う。が、響介はそれに対して怪訝そうな顔を浮かべる。
「はぁ? なに言っ……」
そこまで言って響介は考えるように少し黙る。
「べ、別にそんなんで言ったんじゃねーよ! バッカじゃねーの⁉ ふざけんなよ。なに一人で勘違いしてんだ。マジ痛ェーよ‼ わっけわかんねーよ!」
いきなり顔を真っ赤にし、怒ったように語気を荒げて声を上ずらせながらそう叫ぶ。
「「……」」
飛鳥と香織が二人して同じように口を開けて響介を見る。
「……と、言えば良かったのか?」
先ほどとうって変わり、愉しそうに笑いながら訊ねる。
「ま、俺にはその気は無かったが、慰めてもらったと思うならそう思えや。思うだけなら人の勝手だ」
だがな、と響介。
「俺は今すぐにでも帰りたいんだ、家に。もういっそ俺の負けでいいから、退学届受理して俺を帰らせてくれ、頼むから」
そうは言うが、先ほどから言っている事とやっている事が支離滅裂である。
わざわざ面倒事を引き起こそうとしたり、そのまま倒せばいいのにと思う所で倒さなかったり、更には敵に塩を送ったりと本当に言っている事と矛盾の多い事をやっている。
「五月蝿いぞそこ」
不愉快だと言いたげに虚空を睨む響介。しかし、事実だ。
「それはダメよ。だって、私が許さないもの」
香織がシレッとした顔でそう言う。
「あーはいはい。分かった分かった。じゃあもう本当にメンドーなんで、さっさと再開しますか」
仰々しく両手を広げ、薄ら笑いを浮かべ、響介はそう言う。が、
「⁉」
響介は、視界の隅で動くソレに気付く。
「? どうし――」
――た? と飛鳥が訊ねようとしたが、それを無視して飛鳥へと走り寄り、彼女の腕を掴んで横へ投げ飛ばす。
「な、何を――⁉」
いきなりの行動に飛鳥は目を白黒させながら響介に文句を言おうと彼に目を向ける。その直後、身の丈3メートル程もありそうな巨躯なナニカが飛鳥がつい先ほどまでいた場所。つまり、響介が今いる場所へ、正確には響介へと、迫り、えも言えぬ速さで突き飛ばした。
響介はそのまま何度かバウンドし、壁にぶつかって倒れ伏す。
「ガ、ハッ――」
壁に叩きつけられた際に苦しそうに息を吐く。どうやらまだ息はあるようだ。
「おいおい、マジかよ……!」
哲也が、響介を突き飛ばしたソレを見て感嘆の声を上げる。
そこに居たのは、姿形が豹変した謙之だった。身長は、倍ほどになっており、筋肉があり得ないほどに膨張し、先程まで来ていた服は破け、幸か不幸か、辛うじて大事な部分は隠されていた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――‼」
響介を突き飛ばした謙之は、およそ同じ人間のモノとは思えない野太く盛大な咆哮を、まるで勝利の雄叫びと言わんばかりに張り上げる。
――ビリビリビリビリ……‼
そしてその咆哮で、大気が震え上がる。
「――っ⁉」
間近で、鼓膜だけではなく体まで震え上がりそうな咆哮を聞き、飛鳥は咄嗟に耳をふさぐ。
否、飛鳥だけではない。体育館内に居る者全員がその強大な音量に耳をふさいでいた。
「おうおう、やるねぇ、ゲホッ‼ あー、血ぃ吐いちまった。……まるでバインドボイスってか?」
謙之の咆哮が終わり、何とか起き上ると、響介が軽口をたたく。
「轟クン! 大丈夫⁉」
香織が響介に駆け寄りながら訊ねる。
「おい、会長ちゃん。アリャ何だ? ドーピングのし過ぎかなんかか?」
香織の質問を無視して質問を質問で返す。
「知らないわよ、あんなの。才藤クン……よね、アレ? 何がどうなっているかなんて、私が聞きたいくらいよ」
香織は当惑したように答える。
「……。だから薬使ってまで体強くするのは止めなさいって言ったのに。……お父さん、そんな聞き分けの悪い子に育てた覚えはないぞ」
一瞬、何か考え込むと、ふざけた調子でそう言う。
「ドーピングなんかであんな事になる訳ないでしょ‼」
「それはそうと、原因究明より先に野次馬共を避難させた方が良いんじゃねェの? おーい、中ちゃーん!」
香織を無視して響介は少し離れたにいる修三に声をかける。
「もうやってんよ‼ おら、生徒会共も手伝いやがれ」
それだけ言って修三は紅葉たちに指示を与えながら生徒たちを非難させる。響介はそれを見るや自分も避難しようとそそくさと香織から離れる。
「なぁに一人だけ逃げようとしているのよ? させないわよそんなこと」
香織がその襟首を引っ掴みながら言う。
「い、いやぁ……。ホラ、オレ一般人だし。何よりさっきのでもう体ボロボロなのよ」
引きつった笑みを浮かべながら響介はそう言うが、香織は一向に話そうとしない。
「ダメよ。あんな大量の武器を持っておいて、今更一般人だなんて言わせないわよ。それに、私たちよりああ言うのに詳しいんじゃない?」
香織はそう言うと、響介が浮かべる困ったような笑みを見て、嗜虐心がくすぐられたのかにんまりと意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「いやいやいやいやいやいや‼
俺はただのゲーム脳なだけの一般人だって。そんな詳しい訳ないだろ。『幻想神話』……あのカードだって友人から譲り受けただけで俺が作った訳じゃないし」
何よりケガ人だしさぁ。と言ってどうにか逃れようとする。
「あーら、それにしては元気そうね、アナタの体」
イヤらしい笑みを止めずに香織がグイッと襟を引っ張る。
「柳瀬さん、それ位にしたほうがいい。轟は、入学したばかりで一応は一般人なんだし」
響介を掴む香織に、飛鳥がそう言う。
「何よ篝さん。アナタまさか、さっき轟クンに助けられて変に感情移入しちゃっているのかしら?」
邪魔されて不愉快そうに飛鳥を睨みつけながら香織が訊ねる。
「俺は犬かなんかか」
響介は不服だと抗議の声を上げる。
「い、いや。そういう訳では……」
香織に予想外の質問をされ頬を上気させ、狼狽する。
「………………」
そんな飛鳥の反応を見てひとりやっちゃったと言いたげな顔をする響介。
「何よその顔は。何か言いたげね」
響介の視線に気づき、香織が不機嫌に訊ねる。響介は苦し紛れのような笑みを張り付けて返す。
「い、イヤァ。別に、何もないケドー」
そのまま香織から目を逸らす。
「……何やってんだお前ら?」
すると、いつの間にか哲也がこちらへとやって来た。
「おおテツ。助かった」
哲也を見るなり安堵の笑みを浮かべる響介。
「それはそうと、野次馬共の退避はもう済ませたのか? それなら俺等もさっさと引き上げよう」
響介がそう言うと、哲也は面倒臭そうな顔をして答える。
「それなんだがな……。一般生徒の非難はもう済ませてあるんだが、中山から正式に依頼をって申し込まれてよ」
響介はそれを聞き、脱力した声で、『依頼ぃ?』とオウム返しする。
「依頼? どういう事よ。轟クン?」
二人の会話を聞き、怪訝そうに香織が訊ねる。
「どういう事っつうか、なんの話っつった方が正しいよーな気がするなぁ」
「どうでも良いわよそんなの。それより依頼って何よ」
「何って言われてもなぁー」
香織に問われ、そう響介は面倒臭そうに頭をかきながら言う。
「色々あんだよ。色々」
「だからその色々って何よ」
「……色々は、色々だよ」
「具体的に、その色々がどういうのか教えなさいって言っているのよ」
香織は、煙に巻こうとする響介の意図を知ってか知らずか、容赦なく追及しようとする。
「おい響介。遊んでる暇はねぇだろ」
哲也が救いの手を響介に差し伸べる。
「どうせバラしてもどうかなる訳でもねぇし。言っちまえばイイじゃねぇか」
救う気は全くなかった。
「ちっ。わーったよ。じゃぁテツ、説明よろしく」
そう言って哲也に押し付けた。
「要は、説明するのがメンド臭かったんだな。……まぁいつもの事か」
呆れたように呟くと、香織に顔を向ける。
「それで、優等生。お前は何が聞きたいんだ」
「……優等生ってアナタね。……まぁ良いわ。それじゃ、依頼ってどういうことか聞こうかしら? 大の大人が、ただの学生に依頼をする理由が聞きたいわね」
哲也のつっかかるような問いに香織は軽く苦笑するとそう言った。
「……。響介は……というか、俺たちは、『轟商店』っつう所で中学の頃から厄介になっててな。……まぁ、商店っつうけど、別に物を売る訳じゃねぇ。依頼を受けて、それをこなして金をもらう。平たく言えば、探偵……何でも屋だな」
そこまで言って、少し間を置く。
「で、それを知っている中山が響介に依頼を持ち掛けてきたってトコだ」
「へぇ……。って、ちょっと待ちなさい。厄介になってるって言っていたけど、それってつまり、中学の頃から働いていたってこと⁉ 中学生がバイトなんてだめでしょ」
一瞬納得しかけ、しかしすぐに問題点を見つけ、鬼の形相で訊ねる。
「っせーな。知ってるよ、ンなもん。別にイーじゃねぇかギャラ貰ってたわけじゃね―んだしよ」
煩わしそうに響介がそう答える。
「慈善事業だよ慈善事業。いわばお手伝いだ。家が店の奴とかがよくやってるアレだよ。別に犯罪じゃねーって」
説得と言うよりは言い逃れするように言う響介。
「うっせ」
「……。分った」
響介が地の文に返している間に、香織は何か自己完結させ、そう呟く。
「なーんか、イヤな予感がものっそするな」
響介がそう呟いた直後。
「それじゃ、私が依頼をするわ」
と、香織が言う。
「ほーらやっぱり来たよ来ましたよ。女特有の訳の分からん発言がー‼」
香織の言葉に、世界中の女性を敵に回すような発言をする響介。
響介は、そのまま「うぁあ~~~~!」と気勢を上げ、頭をかきむしる。
「アホだな」
アホですねぇ。
「うるさいわね。男の子のクセに小さい事でいちいち騒がないでよ」
「あーそうかい、そーですかい。なら理由を話せ。一体全体どーいったふうに自己完結しやがったのかだけを話せ。納得いかなかったらお前今から生徒会長改めメンヘラ会長な」
響介がそう言うと、「メンヘラ……?」と意味が分からなそうに香織と飛鳥が首を傾げる。
「メンヘラって何よ。それ」
「ググれ」
香織がそう訊ねると響介は面倒臭そうに一言で返す。
「それより、オラ。さっさと話しやがれ」
「イヤよ。何で話さなきゃいけないのよ?」
「……」
「まてまて! 止めろバカ。依頼を出すって言ってる以上、一応客だぞ、落ち着け‼」
今にも香織に殴りかかろうとする響介を後ろから羽交い絞めにしながら哲也が言う。
「おい、優等生。何でも良いから、さっさと依頼内容話せって。っつーか響介テメーいい加減キレながら笑うの止めろ‼」
ニヤァ、と怒りに満ちた昏い笑みを浮かべている響介からは、不気味な怖さがにじみ出ていた。
そんな三人をの傍で、飛鳥はよく分からないと言った顔で首を傾げている
「何でアナタに命令されなくちゃいけないのよ」
「だからそう言う問題じゃねぇだろ‼ こんなバカやっている内にもあそこで暴れてる野郎がこっちに来るかもしんねぇんだぞ⁉」
哲也が切羽詰った感じに謙之を顎で指しながらそう言う。
「…………分ったわよ」
先ほどから床を殴る蹴るし、壊し暴れている謙之に目をやり、不承不承と言った感じで頷く。
「依頼内容は、あのどういう理由でかは知らないけど、突然暴れ出した才藤クンをどうにかして止める事。それだけよ」
「おら、響介。依頼内容も聞いたし、さっさと仕事に入ろうぜ?」
「よし。だが断る」
「あのなぁ。いい加減機嫌を直せよ。久しぶりの仕事だろ」
哲也は、完全に根に持っている響介に、呆れながらそう呟く。
「うっわー。何やるき出しちゃってんの、この駄犬。この子怖いわ。
大体、まずあの状態になった理由なんかを解からねーと、対策のしようがねーじゃねーか。能力の暴走にしても、だ。ああなる能力の心当たりなんざごまんとあるんだぞ?」
それをどうしろと? と目で訊ねる。
「彼の能力なら、私が知っているわよ。っていうか、学園内の子たちの能力なら殆ど知ってるわよ」
「…………チッ。たとえ、それで能力が分かったからって、そっから解決策導き出すのにどのくらい時間が掛かると思ってんだ?」
香織の発言に一拍おいて舌打ちするとそう言う。
「やってみなきゃ分かんねーだろ」
「ヤだよ。ダリィもん」
「こっちがやんねーとやられるかもしんねーんだぞ。それに、『受けた依頼はやり遂げる』がオレ達のポリシーじゃなかったのか?」
「そりゃ確かに商店のポリスィーはそうだがよ、まだ受けたとは一言も言ってねェだろ」
「なら、お前の代わりにオレが受けるぞ」
響介の返しが読めていた哲也は、間髪入れずにそう答える。
「……お前、日に日に口達者になっていくよな」
そう言って響介は観念したように首を振る。
「オーケイオーケイ……しゃーねーか。かったりぃが、やってやらぁ」
あのデケェのもこっちに来てるし、横目でこちらへと歩み寄って来る謙之を見ながら呟く。
「ちょ、何でアイツがこっちに来てやがんだ⁉」
「こっちが聞きてぇよ。……だがまぁ、これ以上悠長にしていたら、やられちまうのは明白だわな。……行くぞ、テツ」
そう言って謙之に向かっていく。
「あっ、ちょっと! 能力の内容は聞かなくて良いの⁉」
「大体の予想はつくわ‼ やりたくなかったから良い訳こねてただけじゃボケ‼」
言うだけ言ってそのまま走り出す。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――‼」
響介たちが自分に迫ってきているのが分かるのか、またも咆哮をする。
「うっせーよタコ。この狂った人型蓄音器」
そう言って響介は、三日月形に湾曲した剣、ハルパーを床から引き抜く。
「■■■■■■■■■■■――‼」
それを見た謙之は、短い咆哮と共に迫りくる響介を殴り飛ばそうとする。
「馬鹿が、そんなデケェ図体で攻撃したって油断さえしなけりゃ躱せるわ」
そういって地面に四つん這いになり拳を躱し、床に刺さっている別の剣を、放たれた謙之の腕へと突き立てる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――‼」
あまりの激痛にか、それとも別の何かにか、叫び声をあげる。
「だーかーらー。うるせぇっツッてんだろ」
苛立たしげな笑みを浮かべそういうと、響介は謙之のハルパーで首を刈り取ろうとする。
「殺しちゃ、意味ないでしょうがぁぁあああああ‼」
いつの間にかそばにいた香織が背後から響介の脇腹に回し蹴りをかます。
「うぼぁ――――――⁉」
奇怪な悲鳴を上げ、響介は吹っ飛ぶ。
「なにっ―――――⁉」
運悪く、響介が飛んで行った方向に哲也がいて、響介とぶつかる。
「がっ!」
「ドム⁉」
哲也と響介は短い悲鳴を上げ、床に落ちる。
「イッツ~~」
「な、ナイスアシスト。テツ」
落ちた際ワザと哲也が下になるよう仕向けた響介はそう言う。
「良いから早くどきやがれ」
どうやらその事に気付いていない哲也はそう促す。
「あいよ」
「あと、この仕事が終わったら覚えておけよ」
「に、にゃんのことかな~」
「とぼけんな。テメェわざと俺を下敷きにしやがっただろう」
どうやら、しっかり気付かれていたようだ。
「あーはいはい。分かった分かった。後で少年が落とし前つかるから、それより会長ちゃんをよろしく」
そういって、今にも襲われそうになっている香織を指さす。
「……あのバカっ。なんでこうなる事分ってて助けようなんて思うかね」
それを見てそう呟きながら哲也は駆ける。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――‼」
「はい、ココから先立ち入り禁止よ~」
謙之が香織に殴りかかっている所を響介はそう言うと、笑いながら謙之の拳を片手で受け止める。哲也は、その間に香織を抱き上げ少し離れた場所えと逃げる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――……⁉」
謙之は、自分の放った拳が受け止められたことに驚く。
「まったくよー。驚く程度の理性があるんなら、攻撃する相手くらいは見分けるくれぇやって欲しいわな。……ま、そんなこと言っても今のアンタにゃ分からんだろうがね」
そういって響介は謙之を投げ飛ばす。
「ソウ、――――レ!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――⁉」
――ドスンッ! という音と共に十数メートル離れた所に巨体が落ちる。
「おい響介‼ テメェそれじゃ、オレがコイツ助けた意味がねーじゃねーか!」
「っていうか轟クン、アナタそんな力どうやって出したの⁉」
哲也と香織が響介のでたらめな行動に各々の文句を投げつける。
「あーもー、うっせーな。こちとら命がけじゃ――ゴバァッ!」
最後まで言い切る前に響介は大量の吐血をする。
――ズシャーッ!
直後、響介の体中から血管を破裂させ、皮膚を突き破り大量の血液が噴出する。
「なっ、轟クン⁉」
響介のいきなりの負傷に、香織は驚愕する。
「˝あ、――づ……」
「轟、大丈夫、――じゃあ……ないよな。なんでこうなったんだ?」
飛鳥が心配そうに駆けつけてそう訊ねる。
「い、イヤン。サムライガールったら……そんなワガママバディを間近で見せつけられたら、轟さんもう興奮せざるをえない」
「何馬鹿なこと言っているんだ⁉ そう言う状況じゃないだろう!」
息も絶え絶えと言った感じでアホな事を抜かす響介に飛鳥は叱りつける。
「ま、まあまて……お嬢ちゃん。そう憤るな」
「あのな。……ておいっ! なに起き上っているんだ⁉」
既に瀕死の状態だと言うのに、響介はなおも折れる事無く立ち上がる。
「いやー。こういうの、結構慣れてんだよねー。さっきの使うと、その代償で体がボロボロになるワケよ」
「だからってなぁ……‼」
「そんな事より、自分の――」
最後まで言い切る前に、少し離れた所から悲鳴が上がった。
「! 柳瀬さん⁉」
悲鳴の主が香織だと分かり、飛鳥はそちらに振り向く。
「な……」
そこには、膝を屈し、右足に手をあて、苦痛に顔を歪める香織と、無表情にそれを見下ろす哲也の姿があった。二人の周りには、誰も居ない。つまりそれは、
「何をしている。加賀哲也!」
飛鳥が怒鳴る。
――つまりそれは、哲也が香織に何らかの攻撃を加えたという事だ。
「……。ただコイツの足を折っただけだ」
飛鳥を視界に入れると、端的にそう答えた。
「これ以上会長ちゃんに好き勝手に動き回られて邪魔されちゃかなわんからな。俺がテツに頼んだ」
飛鳥の隣で響介がそう言う。
「っ!」
「ま、言いたい事は分かるし、後でいくらでも聞いてやるよ。後があればだけど。だが今は、目の前の問題を片付けた方がよさそうだ」
謙之は体勢を立て直し、こちらへと肉迫していた。
「さて……と、依頼主はアレを殺すんじゃなく、あくまで生かしたままの無力化、だな。……なら」
そこまで言うと、謙之が迫ってくるのも気にせず悠長に刀剣を見回す。
「なるだけ痛めつけて弱ったところを『○○ゲットだぜ!』的にやるのが最善か?」
「おい、何を言っているんだ?」
「よし、サムライガール。お前も手伝え、アレを止めるぞ」
困惑する飛鳥に響介がそう言う。
「手伝えって……。イヤ、分った。何とかしてみる」
飛鳥は当惑していたが、覚悟を決め、そう頷く。
そして、素手のまま刀を構える体制をとる。すると、飛鳥の手から何か力のようなモノ(・・・・・・・・・)が放出され、霧散していく。その霧散する一部が飛鳥の手元に緩やかに収束し、刀の形を成していく。
「………………」
響介はそれを見て、恍惚とした笑みを浮かべる。
「…・・・よし」
ソレ(・・)が完全に刀の姿になると、飛鳥は頷き構え直す。
「■■■■■■■■■――――‼」
それと同時に謙之が襲いかかる。
「おっと」
「くっ!」
響介と飛鳥はお互い別の方向にま回避する。
「■■■■■■■■■――――‼」
躱された謙之はそのまま体を捻りその遠心力で腕を振り回し、響介を殴る。
「――――ガッ⁉」
受け身も取れずに響介は薙いだ腕に殴られる。そのままサッカーボールのように何度もバウンドして十メートルほど飛ばされる。
「■■■■■■■■■――――‼」
追い打ちをかけるように響介の方へと跳躍し、そのまま踏み潰す。
「なっ、轟ぃ!」
飛鳥の悲痛な叫びが響き渡る。
もうすぐクリスマスですね……。非リアな私には苦痛なことこの上ないです。
そんなことより! クリスマスが終わればHELLSINGのOVA最終話が発売されますね! ワクテカです。そのせいか前書きがPVの少佐っぽくなってしまっています(失笑)。
それでは皆さん、ここで筆を置きたいと思います。次回をお楽しみください。(筆、12月19日)