第二章~激突! あの娘のつよさはどれくらい?~
さて、響介が気絶してしまいましたが一体どうなるんでしょう? どうもならなかったりするんですかね?(失笑)
それでは第三章、お楽しみください。
裕也と京は哲也に案内されて寮に向かっている途中だった。
「そういえば響介ってさ、一体どこのクラスなんだろうね。クラス分けの表にも載ってなかったしさ」
ふと思って哲也にそう訊ねる。
哲也は何かを思い出し、面倒臭そうに頭をかきながら答える。
「あー。そうだな。多分Sクラスじゃねーか?」
Sクラス? そんなのもあったかな。と裕也は首を傾げる。
「そんなクラスあるの? クラス分けの表にはAクラスから僕たちのFクラスまでしかなかった気がするけど」
僕の記憶が正しかったらなんだけど。裕也がそう言うと、哲也はフォローするように答える。
「別にそいつぁ間違っちゃねーよ。ただ、なんつーかなぁ」
どういえば良いのかという感じで言いよどむ。
「テッちゃん、なんつーか何?」
そんな哲也に向かって、京がそう訊ねる。
「テッちゃん言うな。いや、なんつーかな……。説明しにくいんだよ」
哲也は京の額を小突きながら答える。
「まあ、いろんな意味で特別なクラスだと思えばいいだろ」
悩みに悩んだ挙句、適当な感じにそういった。
「特別っていうと、問題児とか?」
響介の特別さといえばそこぐらいしかないからと失礼な事を言う。
「あながち間違ってもないが、ソレを本人たちの前で言ったら間違いなく汚ねーミンチになるな」
哲也は冗談じみたことをうそぶく。
「そーいや、去年は怖いもの知らずのバカが一人活け造りされかけてたっけな」
ハッハッハ。と笑って哲也は言った。が、よく見れば目がまったく笑ってない。
そんな事をやっていると、哲也のポケットから軽快な電子音がした。
「お、メールか。誰からだ?」
そういってポケットからケータイを取り出してメールを見た。
「ちー坊から? 珍しいな」
送り主を見ながら哲也がそう言う。
「……おいおいおいおい」
マジかよ。そう言いたげに顔を歪める。
「何かあったの?」
「あー……、うん。まー、何かあったというかこれから何か起こるというか」
歯切れが悪い。まるで何か隠し事するような感じなんだろうか。
「ま、まあ、興味があるなら体育館に行こうぜ。そこで何か起こるから」
哲也はそういって進行方向を寮から体育館へと変えて進みだした。裕也の隣りでは、京がハイテンションな感じで言う。
「さー行こー。今行こー。すぐに行こーう」
「(何でお前はそんな楽しそうなんだ)」
裕也は、そんな京に呆れたように聞こえないように呟く。
↓↓
ショートカット。パッと飛んで体育館へ。
「何かスゴイ人だかりができてるね」
裕也は目の前の光景を見て感嘆の声を漏らした。
「まあ、理由は分かってんだけどな」
そういって哲也は人混みの中へ入ろうとする。そしてそのまま引き返してきた。
「チッ、まったく。どこぞの肉塊か、アレは? どうやっても割って入れる気がしがねぇ。こうなりゃ別の場所から入るしか……ん?」
ぐちぐちと文句をたれていた哲也が何かに気付いてそちらの方に顔を向ける。
つられて二人も振り向く。すると短く切り揃えられた黒い髪が印象的な少女が小走りにこちらに近づいてきていた。
「ああ、やはり哲也さんでしたか」
少女が哲也の前まで来るとそう呟いた。
「おう、ちー坊。相変わらずの鉄面皮だな」
哲也はそんな少女に向かって気軽に手を上げ挨拶する。
(っていうかこの娘がちー坊なの⁉ どう見ても女の子だよねぇ⁉ なんで『坊』⁉)
そんな哲也の発言に裕也は心の中でツッコミを入れる。
「その呼び方は止めてくださいといつも言っているでしょう。それはそうと、中に入るならこちらです、案内します」
ちー坊と呼ばれた少女は、眉一つ動かさずにそういうと、さっさと行ってしまう。
「さて、オレらもとっとと行くか」
そういって哲也は少女のあとを付いていく。裕也たちも訳も分からず二人のあとを追う。
「なんか、面白そうなことになって来たねっ」
京が裕也の方を見ながらそう心底楽しそうに言った。
「裏口は、面白いぐらい空いてんのな」
「御託はいいです。それと、そちらの二人は?」
呟く哲也にそういって、少女は裕也と京を見る。
「あー。コイツらな、響介の知り合いだ」
二人を指し、そう答える。
「そうですか。自分は、中等部三年の青井千歳です」
千歳は軽く頭を下げながらそう挨拶する。
「えと、杉山裕也です」
「樋川京だよー。よろしくね、ちーちゃん」
裕也と京も自己紹介をする。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「で、あのバカは本当にここでアホな事をやってんだな?」
哲也は千歳に裏口を指さしながら訊ねる。
「はい。その馬鹿は今、体育館の中に居ます。ですが、アホな事はこれからやる所です」
そう言って千歳は中へ入れと促す。
「ズズゥ―――――、じゅるるるるる……」
体育館の中に入ると、そこにはバカがいた。
「ぷはぁ―――っ。うん。やっぱコーヒー牛乳はパックの奴は不味いな。ストローで吸う所とか最悪」
自販機などである四角いパックのコーヒー牛乳を片手になんかダメだししているバカな男がいた。いて欲しくはなかった。
「おい響介! 何だよあの表の人だかりは⁉」
響介を見つけるなり裕也は怒鳴った。するとようやく気付いたらしい響介は裕也たちを見て少し驚く。
「ん? おお、少年か。それに京とテツまでおるな。おいちー。お前が呼んだんか?」
そう言って千歳を見る。それに対し千歳は眉一つ変えずに答える。
「だからその呼び方は止めてください。ええ、最初は哲也さんだけの予定でしたが金魚のフンが二つほどついてきました」
意外と毒舌な千歳。すると響介はケラケラと笑う。
「……それはそうと、何でこんな人がたくさん何だよ」
そう言って裕也は周りを見回す。よくよく見ると上の方にも人が大量にいた。
「んあー。それはアレだ。今から校長の貴重な産卵シーンが始まるから我先にと見に来たんだろ。このミーハー共めっ」
「何ウソ吐いているのよ。なまじそれが本当だとしたら、校長は卵生生物になっちゃうじゃない」
少し離れた所に居た少女が近寄ってきてそういった。
(うわぁ、綺麗な人だな。全体的にスレンダーな感じとか、鍛えられてて無駄なものが付いていない感じで)
少女を見て裕也はそう思う。ちなみに、胸の方にも無駄なものが付いていない。
「おいおい少年。こんな貧乳を見た感想が『綺麗な人だな』とか率直すぎだな」
香織を指さしながらまたも響介は裕也の心を読む。しかも結構恥かしい内容を。
「誰が貧乳よだれが。……そこの君、ありがとね」
言われ馴れているのだろう少女は一切動じずにそう答える。
「満更でもねェ顔してんじゃねーよ。
……まったく。少年、感想としちゃ他にも色々あるだろうに。例えば胸ねーなとか、ひんぬーやーとか、絶壁とか、ちんちくりんとか、男装してみませんか? とか、むしろ男じゃね? とかさー」
隣りで響介がもの凄く酷い事を言っている。
「うっさいわねこの変態男! アンタには言われたくはないわよ」
キッと響介を睨みな言う。
「それに轟クンあなたでしょ? わざわざ野次馬をこんなに集めたのは」
少女の問いに、響介の阿呆はヘラヘラと笑って答える。
「いや、全然。俺は何にも。それよか会長ちゃん、こっちの二人に自己紹介ぐらいやれって。不作法だろ。この不作法ひんぬー娘」
そう言って裕也と京を指さす。どちらかというと響介がこの中で一番不作法ものだ。
「……。まぁ良いわ」
不承不承といった感じに頷くと、裕也と京へと向き直る。
「今日は。私は高等部一年、統括生徒会長の柳瀬香織。香織って呼んでね」
よろしくね。と響介の時とは一変して優しく微笑みながらそう言った。
「あ、杉山裕也です。えと、こちらこそよろしくお願いします」
「私は樋川京って言うんだよー。よろしくねーカオリン」
緊張気味な裕也と違って京は超お気楽な感じでフレンドリーに言った。それを見て裕也は京や響介のオープンな性格が羨ましく思ってしまうのであった。
「さて少年たちも来たことだし、俺ぁもう帰るぞ。故郷に」
そう言って響介はすたこらさっさと帰ろうとする。
「ちょっと待ちなさい。何勝手に帰ろうとしてるのよ」
香織はそういって帰ろうとする響介の襟を後ろから引っ掴む。
「グエッ」
奇声をあげて止まる響介。
「まさか逃げる気じゃないでしょうね?」
満面の笑みを浮かべ、そういって香織は一気に引っ張る。響介相手だとすごく怖い。
「ゲホッ、ゲホッ。……く、首が。気管が圧迫されてぇ……。死ぬかと思ったー」
苦しそうに喉元を押さえながら響介は言う。
「響介、逃げるってどういうことだよ。また何か悪さしたのか?」
「ちゃうわ。それよか、お前は俺の替え玉だ。今から会長ちゃんと闘れ」
そういって香織を指さす。
「は?」
「は? じゃねーよ。俺の代わりに貧乳会長と決闘しろっつってんだ」
そう言って、いまだに後ろで響介に牙を向けて唸っている香織を指す。
「はいぃ⁉ふざけんな! 何で決闘の話になったかは知らないけど、響介が悪いんだろう⁉ 何で僕が響介の代わりにやらなきゃいけないんだよ⁉」
おかし過ぎるだろ。そう思って裕也は精一杯怒鳴った。
「ま、聞けよ」
だが響介は、裕也の反論は予想済みだったらしく平気な顔して肩に手を回してきた。
「いろいろ事情があるんだよ。少年、いいから逝ってこい」
そういって親指を立てて首の前で真一門によこ切らせる。
「ソレ、死ねって意味だよね⁉」
裕也は精一杯叫ぶ。
「つーか響介、ちょっと待て」
「んだよ、テツ。お前まで待ったかよ」
待ったを入れる哲也をジト目で睨みながら響介は文句を言う。
「たりめーだ。手前のケツは手前で拭きやがれ。それよかなんでこうなったか説明しろ」
「えー。それすんの? ダリー」
「イイからさっさとやれ」
哲也は面倒臭がる響介に間髪入れずに言う。
「ちぇー。わーったよ、やるよやりますよ、やりゃぁイーんでしょ」
どんだけ嫌なんだよ説明。
「んじゃ、『*』の後から回想に入るから、作者後ヨロ」
こちらに向かって響介はそう言った。だから話し掛けるな。っていうか自分で回想やれ‼
「どこ向いて言ってんだ。ってか誰に話しかけてるるんだ、おい」
哲也がそうツッコんだ。
*
人使い……というか作者使いの荒い奴だなまったく。
そんなこんなで回想・生徒会室にて。
「あー。ヒドい目にあった」
木刀を頭部に受け気絶した後、響介は目を覚ますなりそういった。
「お早いお目覚めですね」
もっと寝ていて良かったのに。そう遠まわしに言うように千歳は響介に言った。
「……それで、お前は何をしようとしてんだ?」
自分を見下ろす千歳に、響介はジト目で訊ねる。
「見てわかりませんか? 馬乗りしているんです」
何を当り前な事を、と言いたげな口調で答える。
「イヤイヤイヤ‼ 何で馬乗りになってんのって聞いたつもりなんですけど⁉」
「それならそうと先に言ってください。先輩の上に乗ってみたかったからです。なんというか、こう……征服感と言った物が……」
そこまで聞き響介はとっさに千歳を押し飛ばして起き上る。
「ゼェ、ゼェ……。なんか色々とイヤな予感がしやがった」
「残念です」
千歳は押し飛ばされ床の上にあおむけに倒れながらそう呟く。
「止めてくれ恐ろしい」
顔を青くさせて響介はそう言う。
「仲睦まじいわね」
「今のやり取りにそれを感じられるところがあると思うのなら眼科か精神科に行く事を勧めるぞ俺は」
香織の言葉に響介はそう返す。
「それじゃ、本題に入りましょうか♡」
一難去ってまた一難。千歳の次は香織が待っていたそうな。
「ヤダ。ダルイ。むしろ死ね」
間髪を入れずに連続で拒否する。
「……何でよ?」
少しムッとした感じで香織は訊ねる。
「何でもワキガもねーよ。それ絶対、俺がイヤな思いするパターンだろ。フラグ立っちまってんだろーが」
そう言って、苦虫を噛み潰したような笑みを浮かべる響介。
実際に、そういった経験が何度かあったのか、もしくはただのゲーム脳。ちなみに、ゲーム脳に賭けてみたいと思います、自分。
「うっせ」
……。まあ、良いとして。
「知らないわよ、そんな事。私の言う事聞きなさい!」
そんな響介の訴えをあっさりと一蹴する、無情(?)な香織。
「わーい。暴君だー」
響介は響介でもうどうでも良さそうに棒読みで言っている。
「何でも良いけど、俺ぁさっさと帰りてーんだよ故郷に」
退学届も渡し終え、帰る気満々だ。
「あ~ら。こんな物、受理しないに決まっているじゃない」
香織はそう言うなり響介が出した退学届を手に取りビリビリと本人の目の前で破り捨てた。
「あぁ~~~~~~~。俺の、俺の汗と涙と賄賂と後、その他いろいろと汚いのの結晶がぁ~~~~…………‼」
涙こそちっとも流れてはいないがもの凄く無念そうに響介は言う。というか今もの凄く聞き捨てならぬことを後半口走っていたような……?
「いや、そこは聞き捨てろよ」
いやいや、無理だから。それと地の文に(以下略)
「待ちなさい、轟クン」
香織が待ったを言う。
「待ても何も、俺まだ何も動こうとしちゃいねーよ。……プッ。バカなのか?」
退学届の仇討(?)のつもりか、ここぞとばかりに香織をバカにする響介。
「違うわよ! そうじゃなくて賄賂ってどういう事よ?」
ほーら、やっぱり。聞き捨てならない事だった。
「何時、どこで、誰に、どうやって賄賂したの? その辺り、よーっくお話ししましょうか」
ずずいっと距離を詰めながら香織は言う。
そんな香織に対して響介は、先程とはかなりベクトルが違うが、残念そうに呟く。
「あー惜しい。何故を入れりゃ5W1HのWの方がそろったのに」
どーでも良いわ。
「そんな事どうでも良いわよ。それより、さっさと教えなさい」
「あン? 何を」
分かっていてわざと言っていますよ、この人。
「賄賂の話に決まってるじゃない!」
こめかみに青筋を大量生産しながら香織が叫ぶ。
「ププー。何キレてんだか。カルシウム足りないんじゃないの?」
いりこ食えいりこ。と響介は小馬鹿にしたように呟く。
「アンタのせいでこうなってんでしょ‼」
まぁごもっともなんですが、そう怒鳴るから相手も調子づくのではないかと。
「出たよ、人のせい。コレだからゆとりの現代っ子は」
ヘラヘラと笑いながら受け流す響介だが、響介自身ゆとり教育の集大成、悪い結果である。
「良いからさっさと話しなさいよ!」
「えー。さっき本題って言ってたけど、賄賂の事が本題なんかー?」
分っていて言っているあたり、本当にイヤな奴だよ響介。
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあ言わんでもいージャン。何で本題入ろうとか言って他の話しようとすんだよ。バカじゃね?」
まるで香織が悪いと言いたげなこのセリフ。いつか背中刺されるぞ。
「あなたがいちいち茶々入れるからでしょうが‼」
がぁー! とライオンのように吼える香織。
「おーこわ。で、本題とやらと賄賂の話、どっちをするワケよ? ちなみにどっちかを選べばもう一方は完全除外という方向で」
「何故先パイが仕切っているんですか?」
響介の発言に千歳は横槍を入れる。
「ンだよ千歳。イーじゃねーか俺の大切な時間をわざわざ割いてやってんだ。感謝こそすれ、文句言われる筋合いはねーよ」
なんてオレ様主義な発言をする響介。
「オレ様じゃなくて俺サマだ。ここ重要」
知らん。
「なに一人でゴチャゴチャ言ってるのよ?」
香織が気味悪そうに響介に訊ねてくる。
「気にするな。それで、どっちにするか決めたのか? 決めてないなら三秒で決めろ。それ以上かかるなら帰る。ハイ、イ~チ」
そういうなりさっさと数え始めた。
――ガチャッ
「って、まだ一しか数えてないじゃない。何でもう帰ろうとしてるのよ⁉」
ドアを開けそのまま逃げようとした響介に向かって香織はそう言う。
「あーん? 別に待つとは言ってねーだろ」
「あーもう、ちょっと待ちなさい。もう決めたから」
そう言って響介を引き留める。なんか必死さが彼氏に別れ話を出された時の彼女みたいだ。いや、実際がどうかは知らないけども。
「あー、んー。本題にするわ。やっぱりそっちの方が大切だから」
香織は、唸りながらそう言った。
「それじゃ。簡潔に二十字以内で話せ。じゃなきゃ帰る」
そういって響介は待った。手はドアノブに添えたまま。
「なんで、アナタに命令されなきゃならないのよ⁉」
今さらである。
「……」
「あぁっ。ちょっと待って、分かった。分かったから! だから無言でドアノブをひねらないで‼」
ホント必死だった。それと響介は鬼である。鬼畜である。
「よし聞いてやろう。オラ、気が変わる前にさっさと話せ」
何処までも傍若無人な響介。香織は、そんな響介に不承不承といった感じにうなずく。
「……分ったわよ」
「六文字」
ボソリ、と先程まで沈黙を貫いていた千歳は呟く。
「今のは無しでしょ⁉」
反則気味のカウントに香織は文句を言う。
「九文字。合計で十五文字です」
いつの間にかあと五文字しか残っていない。
「だから無しって言っているでしょ‼」
香織はそう言って千歳に詰め寄る。あーあ。そんなことしたら、
「んじゃ、ふざけてると見なして俺、帰るわ」
響介はそのままドアをもう一度開けて帰ろうとする。
「ああっ、ちょっと待ちなさい! ちゃんと話すから! ちょっと紅葉さん、須藤クンもさっきから黙って見てないで、轟クンを止めるの手伝って‼」
「はいはい、分かったわ」
香織に頼まれ、紅葉は苦笑を交えて了解した。
「轟君。香織ちゃんが可哀想だから、それ以上は苛めてあげないで、お話、聞いてあげて」
ね? と響介に微笑みかけながらそう言った。
「いやー。こんなキレーなおねーさんに頼まれちゃ、ノーとは言えないわな」
ヘラヘラと響介は笑いながら言うと、ソファーに腰を下ろす。
「おら、さっさと話せ聞くだけ聞いてやらぁ」
「相当ふてぶてしいわねコイツ」
響介の態度に香織はとことん不機嫌になる。ゴホンッとわざとらしく咳き込むと、気を取り直して言う。
「まぁイイわ。それじゃ話すわね。轟クン」
「はい」
「何でお前が返事する。……目を逸らすな、おいっ!」
返事をした千歳に対して響介はツッコむ。
目まで逸らされて、完全に無視する気満々である。響介は半ば諦め香織へと目線を戻す。
「……で、何だ?」
「ん。それじゃあ改めて。轟クン、私と決闘をしなさい」
これが後の『脈絡なき果たし状(手紙ではない)』になるのであった。……ご免なさい嘘です。
「え、ヤだ」
……、
…………、
………………・
「……即答ね」
断られることの予想ぐらいはできていたらしい。が、まさかこもまで間髪を入れずに断られるとは思っていなかったようだ。
「まず、脈絡がない。それに、訳が分からん。最後に一つ。超メンドい」
最初の二つは分からなくもないだろうが、三つ目に関してはただの私情だ。
「もう最後は私情しか入っていませんね」
「えぇい、五月蝿い。黙れテメーら」
千歳が似たようなことを言うと、響介はそう言った。“ら”は、あえて無視しよう。
「わけって、理由の事でしょ? それならあるわよ」
無い胸を無理に反らして香織は自慢げに言う。
――ギロリッ
ひぃっ‼
「何を誰も居ないところを睨んでるの。香織ちゃん?」
紅葉は不思議そうに訊ねる。
「んー。なんか、さっきそこから私に対して邪念が送られてきた気がしたから」
自分でも不思議だというように香織はそう言う。
「? 何ニヤニヤ笑ってるのよ、轟クン?」
「いんやぁ、べっつにぃー」
ある程度事情を知っている響介は含み笑いを浮かべながら返す。
「それで、理由ってのは何なのよ?」
「ああ。そうだったわね」
どこか腑に落ちない感じで香織はうなずく。
(なんかはぐらかされた感じがするわね。……でもまぁこっちの方が優先順位は上なのよね)
アンタにとってだがな。
これ以上やるとまた感づかれかねないから、自粛するか。これ以上語りを邪魔されるのは困る。というか嫌だ。
ゴホンッ。と香織は咳払いをすると気を取り直し話を始める。
「決闘の理由だけど。さっき私あなたに負けたじゃない? それで、このまま勝ち逃げされるなんて悔しいのよ。それで決闘ってわけ」
分かる? と香織。
「うん。全っ然分からん。つか解かりたくもない。てワケで帰る」
言うが早いかさっさと帰る響介。
「ちょっと待ちなさい」
ガシッ!
香織は響介の手を掴み止める。
「ンだよ。まだ用か? 愛の告白なら千歳にやれ」
「違うわよ! どういう精神しているのよ、アナタ⁉」
脈絡がないにも程がある。ありすぎる。先ほどの香織の『決闘よ‼』よりも脈絡がない。
「そもそも、なんで自分が告白されなくてはいけないんですか。自分は先パイ一筋です」
抑揚のない口調で脈絡のない告白。ここはどこの脈絡ない王国だ。
「だが断る。寝起き早々人の上に座ってる女と誰が付き合うか」
ででーん、と胸を張って言う響介。おおう。珍しく正論が出た。よし、明日はあられを降らそう。パラパラと。
「いや、それだけでいちいちあられなんぞ降らすな」
「さっきから誰と話してるの? まぁ、そんな事は今はどうでも良いわ。それより理由言ったんだから、やりなさいよ。決闘。私に勝てたら退学の方も、受理しなくもないわよ」
どうしても決闘がやりたいご様子の香織。っていうかそれもう、脅迫だろう。もしくは職権乱用。
響介は、面倒臭そうにボリボリと頭をかきながら呟く。
「あー。このままヤダって言い続けても最終的には決闘に持ってきそうだな。作者が」
持って行きますが何か?
「わーったよ、やったるよやったるよ。その代り、俺が勝てば退学受理と、一つ何でも言うことを聞く、が条件だ」
そういってОKをする響介。
「もちろん、俺が勝てば話はエロ方面に持って行くがなぁ!」
誰も聞いていないし期待もしていない。
「良いわよ」
イインカイ。
「さっきのがまぐれ勝ちだって事、思い知らせてあげるわ」
意気揚々と豪語する香織。
「けど、私も勝ったらあなたにも一つ、言う事聞いてもらうからね」
「イヤン! 会長ちゃんったらエッチ‼」
自分の体を抱くように腕をクロスさせ、シナを作る響介。ウネウネと気持ち悪い動きをするな! 目の毒だわ‼
「違うわよ! あなたと一緒にしないで!」
顔を真っ赤にして叫ぶ香織。
「それで、いつどこで決闘やるんだ?」
「今はぐらかしたわね。まぁ良いわ。何か知らないけど、やる気になってくれている訳だし」
軽く皮肉を言う香織。
「ま、やるとなったらとことんヤル派ですから。それに報酬も報酬だしなー。ニヤニヤ」
「ものすごくイヤらしいわね、その笑い方」
ううっ。とひき気味の香織。今更になって怖気づいた様子。
「止めるか? それならそれでかまわんぞ。帰れるし」
あくまでそれを引っ張り続ける響介。いい加減、諦めれば良いものの。
「それとこれとは話が別よ」
「……そーかい」
一気にテンションが下がった響介。
「それじゃ、今から体育館へ行きましょ。そこで決闘よ」
そういって香織は響介たちを引っ張って体育館まで行った。
*
「……なるほど」
裕也は、響介の退学を掛けて二人が決闘するのは分かったのだが、
「僕は響介の代わりに決闘は絶対にやらないからな」
「ンだよ。ノリ悪ぃなー。そんなだから友達すくねーんだ」
「余計なお世話だよ! それにこれ、確実に僕は関係ないよねぇ⁉」
裕也がそう叫ぶと、流石に諦めたのか、響介は香織さんに向き直る。
「少年も役に立たねーし。しゃーねー、俺が直々に勝負してやる。感謝しろ。そして咽び泣け」
どれだけ上から目線なんだよ。裕也はそう思わざるを得なかった。
「イヤよ。……まあ、杉山クンが了承しても、私が許さなかったけどね」
香織は笑顔でそう答える。笑顔は笑顔でも殺気に満ちたそれを浮かべて。
「けっ。わーったよ。んじゃ、かったりぃーし、ささっとやって、ささっとすますか」
「私の勝ちは揺るがないわよ」
ローテンションで早く済ませたがっている響介と、ハイテンションでバックに炎の中に仁王像が立っている香織さん。
「なんていうか、もの凄い人だなー」
どことなく響介に似ているし。と誰にも聞こえないように呟く。
――――to be continued――――
第二章終わりました。ちょっと急展開過ぎた気もしますが、とりあえず終了です。皆さん、どうでしたか? やはり展開が速すぎたりしましたか?
次回はバトルシーンに入ります。それではまた。
ご意見、ご感想がありましたら、お気軽にどうぞ。