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いつもと変わらない。いつもどおりさ 1

家の近くを流れる川。

僕とさつきさんが最初に出会った場所。そして再会を果たした場所。どんなにいい夢を見ているのかと思っていたけれど、これは夢じゃない。ちゃんとした現実だ。現実離れしてるけど現実だ。

「水というのは循環しているな、耕太。重力に従って川を流れ、蒸発し、雲となり、雨となってまた川に戻る。実に壮大な旅だ」

などと、さつきさんは突然哲学めいたことをつぶやいた。とりあえず乗ってみる。

「あるいは命というのもそうなのかもしれませんね。なんかこう、生まれ変わり、みたいな」

輪廻転生?・・・だっけ。よく知らないけど。

「ふむ・・・そうか。耕太が重力に従って流れ、蒸発し、雨となって降り注ぐのか・・・・・・」

「怖いわっ!」ホラーだ。無駄に想像力なんて持つもんじゃないな。

「おっと、耕太にできるのは蒸発くらいか」

「・・・・・・」

事件だ。確かにできるかもしれないけど、それを言うなら僕にだって重力に従って流れられるぞ!

「自慢にならん!!」

うん、その通り。本当に自慢にならない。

「ホラーと言えばこの前実に恐ろしいと思った言葉がある。「首を長くして待つ」という慣用句だ。妖怪だ!」

「それを言うならもっと恐ろしいのは「首が回らない」ですよ。逆に首が回るってどういう状態なんだって話です」

ばか話中。

「その通りだ!つまり人間というのは生まれながらにしてやりくりができないことを意味しているのだな。首が回るような奴はもはや人間ではない!底辺を基本においた実に弱者に優しい言葉ではないか」

さつきさんはうむうむとうなずいた。

「春日井さんは決して使わない言葉ですね・・・」

彼女の足切りラインの高さは異常である。なんせとっさの返答ができないだけで人間失格呼ばわりだ。少なくとも彼女にとって僕は人間ではない。

「ひとでなし、という言葉もあるな。ヒトデなしではないぞ。人で無し、ということだ。つまり、「ひと」というのは外見や遺伝子ではなく、心が重視されているというわけだ。もしかしたら教育というのは「ひと」になることを目的としているのかもしれないな」

「えー、でも普通はそこまで考えませんよ。少なくとも僕は考えたことないです」

「君はひとでなしだな!」

「いきなりひどい!!」

一気に来た!・・・確かに論理的にはそうなるけども、あんまりだ。


海。

ここで僕はさつきさんに思いをぶつけた。あの時は本当に悲しかったけど、今となっては忘れてしまっている。ここで覚えているのはかわした言葉と、誓った思いと、唇の感触だけ。

「そういえば君はウミウシになりたいと言っていたな。・・・さあ」

「さあ、ってなんだっ!?」

「こういうのはタイミングが大事なのだぞ。そしてできるだけ早い方がいい。だから、ほら」

ほら、ってなんだっ!?

「・・・えっと、つまり僕にどうしろと?」

こんなにひどい無茶ぶりもいまだかつてない。まるで春日井さんとしゃべってるみたいだ。

「丸くなるだけでも許してやるぞ。私は笑いに関して寛容な女だ」

「やらせておいて大爆笑ですか!!」

鬼だ!

「あたりまえだ!私をあまりなめるなよ!!」

なめねえよ。

「早くやって見せてくれ。この通りだ!」さつきさんは腕を組み、胸を張った。

どの通りだ・・・?

「そこは普通頭を下げるところじゃないんですか?」いや、下げられても困るけど。

「はあ?君なんかに私が頭を下げるわけがないだろう。ばかもの!」

「逆切れも甚だしい!!」極まるところまで極まったという感じだ。もしくは落ちるところまで落ちたというか。

「うむ・・・。わかった、頭を下げることはできないが、手は合わせてやる。頼む。一度だけでいいんだ。なっ、なっ?」

「なぜにそんな必死な・・・」そこまでして見たいのか?

しょうがないな。やれやれ、周りに人はいないみたいだし。ほかでもないさつきさんの頼みだ。それにすねられたら今日一日大変なことになるし・・・。

よし!いつも通り僕の恥を大盤振る舞いしますか。

「一発芸やります!!」

拍手喝采。・・・いや、さつきさんしかいないけど。

とにかく僕は砂浜の上にうずくまった。

「ウミウシ!」うわぁ、すごくはずかしい。僕もう16歳なのに・・・。

あれ?さつきさんから反応がない。おかしいな。シーンとしている。多分僕の心臓ごと止まってしまっている。顔をあげて見ると、しっかりと引いているさつきさんがいた。

「ああ、うん・・・・・・ごめん」

本気で謝られちゃったっ!!

「いや、まさか本気でやるとは・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ウミウシになりたいっ!!



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