大隕石襲来っ!? 2
「・・・という事があったんですよ」
放課後、自宅にて、せかせかと何かを作っているさつきさんに僕は相談を投げかけてみる。さつきさんは大きなシーツを裁ちばさみで丁寧に切っていた。若干なれない感じであったので、代わりにやろうかと申し出たが、自分でやると言い張られたので僕としては手を出すことはできない。代わりに口を出すことにした。
さつきさんはゆっくりと動かしていた裁ちばさみを止めて脇に置いた。僕に向き直ってすべてを許す母親のような微笑を浮かべた。
「それは素晴らしい。実に素晴らしいことだな」
「さつきさん・・・」これはつまり、僕の評判が人から話しかけられるくらいに上がったという事なのだろうか。だが、そんな夢みたいな・・・。
「素晴らしいことだ。・・・だから、今から一緒に病院に行こう?」
「幻覚+幻聴じゃないです!」
・・・久しぶりに優しくしてくれるなあ、と思ったらこれですか。もういい。グレる、グレてやる。そして紆余曲折経て警察に捕まり、グレた理由をさつきさんのせいにしてさつきさんの社会的地位を貶めてやる。
「どう考えてもそれは幻覚だろう。ほら、あれと一緒だ。磁場の強いところに行くと見えると言う・・・」
「それって幽霊は脳内作り出した幻覚って言う研究じゃないですか!何自分の存在否定しちゃってんですか!?」
「ところで、君はいつも1人でブツブツ何を言っているんだ?」
「やめてくれー!自分を貶めてまで僕をいじめようとしないでくれ!!」
「耕太が四苦八苦するのなら、私などどうなってもいい」
「いっそ潔い!」男の中の男だ。
ん?さつきさんはまごうことなき女性だから女の中の女?あれ?違うな・・・。男の中の女?女の中の男?
・・・まあ、いいや。
「幻覚ではないとしたらもっと大問題。いや、大事件だぞ。間違いなくその三人はいじめを受けている。明日担任に言っておけ。『クラスでいじめが起きてます。なんと僕に話しかけてきた女子がいるんです』ってな」
「・・・ってな、じゃないですよ!そんなこと話したら僕のキャッチコピーが変人から異常者になっちゃうじゃないですか」
「異常車か。恐ろしいキャッチコピーだ。リコールでまくりだな」
「回収騒ぎだ~!」
さつきさんは再びはさみを手に持って布を裁ちにかかる。めちゃくちゃ肩がこわばっていた。不器用な人だった。
「そろそろなに作っているか聞いてもいいですか?」
「話しかけるな!」
なんとさつきさんに春日井さんと同じことを言われた。僕はゆっくりと部屋の隅に移動して膝を抱いた。
「ふう、こんなものだろう。どうだ、耕太。・・・って、あれ?耕太?」
残念ながらうつむいている僕の目にさつきさんの姿は映らない。
「おっ、なんだ。そんなカオスな場所に同化していたのか。何のかくれんぼのつもりだ?おい、反応しろ。耕太、こーうーたー」
僕の後頭部がぺしぺしと叩かれている。それでも僕は顔を上げない。今さつきさんの顔を見たら涙が収まらないだろう。それぐらいのショックだった。傷口に塩化ナトリウムをぶち込まれた気分だ。
「それは普通に塩と言え。おい、どうした。君はこの程度でへこたれるような弱い男ではないだろう。ちゃんと100キロマラソンだって走りきったではないか。忘れたのか?このわたしが延々と『負けないで』を歌っていたのを」
「・・・・・・」
「しかしこの曲、前向きなようで微妙に後ろ向きだな。普通に『勝って』でいいではないか。人生は勝たなければ意味が無いのだから」
「・・・・・・」
「さあ、そろそろ顔を上げるんだ。さっきから私が1人で喋ってるみたいになってしまっているではないか。そんな苦行を私にさせるな。そうだ、ここが私の一級品のギャグを聞かせてやろう、どうだ?」
「・・・・・・」
「う・・・む・・・、とりあえず聞かせてやる。―――とある村の少年が作った林檎を町の業者に持って行ったんだ。その業者はいつも少年から林檎を買ってくれる人でな、ただ、最近天気が良すぎて林檎が良く取れるからあまり売れなかったんだ。だから業者は少年に言った。『林檎で支払ってもいい?』」
「ダメに決まってんじゃん!」
あっ、やっぱり突っ込んじゃった。まいったな、突っ込みは何にも勝るカンフル剤だ。
「だいたいふりが長いのに大したギャグじゃないですよ!」と、顔を上げてさつきさんを見た。
「へぶっ!?」
ビンタをくらった。
「???」なんだ、何が起きた?なぜ僕は殴られた?そう思って僕は顔を上げた。
「・・・・・・あ」
目を潤ませていらっしゃった。
どうしよう!どうしようどうしよう!!無視したからだ!さつきさんは誰ともかかわれない日々を過ごしてきて、だから・・・ああ、この世の終わりだ!!まさかハルマゲドンがこんな形に訪れるなんて・・・!
「・・・・・・グーでお願いします」
などと、ついに僕は超真性Mの発言をしてしまった。いや、実際は嫌だよ。いつも言ってるように僕は殴られたり殴ったりが嫌いなんだから。しかし、こうしなければさつきさんの気がすまないのだからしょうがない。世界が破滅するのを僕が止められるのならば、喜んで僕はこの命を捧げよう―――。
もちろん、悦んで、ではない。
「許さん・・・」
世界が!世界が!!・・・もうさつきさんたら肩を震わせてこういう状況でもなかったら見とれて、更に写真に収めて一日中眺めていたいぐらいの表情だったけど、こういう状況なのでそうも言っていられない。
「許さんぞ、耕太。私のギャグがつまらんだと!!」
「そっち!?」
ば、ばかな。どんだけこの人今のネタに自信持ってたんだ?そしてそれは否定されたくらいで人殴って涙目になるくらいのネタだったのか・・・。
「そこまで言うならば君が私を笑わせてみろ!・・・さもなくばもう口を利いてやらん」
世界一厳しい振りキターー!