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普通ゲーセンに一人じゃ来ないよな。

「誰だ、あれ?」知らない男だった。高校生くらいだろうか。背が高く、茶髪にピアスのいかにも「遊んでます」的なチャラ男が二人に声をかけている。つむぎたちは怯えているみたいに見えた。

「ちょっと近づいてみましょう」不穏な空気を感じ取ったのか、さつきさんは無言で頷いた。僕たちはクレーンゲームの影に隠れてそちらを窺う。どうやら男の後ろには似たような感じの男が2人いるようだ。そうだよな、普通ゲーセンに一人じゃ来ないよな。ていうか1人で来ている奴がいたら普通に引く。

「突っ込まんぞ、耕太」さつきさんは拳を握り締めて衝動を必死にこらえているようだった。まったく、頭が下がる。

「だからさ、一緒に遊ばない?ね、いいじゃん。来てくれたら夕飯おごってあげるからさ」

「・・・ナンパ、だな」さつきさんがぼそっと呟いた。

「あの、困ります」つむぎがささやかな抵抗を見せる。しかし、それは逆効果だったようで、男はつむぎの手首を掴んみ、つむぎは痛そうに顔をしかめた。

「いいんじゃないか、耕太。少し様子を見ようではないか。やはりいい男かどうかは彼女がピンチの時にいかに助けるかだと私は思う。これは絶好の機会ではないか?」

「・・・・・・」

僕は答えない。

「ちょっと、やめて下さいよ」シュウ君は声を上げる。

「あ?なんだてめえ!?ぶっ殺すぞ!!」定型句だった。しかし、そんな定型句だけでもシュウ君には十分効果的だったらしく、一瞬にして萎縮してしまった。男は睨んでいたその目を優しくして再びつむぎに向けた。その後ろでニヤニヤ笑う二人組。

「ごめんね、怖い声出して。行こっか」男は猫なで声を出す。僕はナンパというのを見たことはないが、なるほど、それは正しい手順だった。ただし、男からカーテンの無い新築の窓並みに下心が見えているのは大いに間違っていた。

「やめてください!」ついにつむぎが声を上げた。シュウ君は完全に萎縮してしまっている。男はそんなつむぎを見て舌打ちする。笑顔が消えた。

「黙ってついてくりゃあいいんだよ!」

僕の中で何かが切れた音がした。

「おい、耕太!」さつきさんの制止を振り切り、僕は行く。ここにいてはいけないはずなので、やはりそれは愚かな行動かもしれないが、僕は行く。たとえ普段嫌われていたとしてもいつも疎まれていたとしても、僕には絶対に守らなきゃいけないものがある。

僕は男を突き飛ばした。突然の僕の登場に驚き、対応できなかった男はつむぎの手首を放し、尻餅をついた。顔をあげ、僕を睨みつけた。

「耕兄!?」つむぎが驚きの声を上げる。僕は背後にいるつむぎを見ない。男と睨み合ったままだ。そのまま、声を上げる。

「シュウ君!」背後で息を呑む音が聞こえた。

「つむぎを連れて行け!」

背中越しに感じるシュウ君の一瞬の躊躇。何をしているんだ。君の仕事はつむぎを守ることだろう。守るという事は危険を避けるという事だ。危険を排除することじゃない。別に戦わなくたって、逃げたって、少しくらい諦めたって大事なものは守れるんだよ。僕みたいにならなければ。僕みたいに愚かに諦めきれずにすがり続けたりしなければ。

「早く!」

「ちょっと、シュウ君。耕兄が・・・」今度はつむぎの躊躇。しかし、すぐに背後から気配が無くなる。どうやらシュウ君たちは行ってしまったようだ。僕の後ろに出口があってよかった。そうでなかったら後の2人に回り込まれていただろう。

「なんだてめえ、ぶっ殺すぞ!」またしても定型句だった。小柄な僕とは比べるべくもないほど背が高い。横に大きくはないが、それでも力は非力な僕よりは強いだろう。飛び出したはいいが、それからどうすればいいかを僕は何も考えていなかった。考えも無く飛び出して、考えも無くつむぎを逃がしただけ。やはり僕は底なしの愚か者のようだ。

突然、僕の左頬に痛みが走り、僕の爪先が浮いた。リーチが違う。僕が手を伸ばしても男の肩にも及ばないだろう。そして、この男はそのリーチの使い方を熟知しているようだった。僕はそのまま後ろ向きに倒れる。ああ、まずいなこれ。これから僕は袋にされてボコボコかな。

やれやれ、生きるのってしんどいなあ。

だが、結果的に僕の背中が床に当たって肺を強打する事は無かった。痛いのは頬だけだった。倒れることもなかった。どうやら僕は後ろにいた人にぶつかったようだった。

「・・・お、漆根じゃん」

超長身にして筋骨粒々、スキンヘッドによく似合うサングラス。

まったく、何てめぐり合わせだ。

「・・・やあ、及川。お前は昨日授業サボったから2日ぶりだな」

・・・及川だった。隣にいるモデルみたいな人は彼女だろうか。ちくしょう、丑の刻参りでもしたくなる。

「がはは、なんだお前その面。似合わねえ。草食系男子の癖に顔殴られてんじゃねえよ。ん?お前は肉食系か。ていうか女食系か?・・・あ、食ってないんだった」彼女の隣でよくそんな発言できるな。しかし及川は昔はともかく今は絵に描いたようなワイルドな男だ。だからそれで良いんだろう。

男たち3人は、その及川を見て、明らかにたじろいでいた。

「おい、こいつ及川だ」後ろにいた男が言う。二人はその男を見た。そして戦々恐々とした表情に変わった。及川って有名人なのか、といまさらながら僕は思った。確かに中学時代にしてきたことを鑑みればそれも頷けなくはない。けれど、僕にとってはどうでも良いことだ。昔と今の僕が違うように、及川も昔とは違うのだから。それでも男たちにとってはどうでも良くないことのようだった。

「ようよう諸君、この女食願望系男子となにがあったかしらねえがどうせ女がらみだろ?」及川は定型表現を使わない。しかし、その声はどんな言葉よりも威圧感を秘めていた。そうなのだ。この男は人を威圧することにかけては誰にも引けを取らない。右に出る者はいない。

しかし、確かにつむぎがらみだから女がらみだけど、人聞きの悪い事を言うな。言い方ってものが無いのか!

「だったらやめとけ。こいつに関わるとろくな事がない、破滅するぞ・・・」

及川はカッコよく親指を立てて、それで自分を指したかのように一瞬見えた。

「・・・こんな風にな」僕を指しやがった。その親指を掴んで折ってやりたい。しかし、多分僕が掴んで手首を返すよりも及川の親指の力のほうが強い。僕の手首が折られそうだからやめておこう。この借りは明日早めに学校に行ってあいつの机の中に消しカスを放り込んでおくことで返そう。

・・・って、ちっちゃいな、僕。

「ちっ」と、男たちは定型的に舌打ちをして、そそくさと去っていった。もちろん言葉に説得された訳じゃないだろう。単純に及川にびびったんだ。



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