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向こうの学校に行っても友達でいてくれるよね 2

「ここから消えろ」

お前が消えろ。

彼女たちは実に小気味いい悲鳴を上げてくれて、次のミイラ男にも悲鳴を上げていた。なんて素敵な客だろう。

まずいな・・・。年下もストライクゾーンに入ってしまいそうだ。まあ、入ったとしてももう僕は告白することはないんだろうけど。

さつきさんがいて、それだけでいい。ほかには何もいらない。

そんなことを考えていたら、入口の方で聞き覚えのある声がした。

「あっ、及川さん。いつも耕兄がお世話になってます」つむぎだった。

お化けと雑談してんじゃねぇ!

衝立が邪魔で及川がどんな反応をして、何を言ったかわからないが、後で聞いてみよう。

ちなみにつむぎはお化け屋敷が怖くないわけではないようだ。ほかのところでは女友達と同じように悲鳴を上げていた。確かにこういうのって正体がわからないから怖いわけで、だから僕はさつきさんは怖くないし、本物のお化け屋敷に行っても、それが知り合いだったら絶対怖いとは思わないだろう。え、なに?お前こんなところでバイトしてたの、ってなる。

「きゃあああああ!!耕兄が死んでる!!」しかし僕のところでどこよりも大きな、横にいる友達がびっくりするくらいの大きな悲鳴を上げた。

「生きてるよ!!」あ、ついつっこんじゃった。ていうかつむぎの中で、高校という場所は人殺しオッケーなのだろうか。そんな暗黒街みたいな場所をイメージしていたのだろうか。それとも、僕だからオッケーか。

「なんでなんでなんでなんで!?なんで首切れてるのに生きてるのっ!?」相変わらずだった。天然の上思いこみが激しい気質なのだ。ていうかこの場においては空気が読めない。お化け屋敷なんだから細かいことは置いといて普通に驚いてくれればいいのに。まあ、でも兄の首切りは細かいことではないのか。

「あ、そっか。耕兄前に首切っても生きてられるって言ってたもんね」

「・・・・・・」

言ったらしい。こうなるともしかしたら春日井さんにも言ったかもしれない。でもこれだけは言わせてほしい。

そんな嘘信じてんじゃねえよ!!

春日井さんはもちろん信じてはいないだろうけど、こいつはどうだろう。案外本気で僕の嘘を信じたのかもしれない。

「ちゃんと胴体と一緒に帰ってきなさいよ」

門限までに帰れ、というお母さんのようなセリフを残して僕の前を去っていくつむぎ。その背後でシュウ君が申し訳なさそうに頭を下げた。

ちなみにつむぎはちゃんと次のミイラ男では悲鳴を上げていた。

「・・・嵐だったな」さつきさんが言う。どうやらここはちゃんと休んでいてくれたようだ。

「・・・嵐でしたね」

家事は万能なつむぎだが、多分一人じゃ生きていけないタイプだ。兄としては危なっかしいので、目が離せないといったところか。しっかりした人とさっさと家庭でも築けばいいと思う。

それからも途切れることなく僕は脅かし続けたが、どうやら繁盛しているらしい。人が途切れることが決してない。それどころか並んでいる節すらある。春日井さんたちの努力も大きいのはもちろんだろうけど、何よりさつきさんの噂が大きいのだろう。脅かした人が「本当に出た~」とか言ってるし、さっきのバカップル以来、味をしめたのかちゃんと言葉を使って脅かしてるし。ただ、目の前で突然消えるということはしていないらしい。僕視点では常にそこにいるんだけど、そうらしい。トラウマにしないように大人の配慮ということだ。

「タイガー&ホースだな。タイガー&ホースは恐ろしいからな。最悪それが精神疾患につながることもある」

「どっかのプロレスラーのタッグみたいですね・・・」

今度委員長にそんなレスラーがいないか聞いてみよう。そしてそんな組み合わせからは恐ろしさなど微塵も感じとれないのは僕だけだろうか。むしろかっこいいと思う。ぜひとも遭遇してみたい。

「タイガーにやられてしまえ!そしてホースに蹴られてしまえ!」

「やっぱプロレスラーだ!」いや、そうとも限らないけど。

「きゃああああ!」

あ、いつの間にか目の前に中学生っぽい女の子がいた。女の子が僕の「やっぱプロレスラーだ!」にびっくりして悲鳴をあげてしまった。なんでだ?ノリか?

「いやしかしどうだ。暗がりの中で見知らぬ男が突然「やっぱプロレスラーだ!」と叫んだら驚かないか?」

「とにかく全力で逃げます!」そんな人とは絶対関わりたくない。・・・って僕か。

その時だった。

「あはははははは!タァ君だ!タァ君が面白い恰好してる!」

僕は身を固めた。とても嫌な予感がしたからだ。

「なんだなんだ。お化け屋敷で笑い声とは空気が読めないな。ここは私が1つ懲らしめて・・・」そう言ったさつきさんは衝立の向こうから出てきた人を見て止まった。

「なぜだ。なぜ小学生が一人でお化け屋敷に入っているのだ・・・?」

驚きもするだろう。しかもすごく楽しそうに笑っている。展示を見てはきゃはきゃはと、装飾を見てはあはははと、お化けを見てはけらけらと、少女は笑う、笑い続ける。

「あーーーーーー、コウタンだー!!」

ついに懐中電灯の光が僕に当たって少女は反応する。声とともにこちらに駆け寄ってきて、柵にぶつかってものすごい音がした。壊れてないかな、どっちか。とても心配だ。

「いた~~い!コウタンのいじわる!」自分から柵に突進したくせに、僕がやったみたいになってしまった。

何もしてないのに!何もできなかったのに!まさか今のでどうにかして僕に助けろということか?

「コウタン!無視をしちゃダメなんだよ!」

お化け役としてやっぱり客と雑談はできない。これはもうプライドの問題だ。さっきのつむぎに対しては突っ込みだからオッケーだ。突っ込みならなんでも許される。大統領にだって許されるだろう。なんせ優しさだから。

「絵美ちゃん。ちゃんと怖がらないとアイス買ってあげないよ!」ぼそっと、決して周りに聞こえないように僕は言う。女の子の顔がみるみるうちに青くなった。

「いやああああああ!!いや、いや、いやああ!!!」教室全体に響き渡るような悲鳴がとどろいた。学校が壊れるんじゃないかと思うくらいの声だった。

「わかった。わかったから、静かに!昼休みに買ってあげるから!」

目の前で泣き叫ぶ見た目小5の幼女。とても犯罪チックだ。

「ほんと!?」一瞬にして泣きやんだ。現金な娘だった。

「だからちゃんと怖がらなきゃだめだよ」

女の子は僕の忠告に4回高速でうなずいて、次のミイラ男でちゃんと悲鳴を上げた。

「耕太・・・。なぜ犯罪を・・・」

「ちがーう!」さつきさんがその単語を発した理由もちゃんとわかるんだけどこれは違う!

「君とは仲良くやっていけると思っていたんだがな。これでサヨナラだ」

「待ってください!話を聞いてください!!」

そんな僕の懇願も聞かずに去ってしまったさつきさん。もう午前の部も終わりに近づいていたが、最後の方の人はさぞかし僕に肝を抜かしただろう。それだけの表情をしていた自信がある。



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