そこに込められているのは敬意じゃなく僕への刑罰だ! 5
いつの間にか倉庫についていた。誰かが入って閉じ込められることがないようにかけておいた鍵を春日井さんが開ける。
「はい、漆根君、3秒以内ね」
「無理っ!」といいつつも走る僕。忠犬のようだった。中世の騎士か僕はっ!
昨日もした突っ込みを心の中だけでして、さっき置いたアクリル製の箱の横において、振り返ったときには3秒経ってしまったらしい。ドアが勢いよくスライドして閉められた。そこで僕は一計を凝らす。
「・・・冗談よ、そんなに泣かなくてもいいのよ」
1分ほどたって、春日井さんが再びドアを開けたとき、そこに僕の姿はなかった。もちろん煙になって消えたのではなく、隠れたのだ。
「まったく、いくら存在感が薄いからって存在まで消えなくてもよかったのに。ご家族には私から話しておくわ。『お宅の息子さんは蒸発しました(笑)』ってね」
「笑えねえっ!」あ、つい突っ込んじゃった・・・。
まあいっか、さっさと鍵を閉めて帰ろう・・・と思って春日井さんを見た僕は息を呑んだ。これは、まずい。先週まで僕を見続けていた目と同じ目で僕を見ている。三白眼が僕を見てるぅぅ。ガスマスクの上に更に仮面をかぶっている感じだ。完全に表情はなし!目だけが人を殺しそうな怒りをたたえている。
「あ・・・、ごめんなさい」謝ってしまう僕。しかし春日井さんは何の反応もせずに外に出た。扉を閉める。
「わあっ、待って、待ってくれ!」僕はギリギリ扉の間に手を入れる。挟まれなかったが、春日井さんはなお力を込め続けている。今どちらかが力を緩めれば扉が壊れてしまうだろう。しかし、この扉が閉じられれば二度と開かないという確信が僕にはあった。
ていうかこの人他人のいたずらに対するキャパシティ低すぎない!?自分はメロンソーダにタバスコ入れたくせに!!
ようやく春日井さんが力を緩めて僕は外に出ることができた。扉が壊れるのも何とか阻止できた。心臓がマラソン後のように痙攣している。これは多分春日井さんと争ったせいではない。命の危険を感じたせいだ。
「まったく、漆根君ったら私が妹さんを人質にとっているのを忘れたのかしら」
「つむぎを!?それは許さないよ!」僕は強い口調でそういう。春日井さんはそのことに面を食らったようだ。
「・・・漆根君って、シスコンだったのね」腫れ物でも見る目を僕に向けた。
「いやいやいやいや、違うよ違う・・・・・・多分」だんだん声が小さくなっていく。妹のデートを尾行するあたり否定できない気がする。でもそんな称号はごめんだ。
「無駄に時間を使ってしまったわね。漆根君のせいよ。早く鍵を返しに行きましょう」
それから急いで鍵を返して、僕らは学校の外に出た。
「それじゃあ漆根君、ごきげんよう」
「あ、うん」・・・もうちょっと気の効いた挨拶のしかたを考えようと思った。春日井さんは振り返ることなく家に向かう。別に毎日全力疾走で帰るわけじゃないらしい。僕も反対方向に向かって歩き出す。とりあえず家を通り過ぎて駅前のシュークリームを買わなければならない。