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だから焼却炉ですよ!僕のようなごみを燃やすのに効率のいいやつです! 1

翌日、アラームはかけていなかったが、携帯に朝7時半に起こされた。メールの着信だった。春日井さんから「8時半に学校に来てほしい」というものだった。

さつきさんは目覚めない。よっぽど疲れていたのだろう。僕は書置きを残して、一人学校に行くことにした。

「おはよー、漆根君。女の子よりは早く来ようよ」学校にはなぜか春日井さんと、そして委員長がいた。集合時間の1時間前に連絡が来て、しかも10分前に着いたんだからむしろ褒めてほしかったが、まあ、無理な期待はするまい。

呼び出した理由は何だろうか。出し物優勝したからなんかおごってくれる的な感じだろうか。いや、それならわざわざ学校に呼ばれたわけがわからない。それよりも文化祭を成功させたんだからなんかおごって的な話をされそうだ。

「荷物があるの、運んで」

「・・・・・・やっぱり」知ってたよ、こうなることぐらい。

文化祭運営のための資料とかその他もろもろを昨日片付けるのを忘れていたらしい。そこで1年4組ルール発動というわけだ。ごめん、春日井さん。

「ほんとよ。いい加減にしてほしいわね。まだ私に迷惑をかけ足りないのかしら・・・と言いたいところだけど、今日に限っては言えないわね」

ん?どういうこと?

「残念ながらおまけは漆根君のほうよ」

「うん、春日井さんをね、来年の委員長に推薦しようと思って」委員長は相変わらず素敵な笑顔だ。

「えっ、春日井さん普段眼鏡外してるしデフォルトが真顔なのに!?」

やべっ、勢いでつい言っちゃった!

やめて、やめてやめてやめて!そんな目で僕を見ないで!!

「こんな屈辱初めて・・・」肩を震わせる春日井さん。

うわあ、やっちゃった!昨日友達確認が済んだばっかなのに!死ね、僕死ね!!

「委員長!焼却炉!この学校焼却炉どこでしたっけ!?」必死に聞く僕。さすがに委員長も笑っていなかった。

そりゃ今僕は委員長と春日井さんという二大巨匠を同時にバカにしたようなものだから・・・。

「だから焼却炉ですよ!僕のようなごみを燃やすのに効率のいいやつです!」

「ま、まあまあ・・・。ほら、大気汚染の影響とかで焼却炉は数年前に撤去されたから」

「っ!・・・じゃ、じゃあ、大きめのごみ袋を!早く!明日のごみの日にちゃんと出されますから!!」

「あっ、ごめんなさい、漆根君。そこまで怒ってないからあんまり卑屈になりすぎないで・・・。その必死さが胸に痛いわ」

僕の首がからくり人形のようにぎちぎちと音を立てながら春日井さんのほうを向く。かなり心配そうに僕を見ていた。

「・・・ていうか怖いわ」

その言葉をきいて、秒速10回くらいを記録していた僕の動悸が収まり始めた。ああ、よかった。僕はまだ死ななくていいのか。

「仲良くね。で、漆根君。その打ち合わせを私たちするから、その間に資料の片づけをお願いね、っていう話」

ほんとにおまけだな、僕。くそっ、いろいろと期待をしながらここに来たのに。まあいいや。せめてもの罪滅ぼしだ。しっかりと働こう。

鍵を受け取って、事務室から校舎内に入る。団体によってはまだ片付けが済んでないところもあるので、今日だけは学校が開放されているのだ。

言われたとおりの部屋に行き、こんなにたくさんあって何に使うんだ、というレベルの資料やらが入っているダンボールをキーホルダーに書かれている部屋まで持っていく。

「ていうかいつも思うけどキーホルダーって別にキーをホールドしてないよな」むしろ掴みやすくって奪うにはいい感じだ。

というわけで(?)4階の資料室。僕は今まで入ったことはない。普通はなんの関係もなく3年間の学校生活を終えてしまうような部屋だが、とにかくそこまでダンボールを運ぶ。資料室の棚が所々開いていて、そこに資料を並べていく。ここまでやらなくてもいいのかもしれないが、漆根家の性というやつだ。実際かなり気になる。僕は本屋で本が順序よく並んでいないと直したくなるタイプだ。

「あ・・・・・・」

茶色の背表紙を見て、ふと手が止まった。資料室には歴代の卒業アルバムがずらりと並んでいた。

そういえば花山さんに頼まれていたんだった。えっと、花山さんは20回生だったな。同時に年齢までわかってしまった。まあ、だいたい思った通りだったけど。中2のころならともかく、今の僕は女性の年齢を見抜くのは得意だ。

よし、これで資料の整理も終わった。多分この機会を逃したら永久にこの部屋に入ることはない。最初で最後のチャンスということだ。これをうまく委員長に隠しながら花山さんに見せに行かなくては。別に盗もうってわけじゃない。ちょっと借りようと言うだけだからばれなきゃいいだろう。良心がかなり痛むけど。

その前に確認しといたほうがいいな。これで違いましたじゃ笑い話にもならない。

「えっと、花山・・・じゃなかった、片岡だ」

さすがに年季が入っている。写真も白黒だし、制服も今とは全然違う。昔ながらのセーラー服といった感じだ。男子は変わらないな。今も昔も変わらず学ランのままだ。おっ、あった。片岡・・・。あったあった。ずいぶん若いけど、確かに面影がないでもない。多分これで間違いないだろう。

「あれ・・・・・・?」

目の端を何かがよぎる。なんだろう。何か見覚えがあるものだ。僕の親戚でもいたのかな。だとしたら、ずいぶんな奇縁があるもんだ。いや、でも田舎ってのはそんなもんかな。

ボトリ、と僕の手からアルバムが落ちる。

あれ?なんで・・・?なんで・・・?

手から落ちたアルバムは開いてあったページのまま。片岡という女子生徒の顔写真。そして、そして、その横。同じ「か」から始まる名前。

―――刈谷さつきがそこにはいた。

見間違いのはずがない。この僕がこの顔を見間違えるはずはない。そんなことはあり得ない。白黒とはいえ、さつきさんの顔を誰かと間違えるなんて、そんなことはあり得ない。

アルバムを落としたのはさつきさんの制服姿に衝撃を受けたからじゃない。いや、全くそれがないかと問われたら嘘になるけど、それよりももっと大事だからだ。

「相変わらず遅いねー。こっちはもう終わっちゃったよ」

はっとして振り返ると、委員長が立っていた。

「あ、いえ、これは・・・」

「あれ?昔の卒業アルバム?そんなのあったんだ。え、なに?まさかそっから探してるの・・・?」

「勝手な憶測で勝手に引かないでください!」心外だ、極めて。

「じゃあなんなのかな?」

「いや、偶然目の前に落ちてきただけですよ。近所のおばちゃんに持って来て見せてなんて決して頼まれてません」

嘘が駄々漏れだっ!馬鹿か、僕は!!

「ふ~~~ん」委員長はジト目で僕を見て、戸に差しっぱなしにしていた鍵を下手投げで僕に投げた。何とかそれをキャッチする。

「明後日までには返してね」

なにもなかったように行ってしまう。器の大きな人だった。



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