第五章~やっぱ響介はチートだろ~
お久しぶりです皆さん、元気にしていましたか?
まあ、そうはいってもそこまで久しくもありませんが(笑)。
んー……、
こう、なんか話すネタってだんだんなくなりますよねー。それでは、プロローグ第六章、お楽しみください。
それを見ていた香織は、「ほえ?」とカードをキャプターする某漫画の主人公の女の子のように呆けた声を上げる。
「篝、さん?」
香織は、響介を蹴り飛ばした少女の方を見てその名前を呼ぶ。
「流石に、多対一と言うのは気が引けたけど、準備もできていない相手に不意打ちを掛けるような輩なら、罪悪感も消えるものですね」
卑怯にも響介を死角から攻撃した少女、篝飛鳥がとてつもなく綺麗言を香織に言い訳がましく言っていた。
「? 誰か自分に何か言ったか?」
飛鳥は不思議そうに周りを見回しながら呟く。……チッ。コイツも勘の良い奴だな。
まあ良いか、と飛鳥は思い、響介の方へ向き直る。
「自分、篝飛鳥がこの決闘に参戦する。お前が言った事だ、良いな。轟響介?」
「……(チーン)」
飛鳥が訊ねるが、響介は倒れたまま反応しない。それ所かまったく動こうとする気配がない。
「……」
「……」
『……』
「……(死―ん)」
香織、飛鳥、その他大勢が、気まずい空気の中に居た。最後の沈黙は言わずもがな響介である。
「お、おい。轟?」
沈黙が苦しくなったのか、飛鳥が死体に近寄り話しかける。
「おーい?」
響介の顔を覗き込むように(俯せだけど)しゃがみ飛鳥は話しかける。
――ガバッ!
「だっ⁉」
響介がいきなり起き上ったため、飛鳥の顎に響介の後頭部が直撃した。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――……‼」
立ち上がるなり響介は突然声を張り上げて高笑いする。
それを見て皆が一斉にギョッとする。
「遂に。……遂に我は、桃源郷へと辿り着いたぞぉぉぉぉぉオォォおおオオおぉぉぉぉぉ……‼」
アホな事を発狂する響介。そんなアホの姿を見て突然の事で唖然とする者や、頭がおかしいんじゃないかと引いている者が沢山いた。
「アホゆーなぁ‼ ……って、アレ?」
またも訳の分からない発狂をすると、響介はようやっと我に返った。
「チクショウ‼ 桃色パラダイスに辿り着いたと思ったらこれかっ‼ 現実は……、現実は何と残酷な事か……‼」
涙を流しながら、心底悔しそうに泣き叫ぶ姿は、とてつもなく見苦しかった。というか、ウザかった。
「何訳分からないこと言ってるのよ?」
香織は引き気味というか完全に引いた感じで訊ねる。
「うるせー‼ 貧乳にこの悲しみが分かるか! 俺は! 今、絶望してんだ。話しかけんな」
香織を一瞥だけするとそう答えて再度ブツブツと文句というか呪言というかを呟き始める。
「アナタねぇ、そういう身体的な特徴でいちいち罵倒しないでくれる⁉」
貧乳という単語でブチッとキレた香織は、そのまま殴りかかろうとする。飛鳥はそんな香織を後ろから羽交い絞めにして宥める。
「や、柳瀬さん、少し落ち着いて。ここで怒ったら轟の思う壺ですから‼」
飛鳥は宥めようとしているのだろうが、香織の背中にあたる、彼女とは真逆に豊満で柔らかなナニかが、ムニッという効果音と共にとこれでもかと言うように圧迫しているため、香織を逆上するよう促しているだけでしかなかった。
「真の敵は身内に居たかーっ! 篝さんも私の敵だー‼」
がぁー!
叫ぶと、香織は飛鳥を引き剥がすとそのまま振り返り仲間に攻撃を開始する。
「ちょ、ま、待ってください。何がどうしたんですか⁉ 自分が何かしましたか⁉」
悪意がない分、更に酷いのではなかろうか。飛鳥は香織の凶行の意味が分からず動揺し逃げ惑う。
「おーう。やれやれー。キャットファイトじゃー。ギャハハハハ」
右手拳を上げ、楽しそうに振り回し響介は二人に野次を飛ばす。
響介は、ハッと何か閃いて呟く。
「貧乳生徒会長VS牛乳娘、どっちが勝つか賭けるのも面白そうだな」
いつか背中を刺されるぞ、この男。こう、刃渡り二十㎝を軽く超えた出刃包丁辺りでザグッと。
すると響介の独り言が聞こえたらしく、香織と飛鳥は鬼の形相で響介に詰め寄る。
「誰が絶望的(主に胸が)ですって⁉」
「誰が駄肉ホルスタインだ‼」
別に誰もそこまでは言っていない。
「どわっ⁉ ……誰もそこまで言ってねぇよ」
香織は木刀で、飛鳥はいつどこから取り出したのか柄も鍔も、その他の装飾を一切されていない裸のよく切れそうな刀で襲いかかってきたが、響介はそれを間一髪で躱した。
「ちょっ、わっ……だっ⁉」
香織の攻撃を避ければその隙に飛鳥が容赦なく切りかかる。およそ意識して息を合わせている訳でもないのに、二人の息は文字通りに阿吽の呼吸だった。
が、響介も負けてはいない。最小限の挙動で二人の攻撃を躱し続けるのは困難と解かり、すぐさま二人の得物の間合いの外へと逃れ、その距離を保ったままであった。
「おいおい、コレじゃ――のわっ⁉ ……っと。小噺する暇さえねーじゃねーか」
まだ先ほどみたく戯れ言をのたまう気だったらしく、響介は意気消沈していた。
「しかも周りをよく見りゃ――おっと……他の奴らもやる気満々だなぁ、おい――ぃ⁉」
しかし小噺する暇はなくとも小言を言う暇はあるらしい響介は、周囲を一瞥してそう呟く。
なるほど確かに、周囲の者達も隙あらば参戦しようと意気込んでいる様子であった。
響介は面倒臭そうに周囲にも気を配らせ、哲也に大声で話し掛ける。
「おい、テツ! その辺俺の武器が落ちてっからちょっと拾ってこっち投げてくんねーか」
哲也は面倒臭げに溜め息を一つ吐くと、辺りを悠長に見回し、別々に転がっている短剣二つを取りに行く。
短剣を両方とも拾った哲也は、響介に向かって投げる。
「死ねぇ‼」
殺意満々で投げられた二つはえげつない勢いで回転しながら響介に飛んでいく。しかし響介に届く前に的にカードに戻されてしまい、殺す事は叶わなかった。
「ちっ」
哲也はそれを見て残念そうに舌打ちをする。
「テメー殺す気か⁉ つーか殺す気だったろ‼」
カードに戻った二枚を、二人の攻撃を避けつつ懐に戻しながら響介は叫ぶ。
「お前に言われたとおりに渡しただけだろうが。文句言うな」
腕を組みながら、オレは悪くないとでも言いたげに返す哲也。
「テメェ! さっき投げる時、死ねって言ったよな⁉ しかもその後に俺がカードに戻したら舌打ちしやがりましたよなぁ⁉」
言葉尻が雑な敬語になっていた。響介は必死そうにそう叫ぶと、飛鳥の一撃がカスってしまい、少量ではあるが出血をした。
「いって。この野郎何してくれんだ‼」
キレた響介は、そう言って再度来る飛鳥の攻撃を紙一重で躱し、次に飛んでくる香織の一閃をあっさりと掴み取ると、飛鳥の持つ裸の刀の横腹を手刀で叩き、へし折った。
バキンッ‼ という音と共に真っ二つに折れた刀を見て、皆が驚愕の顔をする。
「なっ……⁉」
突然の事に驚き、飛鳥は戦慄する。
(さっきまで避けるのが精一杯だったはずなのに。コイツまさか、手を抜いていたのか……⁉)
使えなくなった物にはもう用はないとでも言いたげにそれを投げ捨てる飛鳥。
へし折られ、投げ捨てられた刀は、ボロボロと風化し、十秒としないうちに跡形もなく消えていった。それを見た響介は、興味ありげに口の端を吊り上げる。
「ほほう。あのオモチャ、お前の能力かなんかで作られたものか?」
風化し、消えていった刀をオモチャと称し、響介はそう訊ねる。
「だったら何だ」
そう訊ねながら、飛鳥は新しい刀を出す。今度は、柄や鍔などのちゃんとした装飾も付いた「刀」であった。
飛鳥は刀を構えると、響介を見据える。
「……?」
そこで飛鳥は響介の異変に気付く。
飛鳥の能力を見た響介は目を剥き、飛鳥を睨むように凝視する。そして、ニィッ、と嗤い、
「……………………見ぃつけた」
――――ゾクゾクゾクーッ! その呟きに飛鳥はえも言えぬ恐怖を感じた。今まで感じた事の無い。ねっとりとした粘液のような何かが体の周りを包み込むような気持の悪さ。飛鳥はその感覚に二、三歩後ろへと飛び退いた。
「……篝さん?」
香織が不思議そうに後ろに下がった飛鳥を見つめる。
(今のは、自分だけが……?)
香織の呑気極まる反応を見て飛鳥はそう思った。そして、先程の気持ちの悪さの発信源であろう響介の方を見ると、もう先ほどのような感じはしなくなっていた
「へぇ。今度もまた野太刀か。……メジャーすぎじゃね?」
呆気にとられる飛鳥を無視して響介はそう訊ねる。
「あ、ああ。でも、自分はこれが、けっこう使いやすいんだよ」
ハッと我に返ると、飛鳥はそう言って何度か素振りをする。
「そうかい? 俺は刀ならそっちより小回りの利く打刀の脇差の方が、扱いやすくて好きなんだがね」
肩をすくめながら響介はそう言うと、周りの輩に向かって声をかける。
「さっきから二の足踏んでいたお前ら。……そう、お前らだ。さっき俺は全員相手してやるっつったよな?
会長ちゃんの味方したいんなら、あそこのサムライガール見たく参戦しても良いんだぞ?」
響介がそう言うと、まるでそれが鶴の一声だったかのようにわらわらと香織の周りに集まっていく。ほとんどの者が香織に付いた。それを見て響介は「ヒュ~」と呟く。
「凄いねぇ。会長ちゃんのカリスマ性って。それとも、俺がただ嫌われてるだけかな?」
相手の量にまったく動じた様子もなく軽口をたたく響介。
「この量相手じゃ、コレやったら面白そうだな」
そう言って響介は懐からまたも何かを取り出した。
「……ネギ?」
誰かがそう呟いた。
響介が手にしている物は白い根元の部分が多く、枝分かれした先端の緑の部分がこれでもか‼ と言うほどに青々とした根深葱であった。
この根深葱は、ネギの代表と言っても過言ではない。少なからず私は細身で緑の面積が広い葉葱や青葱よりも根深葱の方が好きだ!
……ゴホンッ。それを見たほとんどの者は、何故ネギを? と首を傾げている。が、少数派にはあのネギがどういった方法で使われるのか予想でているらしく、顔を真っ青にさせ、全身から脂汗をダラダラと流していた。
そして彼らは皆、まるでカミナリサマに本当にヘソを持って行かれると信じきっている子供がヘソを隠すかのように、尻に両手を当てていた。
「ちょっくらミリ単位で本気出して、テメェら全員ネッギネギにしてやんよ!」
そう言って響介は全く状況が掴めていない者や恐れ慄いている者を無視して動き始めた。
そして、たったの一秒後、体育館の中は地獄絵図と化していた。
香織の側についていた男衆の全員の肛門に、太々(ふとぶと)としたネギがズボンや下着を突き破ってズップリと刺さっていた。
「ギィヤァァ――――――………………‼‼⁉」
いきなりの事で男たちは訳も分からず叫び声を上げ、のた打ち回った。
「我流葱術、『葱で串刺(ネギ・DE・ツェペシュ)』。……決まった」
アホがアホな事を言っていた。しかも串刺しと言うよりぶっ刺しである。
響介は香織たちの後ろへといつの間にか移動して、なお且つ特撮物のヒーローがやるようなポーズを決めているという状態であった。
しかもよく見ると、全てのネギからはホクホクと湯気が立っていた‼
つまり、彼らの肛門に深々と突き刺さっているネギは皆、茹だっていると言う訳であり、ブッ込まれるだけでも痛いと言うのに、更にそのネギがもの凄く熱いという事は、直腸の火傷が免れない訳で……!
「つまりは、文字通りの地獄を味わうってわけだ。クソするのも儘ならなそうだし」
だから地の文に返すなと。
……まぁそれはそれとして、そう思うのであれば何故やったのかと言うか、せめて冷めたままでも良かったのではないかというか。
「あらかた片付いたな。……それで、生き残ったのは男は一人だけか」
……訂正。ほとんどの男衆がやられて、一人だけ生き残っていた。
響介は唯一の男の生き残りを見ながら軽口をたたく。
「まさか、ネギをこんな風に使うとは思わなかったがな」
男は自分の肛門に差し込まれそうになったホクホクのネギを手に取りながら、感嘆と侮蔑の混ざった声で呟く。というか、熱くないんですか。それ?
「まったく。お前は食べ物を何だと思っているんだ?」
男は、ごもっともな正論を言う。
「そりゃまあごもっともな話だ」
ヘラヘラと笑いながらそう答える響介。( ※ ネギは後ほどスタッフが美味しく頂きました。)
「というか、何故自分たちには攻撃してこなかったんだ?」
飛鳥が、何故か不愉快そうに訊ねる。
「いや、だって。それやっちゃうと色々とアウトだろ。野郎相手なら笑いで済ませるけど、女相手だとR指定入んだろ? 最悪、メディア界で叩かれるし」
そうは言うがすでにR指定入っているような気もするが。
「納得がいかないぞ。コレは真剣勝負だろう? ならばなぜ手を抜いたことをするんだ?」
不満を漏らす飛鳥。
「そー言うなって。気にするだけ無駄だと思うよ? お嬢さん」
響介は馬鹿にしたようにそう言う。
「それとも、公開凌辱されたいってんなら、やってやらんくもないが?」
ヒラヒラと手を振りながら響介はケラケラと嗤う。
「なっ……‼ だ、だだ誰もそんなこと言ってはいないだろうが‼」
響介の挑発を真に受け噛み付くように叫ぶ飛鳥。
「それに、自分はお嬢さん何て名前じゃないぞ‼ ちゃんと名前で呼べ!」
飛鳥がそう言うと、響介はヤレヤレと言った風に肩をすくめる。
「ンなこと言われたって、俺、お前の名前なんざしらねーし」
先程飛鳥が名乗ったときは、響介は気を失って桃源郷へと逝った夢を見ていたため、彼女の名前は知らなかった。
「あ、ついでにそこの人も教えてくんね」
そういって男の方を見る。
「それもそうだな」
響介に言われ、男はうなずく。
「俺は才藤謙之、三年だ。空手部の主将をやっている。よろしく頼む」
「応、よろしくさん」
謙之の自己紹介に、それだけ言って返す響介。そして、二人は飛鳥の方を向く。
「なっ、何だ? 自己紹介なら自分はすでにやっただろ」
やりはしたが、響介が伸びている間にやっているため、当の本人は全く聞いていないことになる。
すると、香織が飛鳥に近づき、
「篝さん、ほら、轟クン、アナタが名乗ったときは気を失ってたわけだから……」
自己紹介するよう促す。その少し後ろでは謙之が同意するようにうなずく。
「~~~~‼」
そう言われてあの時響介は気を失っていたことを思い出し、赤面する飛鳥。
「わ、わかりました。二人がそうまで言うなら、……もう一度、自己紹介しますよ」
別に、謙之は何も言ってはいないのだが。
飛鳥は、観念したようにそう言う。
「私は、篝飛鳥だ。剣道部をやっている」
謙之と違い、もの凄い無愛想に自己紹介する。
「おう、学生B子だな。憶えた」
全く憶えていなかった。
「全っ然、憶えていないじゃないか! 誰だ、学生B子って⁉」
響介の盛大な間違えに噛み付かんばかりに叫ぶ飛鳥。
「ハッハッハ。いや済まん、お嬢ちゃんの反応が可愛くてついな。ワリィワリィ」
からからと笑いながら、飄々(ひょうひょう)とした態度で響介は返す
「まぁいいかねーか。なぁ、K之君?」
そう笑いながら謙之に訊ねる。
「お前は、ワザと言っているのか。それとも素で憶えていないのか?」
謙之は、怒りを抑えるように押し殺したような声で訊ねる。
「わりとワザとで」
ヘラヘラと答える響介は、心底楽しそうな表情をしていた。
そんな響介を見てブチッと飛鳥がキレた。
「もう我慢できん! 徹底的に矯正してやる‼」
言うが早いか飛鳥は鬼のような形相で切りかかる。しかし響介は、それを楽しそうに躱す。
「おいおい、せっかちだねぇ。そんなんじゃ男に好かれないよ? ――てりゃ」
余裕綽々といった態度でそういう響介はまたも飛鳥の得物をあっさりと叩き折る。
「なっ、また⁉」
「まあ、アレだな。自分の能力もよく分からずに使っている挙句にまともな練度で鍛えなかったからだろうよー」
響介は、自分の武器が折られてしまい、驚愕する飛鳥に向かって笑いながらそう言う。
「――っ‼」
どういう意味だと言いたげに飛鳥は睨む。
「つまりはさ。形だけ贋て作っても、中身が……強度なんかもそうだが、他にも色々とダメなんだよ。ちゃんと、一からじゃなく、零から鍛えねーと」
要領の得られない、意味の全く分からない事を響介は言う。
サラサラと風化して消えて行くソレを投げ捨て、飛鳥は響介に問う。
「どういう意味だ? まるで自分の能力がどういったモノか知っている物言いだな?」
飛鳥の問いかけに、響介はヤレヤレと言ったように肩を竦めて大げさに首を振る。
「知る訳ないだろ。そんな『常識? 何それ美味しいの?』とでも言いたげな能力を持ったヤツ、一人として会った事ねーしよ」
「なら何でそんなに詳しく語る? おかしいだろう」
響介の発言をおかしく思い、謙之がそう訊ねる。
「こっちにも、イロイロと情事……じゃなかった。事情があんだよ」
含みのある笑みを浮かべながら響介はそう答える。すると響介は、徐に大量のカードを懐から取り出す。
「? どうするつもりよ。ソレ?」
響介が摂りだしたカードを見て香織はそう訊ねる。響介は自分たちが無駄話をしている間に、修平と香織以外の生徒会役員らが負傷者を搬送し終えているのを確認する。
「まぁ、見てなって。……ソラッ!」
響介はそう言って手にしたカードを全て上に投げる。
「―― set on. Full open!」
響介がそう言うと、上にばら撒かれたカードが全て武器へと変わる。
ドスッ、ドスドスドスッ‼ と大きな音を立てながら大量に武器が体育館の床へと切っ先を向け、突き刺さる。
「どわっ⁉ ちょ、なっ。おわっつ‼」
自分で投げておいてこうなる事を予想だにしなかった響介は、自分に向かって振ってくる武器を命からがらと言う風によけながら、短い悲鳴を繰り返し叫ぶ。
「ウェイ、ウェイ⁉ な、ちっ……すぅっ⁉」
全ての武器が降り終わる頃には響介は息も絶え絶えな状態だった。
「ゼー、ゼー。……なんでこう毎度毎度、上手くいかないかね。こう、俺の周り半径五十㎝圏内には振ってこない、みたいな」
既に何度かコレを繰り返していたようだ。響介は、それだけ言うと、息を整えるように深呼吸をする。
「オイオイ、もうこれ以上ココを壊さないでくれよ」
やる気のない声でMr.昼行灯こと中山修平が文句を言う。
「……何がしたいんだ、お前は?」
謙之が何とも言えぬ表情で響介に訊ねる。
「それはだな、っと」
響介は、近くに転がっていた棍を拾い、手に取りながら答える。
「そこのヘタッピがどれだけ剣を錬成しようが今の段階じゃ使い物になりそうにねーからな」
そういって響介は中指で飛鳥を指す。
「特別にその辺に刺さってんの、どれでも好きなのを使わせてやるってこった」
「あら。ずいぶんと篝さんに対しては優しいのね? さっきもこの子にはネギを使わなかったし、もしかして、この子みたいなのがアナタのストライクゾーンかしら?」
響介の行動に、香織は鬼の首を取ったような笑みを浮かべてそう訊ねる。が、響介はまっやく同じた様子もなく、むしろ反撃をしてきた。
「なんだいなんだい。自分と対応が違うから嫉妬してんのかい?」
全く動じることなく響介はそう訊ねる。
「なッ⁉ 何を……」
まさかの反撃に香織は顔を真っ赤にする。
「あっ、そーかそーか。それはすまなかったな。だがま、俺は幼女に手を出す趣味はないんだ。諦めてくれ」
超ド級の変化球を投げ返してきた響介は、反撃の手を一切緩めない。
「まー、その、何だ。お前の気持ちは嬉しいんだが」
ポリポリと頬をかきながら言うと、ゴメンナサイ。と、深々と頭を下げる響介。別に告白してもいないのに、訳も分からない内にフラれてしまった香織はというと、
「な、ななっ、ななななななななっ……」
いまだに顔を赤らめていた。
「轟、おまえ、ホントいい性格しているな」
一部始終を見ていた謙之が引き気味に呆れた様子で言った。
それを響介は鼻で笑って返す。
「ハッ! お褒めに預り光栄ですな。ちなみにお前ら二人も好きなのを好きなだけ使っていいぞ」
響介がそう言うと、謙之は苦笑と共に首を振る。
「俺は空手家だぞ? 武器なんてどうしろと?」
そういって響介の誘いを断る。
「そうですかい。そんじゃ、会長ちゃんはどうする? ……て、まだ放心してるよ」
響介は香織を見て呆れる。今の香織を相手にするのが面倒だと思ったのか、響介はそこかしこに突き刺さっている武器を、苦い顔で値踏みするように見ている飛鳥の方へ向き直る。
「どーした? まさか嬢ちゃんまで納得が行かないとでも言うんかい?」
「誰が嬢ちゃんだ。……いや、自分の創った物が素手で折られるようなら、武器を持たれれば手も足も出ないだろうし、自分が未熟なのには納得した。ただ……」
「……、ただ何だ?」
響介は、浮かない顔でうーんと唸っている飛鳥を怪訝に思う。
「むー」
飛鳥は答えずに唸るだけだった。
「なぁ、轟」
ある程度床に突き刺さっていたり転がっている武器らを見渡した後に、響介に話しかける。
「なんだ? サムライガール」
響介がそう答えると、飛鳥はムッとする。
「篝飛鳥だ。……それで、お前の武器はココにあるヤツで全てか?」
どうにも腑に落ちないと言うように訊ねる。
「いや。まだいくらか虎の子とかイロイロ残しちゃいるが……」
バラして良いのかそう言う事は? 響介がそう言うと、「そうか」と頷く飛鳥。
「それでは、刀がないのもそれが理由か?」
響介はそう訊かれ、自分が出した武器らを見渡す。どうも本当に刀類がない。
「あ、ほんとだ。ワリィワリィ」
そう言ってポケットからカードを取り出す。
「……て、アレ? ねーな。何でだ?」
カードの束を取り出して、不思議そうに呟く。
「あー、しょーがねぇ。……色々と危ない気もするが、コレを出すか」
そう言って響介は一枚のカードを取り、そして二本の漆塗りされた鞘に収まった打刀を出す。一本は本差と呼ばれる刃の長い大刀。二本目は脇差と呼ばれる刃の短い小刀。それを飛鳥へと投げる。
「ほらよ特注品だ。ありがたく使え」
響介がそう言うと、飛鳥は頷く。
「あぁ、ありがたく使わせてもらう」
そういって本差を鞘から抜き放つ。抜き身の刀身は、鈍く灰色に輝いており、一度も使われていないのか、刃こぼれなどの傷が一切なかった。というか、このご時世、刀を使うは完全にアウトなのだが。
「堅いコト言うなよ。ってかこんだけ武器持ってて刀一本で何言ってんのよ」
無視だ無視。
「おいおいおいおいおいおい。何勝手に人の刀バラしてんだ⁉」
「ああいや。ちょっとな」
そう言って飛鳥は釘目を抜き、柄から刀身を外す。
「……? おい、この刀、銘が彫られていないぞ」
そして、飛鳥はそれに気づき響介にそう言う。
元々、刀には作られた後に刀身に銘、つまりその刀の名前が彫られるのだが、響介が渡したソレには彫られてはいなかった。
「ああ、ソレ。だから言っただろ、特注品だって。ソイツは、とある友人に打ってもらったモンでな、下手な名匠よりも良いモン打つからよ」
どこか自慢げに言う響介。
「それは凄いな。だが、それと銘がないのとどういう関係があるのだ?」
「それがな。ソイツ、もの凄~~~~~い変人でさー。基本的に趣味でしか打たないんだよ。だから売る為とか誰かの為じゃなく、ただ……そうだな、プラモやジオラマやらを作ってんのと同じ感覚で作ってんのよ。
ソレ譲ってもらう時もスンゲー時間説得したんだし。銘はつけないままって条件で貰ったんだよ」
言い終えると響介は、話は終わりとばかりに棍を軽く一振りする。
「そいじゃ、話も終わった事だし、サクッと方ぁ付けますかぁーーー」
響介が楽しそうにそう言う。
「ちょっと待て」
が、即座に飛鳥がそう言って止める。
「ンだよ。人が折角、無理矢理テンション上げようとしてんのに」
肩を落とし一気にテンションを下げ、ダルそうに言う響介。
「いや、まあ水を差したのは悪いとは思うが、コレは結構な業物だろう? それを趣味程度でこんな業物を作る事が出来るなんて変だろ」
そういう飛鳥を響介は馬鹿にしたように一笑すると、肩をすくめる。
「む。何がおかしい」
馬鹿にしたような、というか完全にバカにした響介の態度に苛立たしそうに、飛鳥は訊ねる。
「いやいや。何もない場所から刀を精製しやがったお前に、変だなんて言われたくないだろうなと思ってな」
やれやれと言いたげに首を振る響介。コイツ自身、カードから武器を出すなんてトンデモな事をやってのけているのだが、まさに棚に上げると言ったところである。
「うっせーぞ作者。テメェ、後でぜってーボコる」
そんなとき、偶然にも響介の頭上にあった照明が落ちてきた‼
――ガシャン
「どぉう⁉ 危ねぇ危ねぇ。もう少しで死ぬところだったぞ、おい」
……チッ。響介はすんでの所でふってきた照明に気付き、間一髪と言った感じで避ける。
「やい、テメェやってくれたなコラ! ちょっとこっち来いや‼」
響介が天井にむかって怒鳴りだす。遂にラリったか。
「轟クン、大丈夫? さっき飛ばされた時に頭でも打ったの?」
いつの間に正気に戻ったのか香織が発狂した響介に心底心配そうに訊ねる。
「なんだろう、ありがたいけどその優しさが凄く痛い!」
苦しそうに胸を押さえながらアホな事を叫ぶ響介。
「まぁいいわ、そんな事。さっき私を侮辱した分の借りは、しっかり返さなくちゃねぇ」
先ほどの心配そうな表情とはうって変わって、恐怖すら感じられる笑みを浮かべて香織はそう言う。
「おぉー恐い恐い。それじゃま、そろそろ本番と行きますか」
響介のその言葉が合図だったかのように三人が響介に攻撃を仕掛け、それを響介は余裕の笑みであっさりと躱す。
香織、飛鳥、謙之の三人は、響介に躱されたと同時に二手目を構える。
「ところがどっこーい。俺のターン!」
そう言って響介は手にした棍を半ばほどで持ち、三人をなぎ払うように体全体を捻り振り回す。しかし三人とも後ろへ跳び攻撃を避ける。
「ありがとう、予想通りに動いてくれて」
そう言って響介は馬鹿にしたような笑みを浮かべ、棍の端を持ち、飛鳥の水月に突きを叩きいれる。
「か、はぁっ」
短い呻きを上げる飛鳥に間髪入れずに後頭部を棍で殴ると、頽れる飛鳥の背中を蹴り飛ばした。
「まずは一人目」
壁に激突し、そのまま倒れ適応しなう飛鳥を横目に響介はそう言った。
――――to be continued――――
さて、一体あとどれくらいでプロローグは終わるのか。
それはさておきこの作品の主人公とヒロインって誰だと思います? 悪逆非道で出番が多い響介? 出番がなかなか来ない裕也? 響介にいじられっぱなしの香織や飛鳥? それとも今現在裕也の足元で眠っている京ですかね? とまあそんな感じで次回をお楽しみください。