まったく、咄嗟に返答できないなんて人間失格ね 2
今日からクラス展示の準備が始まる。とはいえ本格的な準備はまだ先で、まずは部門を分けて人員割り振りをして、部門の代表者と春日井さん(とおまけで僕)で計画を立てていく。このなんとも合理的な体制は発案施行ともに春日井さんだ。僕は何もしていないというか、何も知らせてもらっていない。へえ、そういう仕組みでやるんだね、とさっき知った。
さっきである放課後のホームルームで会計、内装、衣装、大道具の4部門の代表者を募った。なんと既に声をかけておくという異例の手際の良さを誇っていたので、一瞬だった。それどころか零瞬だ。本当に僕が瞬きもできないほどの素早さだった。彼女は将来政治家になるに違いない。総理大臣になっても間違いなく任期満了するだろう。もしかしたら二期連続とかもいけるかもしれない。
・・・そんな甘いものじゃないとは知っているけど、実際それくらいの手際の良さだった。担任の先生でさえ言葉を失っていたのだ。ただ、その選挙を省く手順はどこか相撲部屋の理事決定法に似ているのかもしれないな、と心の中だけで皮肉った。
というわけで他のクラスでまだワイワイやっているころ、僕のクラス(という括りは不本意な人が多いかもしれないが)は既に解散していて、代表者だけでさっそく第一回の会議が催されていた。
「・・・なぜだ。なぜなんだ」
そして僕はさっきから何度も呟いている言葉を再び呟いた。
「うるさいわよ漆根君。進行の邪魔だわ。荷物は荷物らしく椅子に引っかかってなさい」
僕の期待に反して春日井さんはいつもどおりの毒舌だった。僕以外の人は若干驚いた顔をしていた。そう、彼女は誰に対しても毒舌というわけではないのだ。普段はちゃんと優等生だ。それでもせめて人前では毒舌を使わないくらいの八方美人性を有していて欲しかった。確かに素直なのはいいことなんだけど。
「そうだぞ漆根。俺たちは忙しいんだよ。気利かせて人数分のジュース買ってくるとかしろよ」
「誰がするかっ!」
じゃなくて、
「何で及川がいるんだよ!」
である。
この制服着たヤクザこと及川と文化祭の部門責任者という言葉には一切つながりが見出せない。それなのにこの男がここにいるのはただの野次馬ではないのだ。
「おいおい何言ってるんだよ。学校創立以来の問題児のお前が文化祭委員やってるほうがおかしいだろ」
「創立以来っ!?」今朝花山さんも言ってたけどこの学校伝統校だぞ?花山さんでさえ20回生だぞ?
「そして僕を文化祭委員に追いやったのはお前だ!」しかもほんの気まぐれで!
「漆根君・・・暇なら掃除でもしてれば?」
「ごめんなさい。静かにしてます」なんだろう。春日井さんの言葉には逆らえない。彼女は生まれついての支配者なのだろうか。それとも僕が生まれついての被支配者なのだろうか。
とにかく僕はおとなしく黙って椅子に引っかかってることにする。
ちなみに及川以外の3人の責任者は全員女子だ。もちろん僕と目をあわせたりはしない。僕と普通(?)に会話している春日井さんにすさまじい驚愕の表情を呈していらっしゃった。しかも3人のうち1人は僕の魔の手に引っかかってしまった哀れな方なので、僕にのしかかってくる重苦しい空気がとにかく痛かった。それもあって自然と僕は無口になる。
話し合いは着々と進んでいるようだった。ようだった、というのは突っ込みどころは皆無だったので、僕は話し合いに身が入らず、理解する事が出来なかったからだ。つくづく奇特な脳の構造だ。
「なあ、漆根。机とか暗幕の貸し出し申請ってどうやんだ?」
突然の及川の質問に僕は答えることができなかった。「えっと・・・」とか口ごもりながら春日井さんに助けての視線を送ると、春日井さんはおなじみの不幸すら吹き飛ぶ溜息をついて、及川に説明を始めた。
「ちっ、使えねえな、漆根」という及川の言葉が痛かった。
「なあ、漆根。仕切り板なんだけどよ、もう少し小さいやつないのか?」
うつむく僕。及川は大きく舌打ちをして春日井さんに同じ質問を繰り返した。僕の目線は机の模様に釘付けになった。
「おい漆根・・・じゃ無理だな。ホント使えねぇ」
泣くよ!僕泣くよ!もうクラスメイトの前とか関係なく大声あげて泣くよ!
・・・・・・ギリギリこらえた。