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つまり、私を騙したのね。はい、じゃあ死刑 2

文化祭前日という事で、進学校なのに文化祭に異常なほど力を入れているこの学校では今日の授業は一時間で終わり。それから下校時間までクラスごとに準備に入る。中でもこのクラスはお化け屋敷と言う事で、他のクラスよりも装飾が大変だ。

そしてこの僕、文化祭委員たるこの僕が今どうなっているかと言うと、とても意外に思われるかもしれない。

・・・・・・とても暇だ、ごめんなさい。

いや、ちょっと待ってくれ。言い訳を聞いてくれ。お化け役は1人ずつ衣装合わせをやっているのだが、僕の順番はまだ来ていないのだ。なんでもまだ完成していないらしい。だったら僕も手伝おうと申し出たのだが、まだ秘密だからと意味のわからない説得をされ、結局何もできずにこうしてぼんやりと外を眺めている訳だ。

「はい、漆根君、準備できたよ」

ようやくか、と僕は振り返る。振り返る途中、ちょうど90度のところで思い止る。今声をかけたのは誰だ。春日井さんとは口調が違う。だが、確かに「漆根君」と呼んだぞ。もしかしてそれは僕の聞き違いで、本当は「苦しめ君」と呼んだのかもしれない。僕は苦しめ君というクラスメイトを寡聞にして知らないが、あだ名でならあるのかもしれない。交友関係が網状でもなく線状でもなく、点な僕は知らなくても当然だ。

「漆根君、早く!」

あれ?今度こそ聞き違いじゃないぞ。確かに僕の名前が呼ばれたぞ。そして僕はもう90度振り返り、振り返り過ぎたので30度戻った。

僕に向かって手招きしていたのは衣装の責任者の人だった。ああ、これは夢か。夢なら流れるがままに任せよう。ということで招かれるままに教室の一角に向かう。

「はい、ここに入って」と言われるがままに木で作られた結構手が込んでいる柵の中に入り、柵の外にいるみんなのほうを向いて立て膝になった。

「それじゃあじっとしててね」

何の準備か僕には皆目見当もつかないが、とにかく僕の目の前には木の台のような物が迫ってきていた。台の部分は中心が半円に削られていて、それが僕の首を絞めるようにフィットした。僕が突然の事態に驚いていると、更に背後から何かが僕の首の後ろ半分に装着された。まるで僕のためにつくられたみたいだ。

そして思った、これは僕の夢ではない。苦しいまでの現実だ、と。どうやら「苦しめ君」というのは僕のことらしい。耳の横でカチャリ、とまるで留め金をするかのような音がした。要するに今の僕は処刑されそうになるルフィ状態だというわけだ・・・って処刑!?

「あっはっは、漆根、似合うじゃねえか」そう言って、笑いながらついたての向こうから出てきたのは、もちろん及川なのだが、なんと大入道の格好だった。スキンヘッドは後頭部まで白塗りにされ、目尻に真っ赤な化粧をされていた。胸筋を強調するように胸元が開かれた装束で、一つ一つが握りこぶしくらいの大きさがある数珠を首から提げている。

「あはははは、なんだ及川、その格好。いつからお前は出家したんだよ」煩悩の塊みたいな男の癖に。

「いや、色欲の塊のお前に言われたくないっていうか、お前のほうが絶対面白いことになってるからな」そう言って眉間に皺を寄せた及川は確かに怖かった。いや、素顔だけで十分怖いけど。大入道には不似合いの携帯を取り出し、僕の写メを取り、首を固定されて身動きできない僕に見せてくれた。

「ええっ!!」

―――僕は、さらし首になっていた。

身体は上手く隠されていて、首だけが飛び出している。角度によっては確かに生首に見えるだろう。そして極めつけは僕の横に設置されている看板。残念ながら写メでは文字までは読めないが、罪状に何が書いてあるかおおむね察しがつく。

「『罪人、漆根耕太。罪状、2年間に渡って100人を超える乙女を不幸にしたその罪、許しがたく、晒し首の刑に処す』だってよ」

「察しがついてるから読まなくていい!」なんだこれは、こんなものを本気で掲示するつもりなのか?僕は首だけじゃなく恥までさらさなければならないのか?

だいたい本番は暗がりなんだから字なんて書く必要ないじゃないか!!

「ていうかこんなむごいこと考えるのは・・・」

世界広しと言えども一人しか心当たりがいない。そう、あのさつきさんにさえ師匠と崇め讃えられているあの女性。

「よくわかったわね、もしかしてストーキングでもしていたの?」

やっぱり春日井さんですよね。

春日井さんは僕が涙目で睨んでいる事にも気づかず、悩ましい顔をして腕を組んだ。

「でも・・・どうも、リアリティが足りないのよね」

「いや、十分リアルでしょ。真実過ぎるよ」100人を超える、って言う部分は若干のオブラートに包まれているけど。

本当はもっと多い。全員覚えているかと聞かれたらちょっと厳しいけど、人数はちゃんと記録している。多分将来的に携帯の4桁の暗証番号にするだろうな、と昔は考えていたものだ。だから、そのオブラートはもしかして春日井さんなりの配慮だろうか。

「いえ、罪状のことではなく、さらし漆根のほうよ」

「さらし漆根っ!?」僕は新種の妖怪なのか?

「うん、だからここから染めた綿とか血糊とかで装飾していくんでしょ?」装飾担当の方が春日井さんに進言した。それでも春日井さんは悩み続ける。僕は突っ込みの準備として大きく息を吸い込んだ。

「どうかしら、本当に首を切るというのは?」

「え・・・」流石の僕も突っ込むことができないセリフだった。

だって顔がマジだもの。明らかに周りが引いてるもの。僕が告白して僕に多大な恨みがあるはずの方々すらも引いてるもの。

ついに春日井さんがクラスにおけるまじめな優等生としての地位を捨てた瞬間だった。

「いいな、それは。ぜひ見てみたい」

「やらねえよっ!!」僕はみんなから見て誰もいない空間にいる春日井さんの弟子に向かって突っ込みをした。さっきからさらされている僕を見て大爆笑している人だ。

春日井さんを含め大多数の人々はちょっとテンポの遅い突っ込みだと判断してくれたらしい。危ない。この格好のまま病院に行くところだった。いや、流石にここからは解放してもらえるだろうけど。

「大丈夫よ、斬ってもちゃんと生えてくるから」

「本気な顔でなに言ってんの!?生えないよ!切ったらそこで終わりだよ!!」

「え、生えないの・・・?そんな、この間生えるところを見せてくれるって約束したじゃない!」

「言ってないよ!?仮に言ったとしても明らかに一時のジョークだよ!高校一年生にもなってそんな冗談本気にするなよ!!」

そして、そんなセリフの数々を表情豊かに喋るなよ!周りが本気にしちゃうじゃん!!

「つまり、私を騙したのね。はい、じゃあ死刑」

「判決はやっ!!」

「それもそうね。じゃあこうしましょう。せっかく裁判員制度があるんだし、私たち高校生もその予行練習と言う事で。では、漆根君の死刑に賛成の方・・・」

―――満場一致だった。さつきさんさえもわくわくした顔で手を挙げていた。なにこの無駄にノリのいいクラス・・・。僕はどこで生きればいいんだろうか。いっそのことどっかの大使館に亡命でもしようか。

「それでどうするの・・・?」ついに装飾担当の責任者が切り出した。

そうだよね、冗談やってる場合じゃないよね。みんな忙しいもんね。一番忙しい春日井さんが言い出してる辺りがおかしいけど。

「誰が斬るの?」と、彼女は言った。

「・・・・・・」

ガーナ辺りにしようかなあ。

そして僕の首が乗っている台に置かれるカッターナイフ。もともと身動きの取れない僕だが、恐怖で完全に身動きが取れなくなってしまっている。せめてもの抵抗を、とカッターに息を吹きかけて台から落とそうとしたが、僕の肺活量では無理だった。

もう何回改めているか自分でもわからないが、改めて僕の罪の重さを実感した。その時だった。

「おーい、春日井さ~ん。暗幕の準備できたから取りにおいで・・・って何をしているの、やめなさい!!」

僕の位置からは顔は見えないが、この声とゆるい喋り方は眼鏡が素敵な委員長様だ。どうやら僕を助けてくれるらしい。救いの女神だ!

「漆根君なら殺害しても罪に問われないっていうか逆に表彰されるからべつにいいけど、斬ると片づけが面倒でしょ!明日の準備に支障をきたしちゃう。化学の先生に掛け合ってあげるから毒殺にしなさい!!」

「・・・・・・」やっぱ悪魔だ!!

とうとう面白がっていたノリのいいクラスメイトたちに哀れみの目で見られる僕。僕の罪を軽く見ていた男子も今後軽々しく女性に告白することはないだろう。

「・・・冗談よ」「・・・あは、冗談だって」

声をそろえて言う2人。僕は首を固定されたまま、いつかこの人たちに冗談交じりに殺されるんだろうなあ、と思った。



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