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向こうの学校に行っても友達でいてくれるよね 5

閉会式。興奮冷めやらぬ感じで、体育館は騒がしい。おかげで委員の方の開会の辞が聞こえなかった。まあ、これから結果発表があるので無理もない。ただ、僕は周りのみんなとは違ってそわそわすることができなかった。それどころじゃなかった、というのが正しい。

「こ、耕太。トイレだ、ここにトイレを持ってこい」

緊張のあまり、さつきさんが混乱していた。そわそわを通りこして、軽く震えていた。というわけでさつきさんをなだめるために、僕はどっしり構えてますよアピールをしていた。

ついに、眼鏡の素敵な委員長が壇上に現れた。発表と表彰は彼女の役目だ。騒がしかった生徒たちがしんと静まり返る。

「それでは、結果発表します。第3位、892点・・・」

点数がどうやって付けられているのか僕には全く分からないので、それが高いのか低いのかもわからない。

「―――1年2組、縁日」

隣の隣のクラスから歓声が上がる。狂乱だった。3位とはいえ入賞だ。

その歓声が鎮まった頃、再び委員長の声がスピーカー越しに聞こえた。

「第2位、1004点・・・」

さつきさんは両手を組んで何かに祈っていた。祈ってどうにかなるものではないが、そうせずにはいられない気持ちは痛いほどわかる。

「―――2年3組、喫茶店」

今度は遠くの方で大歓声。遠いのになんか吹き飛ばされそうだった。さつきさんが隣で安堵の息を漏らした。僕なんかは無難に2位でいいんじゃないか、とか思っちゃう小市民なんだけど、彼女はビックだ。

「続いて、第1位を発表します第1位、1240点・・・」

結構ダントツだった。どこがそんなに人気だったのかときょろきょろしてみるが、みんな下を向いて祈っていたので、僕一人だけ場違いな感じだった。仏教徒なのに教会でミサを受けている気分。まあ、ミサに参加したことなんてないけどさ。

「―――1年4組、お化け屋敷」

「きゃあああああああああああああ」

「よっしゃああああああああああ」

だった。

「え?え?」僕はあたりをきょろきょろ見回して見せる。

何かの聞き間違えかと思ったが、周囲で狂喜乱舞しているのはクラスメイトのはずだから(違ったらこの2ヶ月間僕は何をしていたんだろう。ほかのクラスに紛れ込んで授業を受け続けていたことになるのだろうか)、聞き間違いではなさそうだ。じゃあ夢かと左頬をつねってみる。悶絶。相変わらず馬鹿みたいだったが、夢ではないようだ。

「ってことは・・・」まさかまさかの・・・?

「やった、やったぞ、耕太!!これで私の存在を全世界に知らしめることができたぞ!!飛べる!今なら私は飛べるぞ!!」

隣でさつきさんがめちゃくちゃぴょんぴょん跳んでいた。飛ばれるとさすがに僕の心臓が持たないので、さりげなく白装束(まだ着てる)の裾を掴んでみる。もしかしたら僕も飛べるんじゃないかという淡い期待も込めて見たが、残念ながら僕もさつきさんも飛べなかった。

抱き合う女子たち。ハイタッチしあう男子たち。運動会でも中学の合唱会でも1位を取ったことのない僕にとってはもしかしたら生まれて初めてかもしれない、これが勝利というものらしい。

「やったな、漆根」突き出された及川のこぶしを殴り返してみる。

「いたっ!」

思いっきりやりすぎていたかった。及川は何ともない。なんだこいつは。こぶしに神経が通ってないのか!?

「それでは2位と3位のクラスは1名、1位のクラスは2名、壇上に上がってください」

委員長から指示が出た。いまだ現実感のない僕はとりあえず座り込む。2名なら春日井さんと及川だろう。

「なんでだよ、お前が行けよ!」蹴られた。蹴られて、「ああ、そうだ。僕は文化祭委員だった」と思いだし、先に行ってしまった春日井さんの後を追う。

ちなみに壇上に上がるのは小学校と中学校の卒業式を除けば初めての経験。緊張でガッチガチだ。

「おめでとう、よく頑張ったわね。・・・ところで漆根君、その口元、流行ってるの?」春日井さんに賞状を、僕にトロフィーを渡しながら委員長は言った。僕は意味もわからず、「うわぁ、トロフィー重いなあ」とか思いながら首をかしげた。

「ま、いっか。じゃあ振り返ってアピールして」

言われるがままに振り返る。ここで人生初の称賛なるものを受けられるのかと思いきや、僕に降りかかったのは全校生徒分のどよめきだった。

「漆根!口元!血糊!!」

及川の重低音が体育館に響いた。実に楽しそうな声である。そして僕は口元をぬぐってみる。Yシャツの裾が赤く染まっていた。

「あああああああ!!」

そういえば血のり落とすの忘れてた!急いで着替えたから確認する間もなかったし!

「なんで言ってくれなかったの!?」隣の春日井さんに文句を言ってみる。

「え、ああ。そういう口なのかと思って」

「僕は君と同じ人類じゃないのか!?どんな口だよ!」

「もうそのままでいいわ。ほら、写真部がカメラを構えてるわよ。漆根君、トロフィーを掲げて笑顔よ」

・・・酷な。でもちゃんと笑う僕。もちろん全校生徒に引かれたわけだが。



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