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あなたは自分の守護霊にも告白したのっ!? 3

午後の部。明日になると一般のお客さんが大勢来るので、生徒は今日のうちにいろいろな出し物を回ろうとしている。残念ながらお化け屋敷が終了してから今日の閉会式までの一時間しか僕と及川は遊べないけど、それは別にいいだろう。むしろいいだろう。何せこの学校には僕を殺そうとする被害者の会のメンバーがあふれているのだから。

さらに本物の幽霊が出る、という噂が広まってしまったらしく、なんかすごい数の人が来た。男の若い先生とかも来た。楽しんでいる感じだったが、さすがに先生にまで問題視されると中止になりかねないので、さつきさんには休んでいてもらう。

「いいんだぞ、耕太。正確に「消えてくれ」と言っても」

せっかくオブラートに包んだ僕の言い方をわざわざさつきさんは言い直した。確かに正確な言葉の使い方だが、言葉の響きがターゲットに銃を突きつけている殺し屋の一言みたいになっている。

「いやいや、無理ですよ。僕そのセリフ、トラウマですから」

言われたなあ。最近だと春日井さんに。銃ならぬシャープペンを右目のあたりに突きつけられて。ただ、気取ったような言葉づかいは萌えてしまったものだ。

前にも言っていた通り、誰にでも見える「アピールタイム」(命名さつきさん。僕ではない。断じて!!)は疲れるらしく、だいたい3回に1回くらいのペースになった。明日になるともっと大変になるので、今日中にどれくらいならいけるのか試してみるそうだ。

まじめな話をすると、試してみると言えば、今日の出し物自体がそれで。今日一日やってみて、少し改変するらしい。出し物の順位付けは来客にしてもらうことになっている。ようするに本番は明日だ。

「破滅しろ・・・」

僕は言う。大多数の人からすれば、いやお前が破滅しろよ、って感じだが、しょうがない。何せ僕に用意されたセリフはすべて謀ったように僕に跳ね返ってくるような言葉なのだから。

「きゃああああ!」

ついに悲鳴を上げつつ懐中電灯を僕に向かって投げつけてくる女子に遭遇してしまった。もちろん僕は身動き一つとることができない。1ヵ月たってようやく治ってきた額の傷に当たり、血が出たのがわかる。彼女はぐったりしてしまい、一緒にいた女の子に抱きかかえられるようにしてようやく立ち上がった。

「あ、ごめん。懐中電灯持ってってね」その子を安心させるためでもないが、できる限りの笑顔を見せる僕。

額から血が滴った血の味がした。そして懐中電灯は僕の下から照らされているわけで、血まみれで笑顔のさらし首(というか漆根耕太)は相当な怖さを演出したのだろう。隣にいて、今は休んでいる(消えているのではなく、休んでいる)さつきさんさえも悲鳴を上げた。

もちろんさつきさんの声はもちろん女の子たちには届かないのだが、それとは無関係に抱きかかえていた女の子も腰を抜かしてしまったらしい。2人して座り込んでしまった。

さて、ここで問題。僕は今とても助けに行きたいのだけど、僕の首は例によって南京錠でがっちりと固定されている。

というわけですぐに僕は次に脅かす位置にいるミイラ男さんを呼んで、来てもらい、事情を話すと、ミイラ男さんが出口で懐中電灯の回収をしていた春日井さんを呼んできた。

そして春日井さんさえも僕を見て悲鳴を上げた。こっちがびっくりした。春日井さんがまさかあんな筆舌に尽くしがたいほどかわいらしい悲鳴を上げるなんて思わなかった。春日井さんの表情が見えなくてよかったと思う。きっと僕なんかギャップでイチコロだっただろう。さすがにもう一度告白したら殺されてしまうだろうから。

というわけで春日井さんの助けで女の子たちは泣きながら外に導かれ、僕は春日井さんに目をそらされながら血を拭ってもらい、お化け屋敷は再開された。傷は前よりは浅かったらしく、血はすぐに止まった。

・・・・・・明日はさらし台の鍵を外してもらえるように真剣に懇願してみよう。ていうかなんでぼくは当たり前のように鍵をかけられて黙っていたんだろうか。Mなのか?

・・・否定ができない!

そんなこともあり、終わった頃には僕の疲労はピークだった。メイクは落とすだけなら簡単なので、すぐに落して、鏡を見る。血はすでに固まっていた。絆創膏をつけることはお化け役としてのプライドが許さないので、明日は軟膏でも塗っておこう。

「喫茶店でも行こうぜ、漆根」

というわけで僕と及川は地球上でもっとも非人道的な引き算の勝者である2年生が開いている喫茶店に行った。服装はそのままなので廊下を歩けば例によってじろじろ見られる。

「よくお前は平気だよな」僕なんか耐えられない。

「俺はお前と違って恥をさらしてるわけじゃねえからな」

「恥って言ったな!」

「私たちもお邪魔していいかしら?」春日井さんが友達を3人連れてやってきた。もちろん断る理由はない。

「ライバルはチェックしておきたいのよ」

喫茶店が好まれる理由は楽だから、だけではない。単純にほかの出し物よりも大人びたつくりにしやすいし、入りやすいので、票を集めやすい。去年と一昨年のグランプリは喫茶店だったそうだ。だから春日井さんが僕らと喫茶店に行こうと言ったのはもののついでだ。僕たちは携帯ストラップのようなものだろう。

終了時間が近づいてきて食材が底を尽きかけていたので、僕らはすんなり入ることができた。春日井さんたちは内装をチェックしている。僕と及川は残されたメニューを確認して、6人がけのテーブルに座った。ちなみにさつきさんは校内をぶらぶらしてくる、と気に入っている自作の白装束のまま行ってしまった。

「うちも結構繁盛しているわ。常に人が並んでいたし、最後には断らなければならなかったわ。明日はもっと大変になるかも。漆根君、死なないでね」

「えっ!?いつ僕に死亡フラグが!?」

「整理券は用意していなかったから、入場を断った方には入場券代わりに1人1つの手榴弾を渡しておいたわ」

「君は自分の教室を戦後の日本にするつもりなの!?」

というより、どこで仕入れた、手榴弾!

「まだぬるいわ。これは復讐なのよ!」

「いやいや何言っちゃってんのっ!?どうしたの突然!?」壊れちゃった。春日井さんが壊れちゃったよ!

「漆根君に脅かされるなんて、人類史が始まって以来の失態だわ・・・」気にしていたらしい。多分脅かしたことよりもあの悲鳴を。

何せかわいかったからなー。現代のツールに保存することはかなわなかったけど、僕の脳内には永久保存だぜ!でも出力はしない。あれは僕のものだ!!

「あーあ、これから私のあだ名は3年間あの悲鳴になるんだわ・・・。漆根君のせいよ」

「いやいや、なんでいちいち春日井さんを呼ぶたびに絶叫なんかしなくちゃいけないの!?」

「絶叫なんかしてないわよっ!!」

キレ出した春日井さんだった。ていうか今この人確実に自分で墓穴掘ったよね。

「はあ、私の「あいつそんなに怖くないのになんであんな気合い入れちゃってんの、恥ずかしっ」計画が・・・」

「そんな計画だったの!?」ていうかあの悲鳴はそこまで大失態だったの!?別に女の子っぽくてよかったと思いますぜ。

「策士策に溺れるとはこのことね」

「いや、明らかに策自体が最初から溺れてたけどね」どうりで僕だけえらくしっかりと作られていたわけだ。ということは僕はみんなの期待を裏切っちゃったわけか。ああ、僕の最終チャンスが。

「でもいいじゃん。結果的に反響よかっただからさ」

「はんっ、自慢?」

「・・・・・・」

そこまで悪いことしたかなあ。

そうこうしている間に午後の部終了の時間が来てしまい、僕らは自分たちの教室に戻る。僕が春日井さんの怒りを受けている間、及川たちも及川たちで楽しく話していたらしい。おっと、危ない。及川たち「は」だ。僕はそれなりに楽しかったけど、怒っていた春日井さんはそうでもないだろう。まったく、申し訳ない。

まいったなあ、明日には春日井さんにも楽しんでもらわなきゃ、と僕は真剣に考えながら教室に戻った。

放送で明日も頑張りましょう的なアナウンスがなされ、それから下校時間までは壊れてしまったセットを修理したり、今日一日で見つかった問題点を改善したりの時間に当てることになる。もちろん僕には改善案を考えるような頭脳はないので、及川に従って修理を手伝うことになる。僕に激情した女子生徒によって蹴破られた柵は直すのがめんどうだし、そっちの方が趣が出るというこじつけでそのままにされた。

ちなみに僕の必死の懇願によって、明日は僕のさらし台に鍵がかけられないことになった。春日井さんは最後まで反対していたけど。



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