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向こうの学校に行っても友達でいてくれるよね 7

一人で夜道を帰ってもまだ実感がわかない。全てが終わってしまったなんて今だに信じられない。あれ?文化祭の準備が始まるまで僕って何して過ごしてたんだっけ?だって学校終わるのって4時くらいなわけだ。それで最近は6時まで学校だったし・・・。あれ?

一日って22時間だっけ?ああ、それなら納得。

「そんなわけないだろう。人生をなめるのもたいがいにしろ」

さつきさんは疲れた感じで家の前に座り込んでいた。格好は白装束のまま。

「あれ?月光浴ですか?」

三日月なのに・・・。なんて中途半端な月光浴だ。

「そんなわけないだろう。締め出しをくらったに決まっている。まったく。君の部屋の窓にも鍵がかかっているし、つむぎはどこへ行ったのだ!」

くらったに決まってるのか。ちょっと気の毒だった。しかし、学校まで近いんだから一回戻ってきて僕から鍵を受け取ればいいのに。

「居候の身でそんなことができるかっ!」

「いまさらっ!?」

散々僕から搾取し続けていたのはどこの銀河の刈谷さつきだ!

「うん、いや、それはもう冗談なのだが。私が耕太に向かって殊勝な気分になることなど決していないのだがな・・・」

言わなくていい、そういうことは。しかし気兼ねないということではちょっと嬉しい。

「疲れたのだよ、私は。今日ははしゃぎすぎた。そりゃ普段君といるのも楽しい。褒めてやる」

やった~~~!!

「だがな、私はこうして幽霊となってから、こんな風にリミッターを外したことはなかったし、それに、私の力でみんながあんなに喜んでくれたことはなかった」

「あ・・・・・・」

そっか。みんなは知らないけど、さつきさんがいなければ賞を取ることはできなかったかもしれないんだ。いやどうだろう。結構ダントツだったから春日井さんの力も多大だったけど、さつきさんの働きが決め手となったのには間違いがない。

「嬉しかった。本当に嬉しかったのだよ、私は・・・」

さっきのはしゃぎようは何も賞が取れたからだけではないのだ。世界になにも干渉できないさつきさんの力で世界が動いた。生きていなくても、ここにいる意味があるということだ。

「本当にありがとう、耕太。君のおかげだ」

「なんですか。当然あらたまって」

さつきさんは座り込んだまま僕を見上げる。さすがにあたりは暗くなっている。もうすぐ夏とはいえまだまだ春だ。

「いや、こういうときに言わないと言えない気がしてな。私は君には本当に感謝しているのだよ。何せ君がいなければ私はいまだに退屈な放浪生活だ」

自嘲気味にさつきさんは笑う。

「やだな、やめてくださいよ。それを言うならお礼を言うのは僕のほうですよ」

本当に。さつきさんがいなければ僕は今頃どうしていただろう。きっとまだ間違いを続けていて、被害者の会に追い込みをかけられている。いや、ホントにあればの話だけど。春日井さんと友達になるなんてもってのほかだ。

「さつきさんが僕を通して周囲に関われるように、僕だってさつきさんのおかげで今ここにいられるんです。普段恥ずかしくて言えないですけど、だから僕はさつきさんと暮らし始めた2か月前に生まれたようなものなんですよ。いうならばさつきさんは第2の母です」

「はははっ、君のような子供はやだな」

「僕の母さんに全力で謝れっ!!」

なんなんだよ。なんで今のいい雰囲気にわざわざ水を指すんだよ!

「いや、人の話は最後まで聞け。子供はやだ、が、君のような恋人ならば面白いと思う」

うわお・・・。

「願わくば君にもいつかそう言ってくれる恋人ができるといいな。私は真剣に言ってるんだぞ」

ちょっと話の流れがわからなくなって、首を傾げた。僕の目の前でさつきさんは立ち上がる。やっぱり変わらず僕より背が高い。

「大方つむぎは友達の家でも行っているのだろう。そろそろ中に入ろうか。5月の終わりとはいえこの薄着ではまだ寒いな」

荷物を置いて、さつきさんが着替えている間に簡単な夕飯をつくる。フライパンでチャーハンを炒めながら僕は考えていた。やはりさつきさんは寂しいのだ。世界に一人きりであることが。僕という曇りガラスを通してしか世界を見れないことが。

大きく息を吸って、吐いた。僕はいつまでもさつきさんと一緒にいたいと思う。けれどそれはやっぱり僕のエゴでしかないのだろう。それに、それ以上に僕はさつきさんに幸せになってほしいと思うのだ。僕を生きさせてくれたさつきさんに恩返しがしたいと思うのだ。

文化祭は終わった。だからそろそろ動かなくてはならない。探し人が見つかっても見つからなくても僕にとってはハッピーエンドとはいかない。でも、ベターエンドであってほしいとは思うから。たとえ僕にとってはバッドエンドになったとしても、さつきさんにはハッピーエンドであってほしいから。

チャーハンを2枚の皿に盛り付ける。さつきさんのほうが少しだけ多い。今日のところは、これが僕にできる最大限の恩返しだった。




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