まったく、咄嗟に返答できないなんて人間失格ね 5
「おう、おかえり」家に帰るとさつきさんはやはりゴロゴロしていた。
「・・・2日目は朝9時から4時半まで、その後4時45分から閉会式。式次、開式、結果発表、表彰、講評、片付けの諸注意、閉式。その後はクラスごと撤収に入る」
「どうした耕太・・・?」さつきさんは身体を起こして心配そうに僕を見た。
「・・・ついたて5枚。暗幕、上段4枚に下段5枚。人数割り振り、お化け役9人受付1人をローテーションでまわしていく」
トランス状態の僕だった。さつきさんは首をかしげていたが、何か得心がいったらしく、ぽんと手を打った。
「ほっほう、暗記か?それなら私も負けてられないな。私は日本史年号暗記のスペシャリストだぞ」胸を張るさつきさん。
この辺でようやく僕は我に帰った。いや、別に決して強調された胸部に目が行ったわけじゃない。
「・・・NATO(710)軍、占領できない平城京」
「・・・そりゃあできないでしょうねえ」
だってNATO軍って戦後の組織だもの。いかに国際軍だといっても1250年の時間の隔たりはどうしようもないはずだ。
「なくし(794)た物はここにある、それがこの場所、平安京」
「どこだっ!?」回りくどいけど微妙に語呂がいい。覚えてしまいそうだ。でも別に平安京じゃなくてもいいじゃん。
「いちいち国(1192)つくる必要があったのか?地方一都市で我慢しろ!鎌倉幕府」
「源頼朝が否定されてしまった・・・」もはやさつきさんにかかれば歴史上の英雄もばっさりだった。この人、宮本武蔵でも斬れるんじゃないだろうか。
「ふふん、どうだ。私の勝ちだろう。それとも私の語呂合わせに匹敵するものが君にもあるか?」また胸を張るさつきさん。
そのしたり顔と胸とどっちに目を持っていくべきか迷う。あ、そうだ、目は2つついているんだから1つずつ見ればいいじゃないか。頭いいな僕。・・・などと馬鹿なことを考えた後、僕はにやりと笑った。
「ありますよ。考えてみたはいいけど友達がいないから決して披露する事が出来なかったものが」
「疲労できなかったのか?それは羨ましい体質だな」
突っ込むのはやめた。僕はこれを早く疲労したくてしょうがないのだ。
違う!披露したくてしょうがないのだ。
「以後ヤニ(1582)吸えない本能寺の変!」
「・・・・・・?」あれ?反応が薄い。この首傾げてる感じは絶対演技じゃないようだし。
「・・・えっと、ほら、本能寺の変って放火じゃないですか。ヤニって言うのはタバコの俗称のことで、今後火が怖くなってタバコが吸えないっていう感じなんですけど」だんだん声が小さくなっていく僕。ああ、持ちネタの解説しなくちゃいけないこの感じは凄い嫌だ。
「・・・織田信長は喫煙者だったのか?」
「いや、それは知りませんけど」
「ばか者!ちゃんと時代を考慮しろ!それでは歴史を間違えて覚えてしまうではないか!」
「・・・・・・」
いやいやいやいやいやいや。
NATO軍と平城京のありえないコラボよりはマシでしょ!それこそ知らない人は同時期に両方あったのかと思っちゃうじゃん!
「駄作だな。君にはどうやら歴史の才能がない。理系に行け!」
はい、僕の進路決定。
「そういえば文化祭の準備か?いろいろなクラスで話し合いが行われていたが」
さつきさんは放課後学校内をウロウロしていたらしい。しかしどのクラスも似たような光景だっただろうから面白くなかっただろう。
「面白いかどうかは置いといて、ホラーなことはあったな」
「えっ、なんですか?」お化け屋敷をやる身としてはそういう情報は少しでも入れておきたい。ましてやそれが校内での出来事ならば十分に使う余地はある。
「あまり言いたくないんだがな。思い出すだけで鳥肌が立つ」
幽霊のさつきさんでもそんなに怖いのか・・・。これは僕も聞かないほうがいいのかもしれない。夜中にトイレに行けなくなってしまうかもしれない。だが、怖いから見たくないんだけどつい惹かれてしまうのがホラーなので、聞かざるを得ないジレンマ。
「耕太がな・・・クラスで話し合いをしていたんだ」
「僕かよ!」
さっきもしたよこの突っ込み。何で僕は学校でも家でもいじめられ続けなければならないんだ。
「宿命だ!」
「宿命っ!?」そ、そんな・・・僕がいじめられることは生まれた時から決まっていたというのか・・・。
「いやいや、そんないじめられるほうが悪いみたいな加害者擁護な発言されても・・・」いじめるほうが悪いに決まっているんだ。古今東西そういうものだ。魔女狩りだって文化大革命だってやったほうが悪いんだ!
「何を言っている。縛られて火をつけられるのは快感なんだぞ」
「魔女なの!?」
「ああ、いつでも耕太を浮かせることができる」
どうやら言い始めてしまったので後には引けなくなってしまったらしい。もちろん僕は乗ってあげる。優しい男ですから。優しい男と書いて優男ですから。
「ちちんぷいぷい、耕太よ、浮け」
「・・・・・・」
うわあ、古い。でもかわいい。この辺にホバークラフトがあったら間違いなく飛び乗っていただろうに、残念ながらそんな便利なものはないので浮けなかった。
「何を言っている、浮いているではないか」
もちろん首を傾げる僕。不安になって足元を見たが、どう考えても浮いてない。
「ほら、常に」
「教室でっ!?」
浮いてますよ、そりゃ。それが何か?
「ていうかそれ魔法関係ないじゃないですか」
そういうと、さつきさんはむっと唇を尖らせた。
「しかたないではないか。マグル界で魔法を使うと学校を退学になってしまうのだ」
「ホグ○ーツ生!?」前に闇の帝王のことを知らなかったのはフェイクなのか?
「ああ、あれってヴォルちゃんのことだったのか?そんなご大層な名前で呼んでいたから別人だと思っていた」
「気安い・・・」相手は魔法会最悪とまで言われた魔法使いだぞ。
「最悪なんていうんじゃない。ヴォルちゃんはいいやつだ。よくジュースとかおごってくれるしな」
「パシリじゃん!!」なんだこの構図。さつきさんは帝王の更に上に位置しているのか?
「うん、まあ、最近つむぎの部屋にあったのを拝借して読んだのだが」
「ああ、それでこの前僕がつむぎに意味も分からず怒られたんですか」
あれはびっくりした。突然「勝手にあたしの部屋に入らないでって言ってるでしょ!」だもんなあ。もう僕は「すいません」しか言えなかったよ。つむぎは何気に所有欲が強いのだ。物を大事にすると言いかえると聞こえはいいかもしれないが、シュウ君は大変かもしれない。
「さつきさんって読書スピード速いんですね。あれって全部あわせると5000ページは越えますよね?」そんなに時間はなかったはずだ。さつきさんが読んでいるところを見た事がないから僕が学校にいっている間に窓から侵入したか(僕は夜以外窓は開けっ放しにしている。泥棒がいないレベルの田舎だから出来る芸当だ)、僕のバッグの中から鍵を奪って(あ、泥棒だ)入ったかだ。
「大丈夫だ。私は数回高速でめくればもう内容がつかめてしまえるからな」
「スーパー小学生!?」右脳鍛えまくりのやつ。あれってにわかに信じがたいけど、読解力というよりも記憶力の問題なんだって。見たものを頭にとっておけて、スロー再生とかも出来るらしい。凄いとは思うけど、脳は鍛えるのやめるとすぐ退化するから維持するのが大変だろう。僕はやりたくない。
「私はそこまでではないがな。なにせ1時間経てば君の顔と名前を忘れてしまう」
「それは記憶力云々じゃなくて痴呆始まってますよ・・・」
「君の名前限定なのにか?」
「意図的過ぎる!!」記憶力さえも僕をいじめるのに一役買っているのか?ていうか僕の平凡な顔はともかく名前は忘れにくいと思うんだけどな。
「え~~と、確か・・・漆根・・・剛田武、耕太?」
「ジャ○アン!?」
ジャイア○がミドルネームになっちゃった。
でも漆根と耕太の間に入れたら全国の剛田武さんに怒られちゃうよ。
しかし本当にさつきさんは記憶力がいいのだろうか。若干痴呆が来てるんじゃないかと心配になった僕は問題を出してみる。
「じゃあさつきさん、明治維新は何年ですか?」
「1868年」
即答だった。本当に記憶力は達者なようだ。まあ僕にはそれがあってるかどうか分からないのだけど。
次の話は作中で1ヶ月ほど時間が空きます。
なので更新も間をおいてからすることにします。
その間は番外編と称して『エキセントリック・ビューティ―――雑談編』を投稿するので、機会があればぜひどうぞ。