第一章~ボーイミーツガール~
皆さん、続きに目を通してくださってありがとうございます! ありがとうございます! こんなタイトルがない作品として最低なものを見てくださって本当に感謝感謝です。
とりあえず今回はアクションを起こします、響介が。それでは、最後まで楽しんでください。
放課後・降峰学園高等部の廊下で、響介はブラブラとほっつき歩いていた。
ほかの一年生の大半はバスに乗って本土――学院側から見て橋の向こう――へ戻ってそのまま帰宅。家が遠い新入生は、寮長に寮へ案内されている頃だろう。
「カップ麺バンザイっ⁉」
響介は唐突に変な事を、発狂気味に口走る。周りに誰も居なかったから良かったものの、もしも誰かいたら確実に変人扱いは必至だ。
「いや、タダのクシャミだって」
誰に言うでもなく良い訳をする響介。というか誰も居ないのにそんな事を言うのはキモい。
「キモいとか言うなよ」
そういうと、響介はそのまま歩を進めた。……お願いだからこっちに話し掛けないで。
「えー」
えーじゃない。
それから程なくすると、響介は立ち止まる。
「おぉう。これはまた……」
目の前にある教室のドアを見て、感極まったかのように呟く。そのドアは普通の教室の物とは違い、無駄に豪奢な作りをしていた。
「つーかココ、何だ? 理事長室かなんかか?」
そういって、ドアの上に付けられてあるプレートを見る。
『第二統括生徒会室』
と、そう書かれてあった。
「ほぉう。コレはコレは、また面白そうなところだな。……ちょっくら覗いてみっか」
言うが早いか響介はドアノブに手を掛ける。
「?」
が、ドアの向こう側から微かに声が聞こえ、その手を放す。
「て事は、中に誰か人がいるな。……うん。天井裏から忍び込むか」
だからなんでそうなる。まず、学校にそんな隙間が有る訳がないだろう。
「ほら、そこは気合で?」
だからいちいち地の文に答ええるなというに。
――――Interface――――
統括生徒会会長・柳瀬香織は、第二統括生徒会室の上座に座りながら、机の上に頬杖をつきながらお茶をすすると、ぐでーっと机に突っ伏す。
「今年も、あんまり良い収穫はなかったわね……」
彼女は退屈そうにそう呟く。ちなみに彼女は高等部一年だ。すると、退屈そうな表情から一変し、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「一体今年は、一体何人の子がここに耐えきれずに辞めて行くのかしら♡」
ねぇ? と部屋に居る者たちに訊ねる。
「そうね。あまり憶測でそういうのを考えるのは止めた方が良いんじゃないかしら」
急須にお湯を入れ自分のお茶を淹れている少女、統括生徒会書記・須藤紅葉は、苦笑を交えながら答える。
「なぁんかつまんないわね。その解答」
心底つまらなそうに呟く香織。それに、さらに苦笑する紅葉。
「それじゃあ、貴女はどう? 何か思う所はある?」
部屋の隅に一人ポツン、とたたずむ少女に視線だけを向けながら香織は訊ねる。
すると少女、中等部生徒会会長・青井千歳は、眉一つ変えずに答える。
「……。そうですね。自分も、新入生全員の資料に目を通していると言う訳ではないですので、そういった事はあまりお答えしかねますね。ただ……」
「ただ?」
「ただ、今年は記録の更新は、ほぼ確定かと思いまして」
記録の更新。そこに香織は食いつく。
「記録って、今年度の新入生がどれだけ早く自主退するかってやつよね」
「はい。その記録です」
小さく首肯して返す千歳。
その記録は、三年前にあった入学して一週間で自主退学という偉業以来この記録を塗り変える者はいなかった。……まぁ、いたらいたで問題なのだが。
「それじゃ、その候補生は貴女の知り合いなの?」
「ええまぁ。そうですね」
千歳は香織の問いにどこか嬉しそうに答える。
「へぇ……。面白そうね、その子。一体いつ退学しに来るのかしら♡」
新しいオモチャでも見つけたような笑みを浮かべ、楽しそうに声を弾ませる。
(……相変わらず、怖いほどに無邪気ですね。このヒトは)
机に突っ伏したままニヤニヤと笑う香を見ながらそう思い、
(それに、そこがあのヒトにも似ている)
この学園に来る前に、世話になった一人の少年の事を想う。
「それなら、もうすぐ来ると思いますよ」
思考を止め、気を取り直し千歳は香織にそう告げる。すると香織は驚き立ち上がる。
「ウソっ、もう来るの⁉ 入学初日で⁉」
「ブッ‼」
我関せずと言った感じで淹れたお茶を飲んでいた紅葉も、流石に驚いたらしく飲んでいたお茶を噴き出す。
ガタンっと音を立てて香織の座っていた椅子が後ろへ倒れた。
「会長、落ち着いて下さい。鼻息が荒いです」
淡々とした口調で、千歳が諭すように言う。
「ゲホっ、ゲホゲホっ……」
さっき飲んだお茶が気管に入ったのか、紅葉は思いっきりむせている。
「さ、流石にコレは驚くわよ。入学初日に退学しようとするなんて、普通ならあり得ないでしょ」
なら何故入学したのかといった感じである。
「……で、そのあなたの知り合いって、どんな子なの?」
倒れた椅子を戻して座りながら香織は訊ねる。
「形容しにくい方ですが、あえて一言で言うなら……誰にでも好かれるイヤな奴、ですかね」
千歳は無表情ながらに、どことなく嬉しそうに言う。
「ケホッケホッ……、なんか色々と矛盾しているわね、その子」
噴いてしまったお茶を布巾で拭き取りながら、紅葉がそう呟く。
「……。もう来たみたいですね」
何かに気付き、ドアの方へと視線を向けながら千歳はそう呟く。
その言葉に香織と紅葉はバッとドアの方へ顔を向ける。するとコンコン、とノックが鳴りドアが開く。
「失礼します。……って、おわっ! どうしたんですか、皆さん?」
そう言って入って来たのは、雑用係……ではなく、統括生徒会庶務の須藤青葉、一五歳。彼も、香織と同じで今年、高等部へと進学したのである。名字でお分かりと思うが、この少年は紅葉の弟でもある。
「今日は、先パイ。お久しぶりです」
千歳が青葉に挨拶をする。自主的に人と関わろうとしない彼女にしては珍しいなと香織は思う。
(大体、千歳ちゃんから須藤クンに挨拶をするのは今が初めてじゃないかしら。いつもは返事を返すだけだったし)
「あ、うん。久しぶり。ていっても春休みにも生徒会の雑務なんかでよく会ってた気もするけど」
ボリボリと頬をかきながら返す青葉は、面食らったような顔をしていた。
(……アレ? ちょっと待って。千歳ちゃん、須藤クンの事を『先輩』なんて呼んでたっけ?)
ふと香織はそう思い、千歳を見る。
「……」
千歳は、挨拶だけを済ませると、そのまま黙ってしまった。
「お帰りなさい、青葉。例の話、高津先生からちゃんと許可とって来れた?」
「あっ、うん。はいコレ」
青葉はそう返事をし、紅葉に承認の印を押されたプリントを差し出す。それに対し香織は、なんで会長である私じゃなくて紅葉さんに渡すのよ。と心の中でそう不満を漏らす。
「そりゃアンタがあの姉ちゃんと違って見た目も中身も体型もガキだからでしょ」
「うるさいわね。……って」
自分の思った事に答えた声にそう言うと、ふと気づく。
「あれ? 今、誰か喋った?」
香織がそう訊ねると、須藤姉弟は一瞬不思議そうにこちらに顔を向け、すぐに首を横に振る。千歳は我関せずと明後日の方向を見ていた。
「……アレ?」
変だな。そう思いながら香織は確かに失敬な事を言う声が聞こえたのにと首を傾げる。
「……まぁいいわ。それより千歳ちゃん、珍しくあなたの勘が外れたわね」
別に責める気は無いのだが、千歳はこういう事に関してはよく当たる勘が外れたのが本当に珍しいのでつい香織はそう言った。
「……」
千歳はというと、それを聞いてか否かそっぽを向いたまま押し黙る。元々無口な彼女が受け答えすらしなくなってしまった。
拗ねちゃったかな? と香織は苦笑する。
「「…………」」
すると、何故か青葉と紅葉がもの凄い表情でこちらを見てくる。
「な、何?」
何か見てはいけないものを見てしまったような顔をする二人に香織はそう訊ねる。
「会長……」
いつの間にか、千歳まで香織の方を見ていた。
「ど、どうしたの、みんな? 私の顔に何かついてるの?」
「な、何かついてるって言うよりも……」
「ねぇ……?」
香織の問いに、姉弟二人は顔を合わせながら歯切れの悪い返事をする。
「会長、コレ」
千歳はそういって何処から取り出したのか、無理すれば二人くらいは映せるような大きな鏡を両手で持ち香織の姿を映して見せる。
香織は、その姿見で自分の姿を見る。
「な、なによこれぇ~~~~⁉ 何で、何で私の頭が、こんな……」
香織はそう言って肩をわなわなとさせながら姿見を食い入るように見る。
「こんなアートな事になってるのよ~~~~~~⁉」
心の底から絶叫したそうな。先ほどまで普通だった髪が頭の上で白鳥の形になっていた。
「……先パイ、その辺にてそろそろ皆さんにも見えるようにしたらどうですか?」
千歳が姿見越しに香織の方を見ながら言った。
「せんぱい……?」
その言葉に真っ先に反応したのは紅葉だった。
「ええ、ほら。会長の後ろを、よく見てください。会長はこの鏡越しで」
言われるがまま、姉弟が香織の後ろを見る。香織も髪を元に戻しながら鏡越しに自分の後ろを見てみる。
「そのまま、よーく見ていてください。少しずつですけど、見えてくるはずです」
千歳の言うとおりに凝視していると、ボンヤリとヒトガタの輪郭が現れ、そのままゆっくりとソレが確かなものになって行き……
「ひゃぁっ!」
「のわぁっ!」
「きゃっ!」
香織、青葉、紅葉はほとんど同時に悲鳴を上げた。
目の前に現れたのは赤い髪の毛をしたこの学校の制服を着ている少年が、鏡越しに満面の笑みで何故かピースしていた。
「んだよ~。もうタネ明かしかよ」
ブイサインを止めると、ちぇーと言いながら少年は千歳に向かって不服そうな顔でそう呟く。
「その癖にはノリノリで皆さんにピースを送っていた気がしますが。それに短時間でも先パイのおふざけに付き合ったんです。文句言わないでください」
淡々とした口調で返す千歳。
「それより先パイ。自己紹介ぐらいしたらどうですか。皆さん呆けてますよ」
「む? そうだな。じゃ、そのへん頼むぞ。後ハイ君」
名乗る事を促されたにも拘らずその一切を任せる。
「はぁ……。まったく、そのぐらい自分でやってくださいよ」
千歳はため息を吐くと姿見を横へ置き、三人にこの少年の事を紹介する。
「皆さん、この人は自分がこの学園に来る前にお世話になった方で、名前は轟響介といいます。それから先パイ、」
部屋の隅に畳んで置かれていたはずのパイプ椅子に座っているアホ、もとい響介へと顔を向ける千歳。
「生徒会長の柳瀬香織さん、会計の須藤紅葉さん、雑用の須藤青葉さんです」
「えぇっ⁉」
何故か青葉のあつかい酷かった。青葉はそれを聞き拗ねてしまう。
「なるほど。この三人は、生徒A、生徒B、生徒Cだな」
響介は香織、紅葉、青葉の順に指をさしながらそういった。
「全っ然違うわよ! どうやったらそういう間違え方ができるの⁉」
何なのよコイツ、と心の中で叫ぶ。
「何って変態ですが何か?」
それが? と言いたげな顔で香織を見ながら響介が言う。
「知らないわよ! それより、何で私の思ってることが分かるのよっ⁉」
「そりゃお前、アレだよ。少年と同じ匂いがするし」
訳が分からなかった。
「あ、あの。それより轟さん。さっきの、どうやって姿を消していたんですか?」
「あン? そりゃアレだ。猫が獲物を狩るときにやるヤツだ。こう、気配を消してからそぉうっと」
青葉の質問に対しそういうと、響介はまた姿を消した。
「…………」
千歳がゆっくりと首を動かしてピタリ、と紅葉の方で止めた。
すると、いきなり響介が紅葉の後ろにパッと姿を現した。紅葉は驚きビクついた。
「とまぁ」
そういってまた消える。千歳は今度は隅で腐れている青葉顔を向けると青葉の横にすぐに響介がまた現れる。
「こんな風に」
また一言だけ言って、姿を消す。
「周りの奴らの認識から外れる事が出来るって訳よ」
と、香織の真後ろに現れて言った。
――ガタっ!
香織が驚き小さく飛び上がる。
そんな彼女の姿に満足したのか、にんまりとイヤらしい笑みを浮かべ腕を組みながら響介は呟いた。
「ちなみに千歳の場合は耐性があるから俺のじゃ効かねーんだが。
……まぁいい。それよか本題に入りたいんだが、良いか?」
本題? と千歳以外全員が首を傾げる。
「ああ本題だ。どっかの誰かさんのせいで、話が変な路線から入っちまったじゃねーか」
そう呟くと恨めしげに香織の方を睨む。それに対し、え? 何これ、私が悪いの? と思う香織。
「はい。先パイが普通に入ってこないせいですね」
「そーだぞ、会長ちゃん。会長ちゃんのせいで本題に入る事もできずに無駄な時間とっちまったんだ。謝れ。この世全ての男に生まれてきたこと謝れ」
反省しないで香織にえん罪を被せようとする。というか、この世全ての男に何で生まれてきたことを謝らなければならないのか。
「ま、まあまあ。二人ともあんまりふざけないで。か、香織ちゃんもそんな怖い顔しないで。ね?」
紅葉が引き気味に香織を宥めてくる。
「それで。本題って何、轟君?」
気を取り直して紅葉が訊ねる。
「あー、うん。じゃ、綺麗なおねーさんのいう事だし手っ取り早く一言で」
そのまま一拍おいてから響介はいう。
「退学したいのよ」
そういってどこから手に入れたかわからないこの学校の印が押された退学申を紅葉に渡した。
「って、何であなたがそれ持っているのよ? それになんで私じゃなくて紅葉さんにそれ渡すのよ? 普通、先生じゃなかったら生徒会長の私に渡すものでしょ。順序的に。っていうか何で先生に渡さないのよ」
「何の順序かわからんが、お前よりこっちのおねーさんの方がしっかりしてそうだし、それに何より美人じゃん?」
何当り前の事聞いてんのよ。と言いたげにバカにしたような笑みを浮かべそう言う。
(ムカつくわねこの子。失礼にも程があるでしょう)
響介を睨みながらそう内心で呟く香織。
「んな体も中身も体型も小学校から成長してない様なお子ちゃま外見より、こっちのおねーさんのわがままバディ……とまでは言わんにせよ出るとこ出て締まるとこ締まってる人の方が大抵の男は惹かれんだよ」
常識だろとでも言いたげに響介は腕を組みながらこちらを見る。
「悪かったわね、幼児体型で。ええそうよ。どうせ私は紅葉さんと違って曲線もなだらかで貧乳よ! それのどこが悪いの? それに少なくとも小学校の頃よりは確実に成長してるんだからぁっ‼」
開き直ったように叫ぶ。
「「「「…………」」」」
そんな香織を見て呆気にとられポカンと口を開ける響介たち(千歳は俄然沈黙)。
「……」
香織は何故皆が黙っているのかと思い、恐る恐る目を開け周りの様子を見る。
「――ック」
すると響介が沈黙を破るように小さく笑う。
「あーひゃっひゃっひゃ、はーははははっ! いーひっひっひ。うひゃひゃひゃひゃひゃ、ひーひっひっひ」
そのままアホのように一人で大爆笑する。
「ひぃー、ひー、ひー、ひー」
笑い終わった。というか、笑い疲れたのか響介は肩で息をしながら、
「あー、笑った笑った。久しぶりだなー、こんだけ笑ったの。やっぱ少年やテッちゃんそっくりだな」
そういって裕也と哲也の顔を思い浮かべる。
「フ、フフフ、ウフフフフフ……」
響介が涙を拭いていると、突然香織が不気味な笑い声を発した。
「な、なんだ?」
あまりの不気味さに響介はたじろいでしまう。
「か、香織ちゃん。なんか怖いわよ」
響介の隣で、紅葉が頬をヒクつかせながら話しかける。
「ウフフフフ、ウフフフ」
ゆらり……、ゆらり……、と笑いながら香織は一歩、また一歩と響介へと幽鬼のごとき足取りで近づいてゆく。
「や、柳瀬さん、落ち着いて下さい」
青葉の言葉を、まあ普通に香織は無視する。
「会長、コレを」
千歳はというとまたもどこから取り出したのか、綺麗に漆塗りされた木刀を手渡す。
「千歳ちゃん、ありがと」
そんな千歳に柔和に微笑みながら香織はお礼を言う。
単純に漆塗りされただけだというのに、その木刀は武器ではなく一つの芸術品だと思い一瞬見惚れてしまう響介だった。
「って、そうじゃなくて!」
響介はかぶりを振り香織から(正確には彼女の手にある木刀)目を逸らして千歳の方を見る。
「あのー、千歳さん? 現状をわざわざ厄介な方向に持ってかないでくれる?」
ゆっくりと歩み寄ってくる悪鬼に細心の注意を払いながら響介は千歳に話し掛ける。
「良いじゃないですか。面白いですし」
そそくさと香織から離れながら千歳は答える。
「それより、ちゃんと見てなくて良いんですか? 会長、強いですよ」
そういって響介に自分から香織へと注意を促す。
「天☆誅‼」
木刀が上段から一気に脳天目がけて振り下ろされる。
「って、のわっ! 危ねぇ……」
響介はそれをギリギリでかわした。
「逃げるなぁ‼」
今度はそのままの体制から響介の脇腹目がけて木刀を横薙ぎする。
「無理言うな! 今の避けないと頭蓋骨陥没で最悪死んでたぞ‼」
器用に間合いを取りながら躱す響介は、珍しく至極まっとうな発言をした。
「ええい、ちょこまかと。さっさと大人しく私の一太刀を浴びろぉ‼」
そうは言うが殺意を剥き出しにして襲ってくる相手の攻撃を受ける馬鹿はいないとだろう。
「殺意ばら撒きながら襲ってくる奴の攻撃をわざわざ受けるバカはそうはいねぇ‼」
人の言ったことを真似しなくていい。
結構危険な状態だと言うのに、響介は余裕綽々と行った様子で攻撃を躱していく。が、
「げっ」
背中が壁に付いてしまい、響介は小さく声を上げる。
「うふふふふ。もう、逃げ場はないわよ。観念しなさい」
香織は追い込まれたウサギ(笑)を仕留めるかのように、じりじりと響介ににじり寄る。ついでに言うと、顔は笑っているが目は完全に据わっていた。
「って、なんで(笑)を付けんだよ」
だからいちいちこっちに話し掛けるな。
「何を一人ごと言っちゃっているのかしら? 貴方にそんな余裕はないわよ」
そういって木刀を上段に振り上げる。
「死ねぇ!」
「あーもう。こうなりゃ、やけだ!」
そういって響介は振り下ろされんとする木刀の柄尻を掌底で殴る。
スポンッ、という間の抜けた音と共に香織の手から木刀が飛んで行った。
「へ?」
呆けた声を上げて香織は手を下ろす。
「あれ? 木刀は……?」
まったく理解できないといった様子で自分の手を見る。
「フゥ。……俺の見解だが、上段に振り上げた直後が剣技の共通の弱点なんだよ」
呆ける香織に、間合いを取りながら響介はそういった。
「振り下ろした後なら避けるしかできんだろーが、振り上げた直後なら牽制することも得物をさっきみたいに奪う事も出来る。…………ほとんど博打みてぇなモンだったが、成功して良かったぁ(ボソッ)」
そう言って響介は深く安堵の息を吐いた。最後の一言がなければ少しは決まっていたというのに、全くのバカ男だ。
「さて、武器も無くなったことだし。……逃げるか」
言うが早いか響介はそそくさと逃げ出そうとするが、
――バコッ
先程自分で飛ばした木刀が何故か都合よく響介の頭に直撃する。
「オイオイ、マジかよ……」
響介はそれだけを言い残して前のめりにブッ倒れた。
「あ、あれ……?」
香織はまたも呆けた声を上げる。今度は響介の死体を眺めて。
――ガバッ!
「まだ死んでねぇっ‼」
生き返った響介がエビ反りになりながら叫ぶ。
「ひっ」
それに対し香織は小さく悲鳴を上げる。
――バタリッ
言うだけ言って響介はそのまま、また倒れ込む。
「……香織ちゃんの執念が木刀に乗り移ったのかしら?」
結構な事を呟く紅葉。
「なら、会長の執念の勝ちですね」
それに答えるように千歳は呟いた言葉は、誰も聞いてはいなかった。
――――to be continued――――
さて皆さん、第一章はどうでしたか? 次回は多分バトルシーンに突入だと思いますんで、乞うご期待です!
ではでは皆さん、また次回で。
最後に、ご感想ご意見があれば、いつでもお待ちしてます。