僕は全人類の敵なのか!? 3
廊下はすっかり薄暗くなっているが、僕がいるにはいささか明るすぎた。いっそのことトイレでも行って花子さんに会おうかとも考えたが、アポをとっていないのでやめておいた。彼女だって全国の学校をはしごしているので忙しいだろう。スケジュール帳はびっしり埋まっているに違いない。
花子さんには会わないが、トイレに行くことにした。学校のトイレは結構不気味だ。なにが出てもおかしくない感が漂っている。なにが出てもというのは生理現象の話ではない。
下品だが、念のため。
「・・・男子トイレですよ」
ほんとに幽霊が出たっ!
「いいではないか。ここがサッカー部を見るのにベストなポジションなのだ」
・・・さつきさんだったけど。さつきさんは男子トイレの窓から校庭の方を見ていた。
「いつからサッカー部のファンになったんですか?」女子高生か?いや、女子高生の観戦場所は男子トイレだけはありえないはずだ。
「サッカー部というか、大杉君だな。サッカーに関しては全く興味がない。キーパーの存在理由もわからないほどだ」
「よっしゃ、大杉君を夜道で襲えばいいんですね?」いつもは襲われる役だが、ここばかりは譲るつもりはない。よし、じゃあひとまず柔軟体操を・・・。
「嫉妬心だだもれか!?そういう犯罪めいたことはやめるんだ。捕まるぞ!」
「そうですか・・・。じゃあ完全犯罪になるようにここから狙撃でもします。どれが大杉君ですか?」
「えっと・・・キーパーだな」
「大杉君の存在理由がわからない!!」なんでファンやってるんだ!?ノリか?ノリなのか!?2つあわせてノリノリか?
「いや、実は放課後の学校をぶらぶらしていたらよく見知った顔のやつが同級生殴って「お前おかしいよ」とか言っていたからな。私は「いや、お前も十分おかしいよ」という突っ込みもできぬまま吐き気を催して・・・」
「それで男子トイレに?」意味がわからない。ここは男たちの聖域。どんな理由があっても女性が入ってはいけないところなのだ。
「知らなかったのか?ここは定期的に男女の交換をしているのだぞ」
「温泉かよっ!?」いや、でもトイレに「両方を楽しめるように」なんて理由は必要ないはずだ。
「もういいから出ましょう」いい加減トイレで掛け合いをする事に限界を感じ、ギブアップする僕。対してさつきさんはさすがチャンピオン、余裕の表情だ。
「そうだな、では次は第2ラウンド。女子トイレと行こうか」
「あなたはこの世から僕の居場所を消したいんですか!?」ひどいよー!
「いや、君の存在を消したい」
「こわっ!」さつきさんなら本当にやりかねないので逃げ出した。さつきさんは何でかしぶしぶ出てくる。
「やれやれ、最近の君は真面目ヴァージョンが長くなりすぎていると思うぞ」
「うーん、ですかね」頬をかく。
僕も本当にそう思う。僕はどうしてしまったんだろうか。少し前までこんなのは煩わしいだけだと感じていたけれど、実を言うとそんなに嫌だとは思っていない。
「ふふん、私の教育の成果だ。いや、調教の成果だな」
「僕は猛獣なんですか!?」そんな、雨に濡れた子猫のような僕になんてことを・・・。
「君は盛りのついたチンパンジーではないか」
「昔の話を・・・」
て言うほど昔じゃないけど。その時の罰で今の僕は構成されているけど。
「ていうか人がシリアスになっているのを『気持ち悪い』なんていわないで下さい!」
「ツッコミが遅すぎる!君は前時代のパソコンか!?」
さつきさんに元気を分けてもらい、パチンコ玉くらいの元気玉を出せるようになった僕はまた教室に戻ることにする。さつきさんはそろそろ帰るそうだ。
「おい、漆根!サボってねえでこっち手伝えよ!お前のせいでこっちは一人人数が足りねえんだからな。蟻のような労働力をこっちに回せ!」
蟻のような、が蟻のように従順かつ効率的な、なのか、蟻程度の力なのかはわからないが、僕は反論できる立場にないので、大人しく従うことにする。教室の隅でくすくす笑う声が聞こえた。僕は耳を真っ赤にしながら聞こえないふりをする。
「漆根、さっきの『お前、おかしいよ』ってもう一回言ってくれねえか。ボイスレコーダーで録って毎朝それをアラームにするからよ」
「おいおい、そんなことしたら起き抜けのお前の脳が自分がおかしいと勘違いして窓からダイブするかもしれないだろ。お前の部屋の高さからのダイブなら軽く昇天できるぞ」
ていうか蒸し返すな。かなり恥ずかしいんだから。ほら、事情を知らない春日井さんは近くの女子に聞いちゃってるじゃないか。あーあ、きっと大爆笑するんだろうなあ。よし、うつむけ僕。教室の床とお見合いだ。そして結婚して幸せに暮らすんだ。
「なんだよ、ケチだな。おい、誰かあれムービーにとってないのかよ。編集して合成して警察署に送るからよ」
「お前は僕を犯罪者にしたいのか!?」冤罪過ぎる。
「あっ、悪い。そうだよな、お前みたいな小物は万引きあたりの小罪で捕まるべきだな」
「おいおい、何言ってるんだ。万引きは立派な犯罪だぞ。社会的に裁かれてしかるべきだ。僕が警備員だったら万引きしたおばちゃんの事情なんて聞かないね。バケツリレーの要領で警察にスルーパスだ。そして警察にもスルーされてそれがそのままゴール。得点者、漆根選手」
・・・わけがわからない。僕は何が言いたいんだ?
「・・・しかもうまい棒一本」
「小物過ぎる!!」僕はどうしてそんなものが欲しかったんだ。10円くらい持ってるよ。そこまずカツカツの生き方してないよ!
「ま、お前は世間から線引きされてるけどな」
「・・・・・・」
万引きだから線引き(千引き)か。無駄にうまい・・・。
もちろんこの応酬の間にも聞こえている忍び笑いは完全無視。いや、耳だけは過敏に反応していて、常に耳の裏に焼き鏝があるような気分なんだけど。