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なんにでも突っ込みやがって。この寂しがり屋め

「・・・しっかし」及川はサングラスをはずして、イタリアのおじ様が着ていそうなシャツの胸ポケットに入れた。

「お前もよくやるよな。その顔一週間くらいそのままだぞ。額の傷と言い、お前は顔を怪我するのが趣味なのか?」

「・・・・・・及川、そのサングラスを貸せ」突然無表情で要求した僕に対して及川は首を傾げたものの、胸ポケットからサングラスを僕に手渡した。僕はそれを床に落として、思い切り踏んづけた。

「おいぃぃ!なにすんだコラ!」ドスを聞かせた声。だが、僕には決して通じない。僕はこいつを怖いと思ったことは一度もないのだから。

「うるせえ!昨日お前がつむぎに嘘をついたせいで僕は自分の部屋で妹と流血沙汰起こすところだったんだぞ!」

「昨日・・・ああ、あの電話か。お前からだったからしょうがねえなあ、出てやってもいいかな、と思って出たらいきなりつむぎちゃんが冷めた声だもんな。流石の俺もびびったぜ」

この及川をびびらせたのか。凄いな、つむぎ。

「んで、いきなり春日井のことを聞いたろ?ほんとのことを言っちゃいけないと思ってよ」

「なんでだよ!何で僕の周りのヤツラみんな真実よりも笑いを追求してるんだよ!」

やっぱりアメリカには移住できないな。あそこは嘘つきを何より毛嫌いする国らしいから。そもそも僕は小説のキャラじゃないから移住する必要もないんだけど。

「ていうかそんな面白いことになってたのか。・・・呼べよ!」

「呼ぶかっ!」さつきさんと同じ事を言うな!マッチョのくせに!

ちなみにさつきさんはさっきと同じくクレーンゲームの傍にいた。なんだかいたたまれない感じでこっちを見ている。もしかしたら及川に人見知りしているのかもしれない。

「それにさっき電話したろ!タイミング悪いんだよ!」そっちの方は十中八九及川は悪くないが一応言っておいた。

「そうだ!」突然、及川は声を上げる。そして嬉しそうな顔をして彼女のほうを見た。

「こいつがさっき言ってたクレーン王だ」

「やめろ、そのネーミングからはダサい匂いがぷんぷんする」僕は土木作業でもしているのか。僕の夢は植物学者だっつの。

「クレーン殴打?」

「確かに殴られたけどクレーンほどのパワーは無かったよ!」やばいだろ、クレーン殴打って。一瞬にして首が胴体とさよならしそうだ。

「・・・ったく。お前が割り込んでくると話がすすまねぇ。なんにでも突っ込みやがって。この寂しがり屋め」

「くっ」屈辱だ。

「さっき電話したのはクレーンゲームで取って欲しいものがあったんだよ。話してもねえのにここにいるとかお前は忠犬か?」

「殺すぞ」大体及川が主人だったら僕は獰猛になってる。犬は飼い主に似るんだから。ていうか僕が家にいたらわざわざクレーンゲームの景品のためにここまで呼ぼうとしてたのか。ああ、及川の首がプチプチに見えてきた。あれってひとつにまとめてぎゅっと絞ると最高に気持ちいいんだよな。

「これなんだけどよ、少しやってみたんだがどうにもかからない」

及川は僕の心中を完全に無視して、見えていないさつきさんの方に近づき、やっぱり無視してアクリルケースに額を当てた。さつきさんは無言で僕の横に立った。ちなみに及川の彼女は僕を見ることもなく及川についていく。友達の彼女というのはどう接していいか分からないところがある。それは向こうも同じだろう。いや、むこうは僕が虫くらいにしか見えていないのかもしれないな。虫に声をかけるような人には見えない。

僕は及川が指差すぬいぐるみを見た。ゲテモノだった。・・・あれが欲しいのか?及川の彼女を見たら僕から目をそらした。恥ずかしがっているのかもしれない。

「多分いけると思う。その代わり明日学食な」及川は二つ返事で了承し、僕に100円を渡す。一瞬の躊躇もないとか。これが男か。

クレーンゲームにおいて大事なのは、商品の重心を見極めることと、機械の性能を知ることだ。どちらかを怠れば決してとることはできない。そして僕はこの型の性能を熟知している。ぬいぐるみもくちばしが出っ張っている事を除けばおよそ中心に重心がありそうだ。僕は横ボタンを押してクレーンをスライドさせていく。よし、どんぴしゃり。続いて縦。

「・・・さつきさん、機械を叩かなくて良いですよ」暇だったのだろうか、拳を振り上げたさつきさんをぼそっと呟いて制止した。及川たちには多分聞こえていないだろう。二人はぬいぐるみの行く末に何よりも注視している。さつきさんは何か言いたげな顔をしたが、結局拳を収めてくれた。助かった。

そして、縦も完璧。だてにン万円も浪費しちゃいない。

「よっしゃ」ぬいぐるみはきれいに穴の中に落ちていき、足元で商品が出て来る音が聞こえた。

及川はそれを彼女に渡し(やっぱりかわいくないぬいぐるみだった)、彼女は感激していた。笑顔で僕に礼をする。僕は「いいよ、別に」とツンデレることしかできなかった。

「おう、漆根、飯一緒に食ってくか?」及川は上着の内ポケットから別のサングラスを出してかけた。随分と用意が良い。というかこれは買ったばかりのやつだろう。さっきのやつよりも高そうだった。

「いいよ。僕もそこまで野暮じゃない」ていうか目の前にカップルがいるのに落ち着いてご飯が食べられる訳がない。拷問か?及川は僕に意味もなく拷問をかけようとしてるのか?

「そうか。んじゃあな。つむぎちゃんによろしく」及川は彼女と連れ立って行ってしまった。



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