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あなたは自分の守護霊にも告白したのっ!? 1

翌日も僕が目覚ましを止め、さつきさんの猛攻をかわした。朝に少し準備あるので、いつもより早い。つむぎはまだ寝ているようだった。さつきさんは僕がトイレに入っているほんの少しの隙をついて、白装束に着替えていた。僕は涙目でさつきさんを睨み、しかし、その新鮮な姿に見蕩れると、恥ずかしがられ、怒られた。

さすがに早すぎたのか、僕の登校ルートには僕とさつきさんしかいなかった。というわけで今日は回り道せず、堂々と学校に行くことにする。

「そもそもだ、人間を2種類に分ければ自分か他人以外に分けられないと思うのだ、私は。ゆえに自己中心であることはそれほど悪いことだとは思わない。なんせ他人の幸福を自分では感じることができないんだからな。他人の幸福が喜びだというのは、その他人が幸福のゆえんが自分にあり、自分に感謝を持ってくれるからだろう。それはつまり、自分のためになるからだ」

「え、なに突然言い出してるんですか!?」本当に突然だったのだ。さつきさんは哲学を語りだしたのだった。

「しかし、最近の日本ではこの自己中心の範囲が狭すぎる。他人に奉仕して、ほんの少しでも自分に返ってくれば、それはそれで自己中心といえるのではないか。そこまで自己中心の定義にはめれば、自己中心であることはむしろ推奨されることだと思うぞ」

「オチ、ありますか?」

「ない!!」

「ないんかい!」じゃあ、もういいよ。つまらない会話なんて時間の無駄だ。

「よし!君もようやく笑いなしでは生きなれない体になったか」

「しまった!いつの間にっ!」明らかにさつきさんの洗脳だった。もう、僕は元に戻れそうにない。

「いいのではないか。自分が楽しいから周囲に笑いを提供する。自己中心だ」

「おお、なんか僕って捨てたもんじゃないなって思いました」こんなすがすがしい気分は久しぶりだ。

「そうだろう。だから、死んじゃ駄目だ!!」

「えっ、いつ僕に死亡フラグが立ったんですか!?」僕は頑張って今日を生きてるよ!

「君は今日、死んだ方がまし、と思うことになるだろう・・・」さつきさんが深刻な顔で僕を見た。

「ものすごいリアリティをはらんでいるんで一概に否定することができません・・・」なんせ全校生徒に僕の恥をさらすんだもんな・・・。お客さんの懐中電灯が看板を照らさないことを祈ろう。もっとも、すでに学校の多くの人は僕の恥を知っているんだけど。生徒どころか先生まで知ってるんだけど。

「いいんです。それも含めて今の僕ですからね。僕はちゃんと生きることに決めてるんですよ」後ろ向きだが、それでも前に歩いていけるのは、多分さつきさんのおかげだろう。

本当に、心の底から感謝している。

「ちっ」

「ちっ!?」なんで?なんで舌打ち!?

「君は3歩下がってそこで転ぶから面白いのに・・・」

「最悪な一言だ!」今までのいい気分を返せ!

「それはできない、私が楽しいからな。自己中心は推奨されるべきものだろう?」

「結局そうやって自己弁護に走るんですね。いいですよ、僕はそんな世間の荒波にも負けずに頑張って生きていきますから」

僕は顔をあげて学校を見据える。大きく息を吸って、校門に足を踏み入れた。


「あら早いわね、漆根君。そんなにやる気を出してもあなたにできることは首と恥をさらされることだけよ」

教室に入ると、春日井さんのほかにも数人来ていて、点検をしていた。僕も一応暗幕が破れていないかや光が入り込まないかをチェックする。異常なし。ていうか昨日手持ちぶたさに何十回とチェックしたので、誰かがいたずらでもしない限り、何かが変わっているはずがない。まあ、勝負ごとなので、その可能性も考慮しておいて損はないだろう。

お化け役といえども、まず全校で開会式なるものがあるので、まだ衣装を着たりメイクをしたりができない。教室にいても邪魔なので、ふらふらしていることにした。

「いいところに漆根君」廊下に出たとたんだった。そんなわけないのに、まるで待ち伏せしていたように眼鏡が素敵な委員長がそこにいた。

間違いなく春日井さんより大変な役職なのに、それを苦にしている様子もなく、今日もやっぱり素敵な眼鏡と笑顔だった。

「さあ、暇な漆根君は荷物運びだね」親指を立て、体操のお兄さんのように委員長は言う。

本当にぴったりなタイミングだった。まるで春日井さんと示し合わせて僕をここで待っていたみたいだ。そんなことあるわけないのにね。

「いっぱいあるよー。昨日のうちにやっておこうと思ったんだけど、どのクラスも忙しくて人が割けなくてねー。まあ、君はさらし首役だから今日は筋肉痛で腕が上がらなくなっても別にいいよね」本当はあの恰好を維持するためにさらし台の下で手をつくのだが、その設計を知らない委員長にそれを悟ってもらうのは無理というものだろう。そもそも委員長の頼みごとを断る権利など僕にはないので、おとなしく手伝うことにする。これもさつきさん流の自己中心だろうか。

「おっ、最近君力ついてきたねー。私の特訓の成果かな?」

「特訓だったんですか?」どうりで委員長に会うたびに重いものを運ばされるわけだ。

しかし力ついたかな?昨日の暗幕だけでも今日の僕はちょっと筋肉痛来てるんだけどな。

「このままいけば君をプロレスラーにすることも夢じゃないかも」

「そんな願望があったんですかっ!?」そうなったら委員長が僕のファンになってくれたりするんだろうか。

「ううん、漆根君がリングでぼこぼこにやられるのを楽しく観戦するんだよ」

「想像を絶するスパンの復讐だっ!!」バイオレンスだよなあ、ほんと。

眼鏡は誰でもまじめに見えちゃうから怖い。

「その映像を被害者の会に売って私は大もうけよ」

「えらく俗物的ですね・・・」

「845人だからいくらかな・・・?」

「ちょっと待て!前よりも300人以上増えてるよっ!!」あれから僕何もしてないぞ。

なんでハツカネズミのように増えてるんだ!

「そうそう、リーダーが変わったのよ。猿からトキになったの」

「天然記念物に告白はしていない!」トキって・・・。最近放された二羽のどちらかじゃん。いや、確かメスは一羽だったから、テレビに映ってたあれが今のリーダーか。

「ほらほら、無駄口叩いてていいのかな?荷物はこれだけじゃないんだよ?」委員長は楽しそうだった。

いや、普段から笑顔を絶やさない人だから、判断できないけど。笑顔以外で僕が見たことある顔は会議中のまじめな顔か、前に僕を睨んでいたあの顔だけだ。

とにかく、ほかの応援を呼ぶ気はないようなので、僕は頑張る。すべて運び終えて教室に戻った頃には、僕以外のすべての人が揃っていて、僕の両腕は上がらなくなっていた。



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