あなたは自分の守護霊にも告白したのっ!? 4
帰り道、さつきさんはいつになく上機嫌だった。もう今にもスキップをしそうなくらい。しかし、残念ながらさつきさんはスキップができないらしい。不器用な人なのだ。じゃあ代わりの僕がスキップをしようかと思ったが、周りの目が怖かったのでやめておいた。昨日と違って今日は人が多い。
「まさかこんなに私に驚いてくれるとはな」
「さつきさんが怖かったんでしょうね」そりゃあね。しっかりとした雰囲気の中本物の幽霊を見れば誰だって驚くだろう。
多分幽霊っているのはそれがわかっているから心霊スポットは繁華街ではなく廃墟とかトンネルとかになるのではないだろうか。幽霊事情も結構大変だ。
「む、私が怖い?私が強面ということか、ばかもの!」全く見当違いの方向に怒りだした。
周りに人がいたし、怒りだしたさつきさんがかわいかったのでそのままにしておいた。
「ただいま」一日中低い声で唸っていたのでちょっと怖い感じのただいまになってしまった。リビングの方でどたどたと音がして、しばらくしてつむぎが出てきた。
「なんだ、耕兄か」誰だと思ったんだろうか。
「どうかしたのか?なんか今騒がしかったけど」拾ってきた捨て猫が暴れたみたいな。
「なんでもない。別に変な声がしたからびっくりしてつまずいたわけじゃないわよ!」
「・・・・・・」
言わなきゃいいのに。素直な妹だった。本当に詐欺師になれない性格だった。
「疲れたから今日は早く寝るよ。明日も早いし。とりあえず先にお風呂に入ろうかな。お風呂洗ってくるよ」
「もう洗った」間髪いれぬ返事だった。
「あ、ありがとう。あっ、まだ洗濯物畳んでなかったろ。じゃあ僕はそれを・・・」
「もう畳んだ」言葉が遮られた。
「じゃあ・・・」
「もうつくった。今すぐ食べられるから」即答だった。
「・・・・・・」あれ?何この至れり尽くせり。
「もう済んだ」
「・・・・・・そう」
何が済んだかわからないが、僕が思いつくよりもつむぎが思いつく家事の方が多く、それもすでに終わったらしい。メイドにでもなればいいと思う。
「では夕飯をいただきます」
そこで主人気取りになれば僕も立派な何かになれるかもしれないけど、あいにく僕にそれはできない。せいぜい執事気取りが関の山だ。
というわけで、何かいつもより気合いの入った夕飯をいただき、「あたしが洗うから耕兄はお風呂に入ってきなさい」というつむぎに食器の洗い物を任せ、もしかしたらつむぎがいつの間にか誰かと入れ替わってしまったんじゃないかという不安を覚えつつも一番風呂を浴び、つむぎがお風呂に入っている間にさつきさんにご飯を食べてもらい、
「さすがつむぎだ、耕太とはレベルが違う」と妹の料理を絶賛されるついでにけなされ、なにもやることがなくなって寝れるようになったのはいつもより2時間早い時間だった。もちろんまだ寝るつもりはない。
「なんなんでしょう、この至れり尽くせり。こう言っちゃなんですが、若干気持ち悪いんですが」布団に胡坐をかきながら、白装束を脱いで寝間着姿になったさつきさんを見た。どっちのさつきさんも素敵だ。
「かわいい妹ではないか。頑張っている兄のためにこうしていろいろ尽くしてくれるとは」
ああ、そういうことだったのか、と僕は手を打った。てっきりこうして飴を与えておいて最後にドン、だと思っていた。
「まったく、人の心を推し量れないというのも罪だな。君はもう手を売ってしまうといい」
「誰が買うの!?」そういうコレクターの方がいらっしゃるの!?
「しかし私はなかなか疲れたな。だからと言って眠れそうにはない。アドレナリンが分泌されているからな」と言いつつもさつきさんは大きく欠伸をした。あくびも絵になる人だ。ずるい。
「僕はあれですね。目をつぶると今日僕を見て驚いた数々の人の顔がリフレインされます」
懐中電灯の角度によってはたまに見えてしまうのだ。僕は脅かす人の方を睨み続けないといけないという自己矛盾をふんだんに含んだキャラなので、眼をそらすわけにはいかないのだ。現実からもな!!
「だから目はかなり疲れてますけどね」眼薬は必需品だ。普段はささないので、昨日言われて夕食後に買ってきた。ただ、昼と終わった後の2回しかさしていない。明日も使うといっても、それも回数が限られているので、多分僕が大人になるまで僕の手元に残ることになる。
「では寝るまでこういうゲームをしよう。基本はしりとりなのだが、難易度が上がる。人名で、かつ最後から2番目の言葉が次の言葉の頭になる。だからまあ、同じ名前を何度でも使っていい」
「いいですね。じゃあ、僕の名前から、漆根耕太!」
「漆根耕太だから「う」だな。よし、漆根耕太!」
「むむ、いいところをついてきますね。漆根耕太!」
「漆根耕太!!」
「漆根耕太!!・・・って何これっ!?」何が楽しいのっ!?ただ僕の名前連呼してるだけじゃん!確かにちょっとは楽しかったけど!!
「今度学校でやってみるといい。10人以上がお勧めだ」
「10人以上で僕の名前を連呼するんですかっ!?」どんなシュールな光景だよ。
「はいはい、もう寝ますよ」僕は電気を消して布団にもぐりこんだ。
これから暑くなるからそのうち掛け布団では暑くなるだろう。そのうち夏用の毛布を出さなきゃな、と考えた。
「ちぇ、これからが楽しいのに・・・」そんなありえない発言をして、さつきさんも布団に入り、3分後には寝息を立て始めた。
どうやらさつきさんのアドレナリンはやる気がないらしい。僕も疲れていたみたいで、そのうち眠ってしまった。