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それは僕にスリーサイズを測れっていう振りですか? 2

「・・・学校では話しかけないで下さいよ、さつきさん」学校までは歩いてほんの数分。実際はさつきさんと連れ立っているのだが、傍から見れば僕一人いるようにしか見えないだろう。それでも別に構わない。僕は充分に幸せだった。

快晴も快晴。雲ひとつない。やはり綺麗な夕焼けの次の日はよく晴れる。昨日のあの時は夕焼け空をとてもじゃないが綺麗なんて形容できなかったけど。でも今から思えば、あれはとても綺麗だった。

「わかっている。そういえば君は私の事をさつきさんと呼ぶが、私はまだ君の呼び名を決めていなかったな」

そういえばそうだ。「君」としか呼ばれていない。

「う~む。漆根耕太。呼び名は短いほうがいいな。あだ名を考えるか」

なんだろう、わくわくするな。確かに耕太は普通すぎる気もする。二人だけのあだ名を決めるなんてまるで恋人のようじゃないか。

「やはりここは笑いを追求しなくてはいけないし」

「・・・・・・」

本気か?

「そうだ!閃いたぞ。漆根だから、『シネ』って言うのはどうだ?」

「それはダメです、絶対!ダメ、ゼッタイ!愛する自分を大切に!」僕は努めて冷静に答える。ものすごく頑張って表情を押し殺している。多分及川あたりなら僕の額の怒りマークを見つけられるだろう。

「違う、違うぞ。アクセントは『ネ』じゃなくて『シ』の方にある。『イネ』と同じだ」

「・・・却下します」

「そうか、では頭文字をとって『うっこ』てのはどうだ?」

「・・・・・・」

うわあ、この人本格的にダメだ。一体僕をどうしたいんだ。なぜそんな大して恥ずかしくもないはずなのに羞恥をかきたてる呼び方を・・・?

「これもダメか。では・・・・・・おっ、ひらめいた!!」

さつきさんは自信満々な顔をしている。今度こそ大丈夫か。

「漆「ね」耕「た」で、『ネタ』だ」

「それはあんたが今やってることだ!!」

はっ、しまった。つい突っ込んでしまった。周りから奇異の目が向けられている。そうなんだよな。周りから見れば僕は今1人で突然叫び出した人になるんだよな。僕はその目から逃れるためにうつむいて、遠回りになる脇道に入った。

「・・・耕太でいいですよ」うんざりした口調で言った。まったくただでさえ僕は変人というレッテル(それがたとえ正鵠を射ているものだとしても僕はそれをレッテルと言おう)を張られているのだから、これ以上のおかしな行動は慎みたいのだ。

「・・・まあ、いい。ただし!」さつきさんの人指し指が僕の鼻先に突きつけられた。

「何かいい呼び名を見つけたら即座にそれで呼ぶからな!!」

「・・・・・・」

臨むところだ。そうしたら僕はあなたを「さっちゃん」と呼んでやる。


かなりぎりぎりに教室に入ったのに及川は来ていなかった。多分サボるつもりだ。昨日自分がボロボロ泣いた席に着く。涙の跡など微塵もない。まるでその記憶が夢だったみたいだ。いや、夢だったのかもしれない。正直よく覚えていないから。その後の出来事に比べるとあまりにもどうでもいい、どうして僕は生きているのかという疑問以上にどうでもいいことだ。今が楽しければそれでいい。

「耕太、君は好きなものは先に食べる派か?後に食べる派か?・・・私は断然先に食べる。食事というのはマラソンと同じでスタートが大事なのだ。最初に食事を楽しむ気分をつくっておけば食べ終わるまでおいしく食べられるからな」

「・・・・・・」僕は無視する。無視して「のたまう」に赤い蛍光ペンで線を引き、右側に「「言う」の尊敬語「おっしゃる」」と書く。

「耕太、君はベストセラーの本があると『みんなが読んでいるから』という理由で読んでしまうタイプか?私の場合はその作者によりけりだ。よりけりだが、大抵の場合は読んでしまう。話についていけないと悔しいからな」

「・・・・・・」僕は無視する。無視して「He devoted his life to studying biology」の下に「彼は人生を生物の研究に捧げた」と書いた。

「耕太、君は『身から出たさび』という言葉に対して恐怖を感じないか?言うならばそれは人体の酸化。すなわち老化現象だ。つまり自業自得を知るほどに年老いていくという事になる。・・・その理論でいくと私に『身から出たさび』は使えないな。歳をとらないからな」

「・・・・・・」僕は無視する。ちょっと笑いそうになったけど。無視してノートに「原子は陽子と中性子からなる原子核と、その周りの電子から出来ている」と書いた。

「耕太、・・・私のスリーサイズを知りたくないか?」

「・・・・・・っ」僕は・・・無視、した。できた。頑張った、僕。しかし、そのせいで「8x+13>4,5x-28<6」という先生の質問に答えられなかった。

「耕太、・・・・・・いい加減にしろっ!!」

「・・・・・・」あんたこそいい加減にしろ、と思う前に僕の身体が後ろにのめった。

「いって~」さつきさんが思い切り僕の椅子を後ろに倒したのだ。当然そこに座っていた僕は椅子と一緒に倒れる訳で。当然先生の目もクラスメイトの目も僕のほうに向く訳だ。そして当然サボりじゃなくて普通に寝坊していたらしく、遅刻して今僕の前に座っている及川が爆笑する訳で、

「あっはっはっは!!漆根。お前小学生かよ」

「漆根君。放課後生物室までいらっしゃい」

・・・当然授業を中断された生物担当にして担任の先生の怒りを買うわけだ。


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