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じっと突っ立ってるから粗大ごみかと思ったわ 3

「・・・ああ、まだ口の中が痛い」そして気持ち悪い。よっぽど多く調味料を入れてくれたみたいだ。しかしこのためだけに持ってくるなんてなかなか笑いを分かってる。

「いい加減くどいわ」

「僕はネタでやってるんじゃない!」テーブルをばしんと叩いた。手が痛い。

報われない僕。一体どんな罪でこんな罰を受けているのだろう。・・・いや、罪はいっぱいあるけど。罪だらけだけど。

「・・・そんなことより、これ、一応できたけど結構普通よね。漆根君の腐った脳ミソに頼るのもどうかと思うけど何か無いかしら」

「腐ってない!かびてるだけだ!」

・・・何のフォローだ。

でも「流れる水は腐らぬ」理論でいくと脳ってのは流れてないから腐る訳なんだよね。使えないな、昔ながらのことわざ。

「腐ってるってのは冗談よ。ほんとは・・・ないんでしょう?」

「あるよっ!」

「でも頭を動かすたびにころころうるさいわ。頭蓋骨の中にビー玉でもつまってるの?」

「くっ」勝てない。なんだこの人。僕をいじめることに関してはボキャブラリー無限か?

「冗談はともかく、何か無いかしら。やるからには一番になりたいじゃない。そのためにはやっぱりアクセントが必要だわ」

そう、クラスの出し物には順位がつく。来場したお客さんの投票によって決まるのだが、1年全クラスと2年希望クラス(毎年ほぼ全クラス希望しているらしい)が競い合うそれはそれは激戦になるのだそうだ。僕はこの目で見たことないからよく知らないのだけど、かなりの一般の方々も集まるようだ。

「でもさ、そういうのは今決めなくても何とかなるんじゃないのかな?みんなの意見を聞いたほうが案は出るだろうし、今すぐに決めて提出しなくても細かいことなら委員会から文句言われないと思うけど」僕は思った言葉をそのまま述べてみる。久しぶりにまともなことを言った気がした。しかし、春日井さんのほうは唖然としていた。

「・・・まさか、漆根君の口から『みんな』なんて単語が出てくるなんて・・・」

「そんなところに驚いてたのっ!?」

僕のほうがびっくりだった。確かに僕は協調性0に見られている。でも実際のところ僕が伸ばそうとする協調の手を一人残らず払いのけられてるだけだ!

と、僕は勝手に思ってるんだけどいかがなものだろうか。

「ああ、『みんな』ていうのを頭の中で変換ミスしてたわ。漆根君の脳内に存在している架空のキャラクターの名前ことね。『みんなくん』かしら?それとも『みんなちゃん』かしら?」

「僕の頭蓋骨の中にはビー玉しかない!」・・・ついに自虐になってしまった。いや、でもいいんだ。そんな友達一人もいないから架空の友達作っちゃってる残念な人間に思われるよりは。僕にはちゃんと友達がいる。今のところ及川だけだけど。

「・・・耕兄、明日なんだけどさ」

と、何の前触れもノックもなくつむぎが部屋に入ってきた。

やはり部屋に入るときはノックをするように注意しなければならないらしい。

「・・・・・・」つむぎの視線は僕ではなく春日井さんのほうへ。そして数秒間見つめ合う2人。

「・・・・・・ごめんなさい」バタンと勢いよく閉じられる扉。僕の部屋は台風一過のような一瞬の静けさが漂った。

「・・・ごめんね、春日井さん。後でちゃんと人の部屋に入るときはノックをするように言っとくよ」もっとも、つむぎは頭が良いから、今の失敗で懲りてノックをするようになるだろう。なるといいなあ。

「それで・・・あの可愛らしい子はどこからさらってきたのかしら。ああ、違ったわ。橋の下で拾われたのは漆根君のほうね」春日井さんはレポートに目を通しつつ、なんでもないふうに僕にとってはかなり大きなことを言い放った。

でもさ、そういうのって誰もが考えたことあるんじゃないかな。「僕はこのうちの子なんじゃなくてもっと違う家で生まれた拾い子なんじゃないか」ってやつ。というわけでここだけは反論できなかった。妹を「かわいらしい」と褒められたことだけ礼を言っておく。

「さて、と。じゃあここまでやれば問題ないかしら。私これから塾があるのよ。というわけでお暇する事にするわ」用紙をきれいなファイルに挟んで丁寧にバックの中へしまった。

「じゃあ、妹さんにちゃんと弁解しておいてね」玄関で靴をはきながら、春日井さんは鋭い目つきで僕を見た。

僕は首をかしげる。仮につむぎが部屋に入ってきたときに春日井さんが変形でもしていたら弁解をするのだろうが、もちろん春日井さんはトランスフォームなんかしていない。いたって普通の振る舞いだった。いや、春日井さんは振舞い一つ一つに気品があって様になっている人なので普通以上と言えば普通以上か。でも別に普通異常というわけじゃないだろう。

「まあ、わかった。春日井さんが超人ではないことは僕がちゃんと言っておく」

「・・・なんでもないわ。別にいい。むしろ私のいないところであなたが私の話をするかと思うと鳥肌立つから止めて頂戴」

「・・・・・・」最後まで春日井節フル稼働だった。しかし、いやだと言われてやめる僕じゃない。

「まあ、いいじゃないか。代わりに春日井さんは僕のいないところで僕の噂をしても良いからさ」

「あーーー、ていうか漆根君のいないところじゃないとできない噂ばかりだから・・・」

「・・・やっぱりやめてください」多分丑の刻参りとかやってる。絶対やってる。僕の額の傷も誰かの呪いのはずだ。

ま、まさか・・・。闇の帝王か・・・!

いやいやさすがに闇の帝王には告白してないけども。

「何を勘違いしているの?もう傍にいたら聞いてられないくらいベタ褒めしているのよ」

「嘘だっ!それくらいは僕にだって分かるよ!」我ながら悲しくなるけど。

「じゃ、お邪魔しました、漆根君。楽しかったわ」

「そう言ってもらえると光栄だね」

「・・・漆根君の辛さに悶え苦しむ姿とか見られたしね」

「くっ」トラウマがよみがえる・・・。

「ああ、写メに撮っとけばよかったわ。被害者の会でさぞかし高く売れたのに」

「本当にあるの僕の被害者の会!?」冗談だと思ってたのに。僕の寿命ももう長くはないのかもしれない。

「ええ、本部署はアメリカにあるわ」

「グローバル化っ!?」インターネットのせいなのか!?誰だ、インターネットなんて作ったやつ。ていうか悪いのは僕なんだけれど。・・・ていうかいたかな、外国人の方。

多分いた。

「ちなみに軍隊を動かす権限を持っているのよ」

「まじでっ!?僕ん家でイラク戦争勃発!?」いやいやいやいや。流石にそれはないでしょ。僕なんて棒切れ一本で何とかなるよ。

「嘘よ」

「ですよねぇ!!」まったく、僕がそこまで恨まれてるわけないじゃないか。人畜無害・・・じゃないけれど、ただ喋るだけの木みたいな男だぜ、僕は。・・・あ、それ怖いな。

「でも自衛隊は動かせる」春日井さんは親指を立てて僕に向ける。ともすればそれが下を向いてしまいそうだ。

「似たようなもんじゃん!」

「違うわよ!自衛隊は国を守るための部隊よ。目的はあくまでも漆根君を生け捕りにして全世界にさらすことだわ!」

「怖っ!ていうかアメリカ軍も同じように独裁者を生け捕りにしてさらしたけどね!」

「まあ、これも嘘・・・じゃないわ」

「うんうん。まあうそだよね。いかに人民のための国家といえどただ一人のために自衛隊を使ったりはしないよね。・・・って嘘じゃないの!?」思わず乗りツッコミ。

やばい、僕の身の危険。しかしここは家族にも危険が及ぶかもしれない。どこかに逃げなきゃ。そうだな、まずは山に逃げて行方を完全にくらませる。そして追っ手が緩んだところでできるだけ遠くへ逃げて一般人に混じって暮らすのが良いだろう。そして時効が来たところでその体験を小説にして出版。ベストセラーで僕は大金持ち!!しかしそうなると印税はどれくらい入るだろうか。それによって出版社も考えなければならないな。完全に利潤を追求するならまずは自費出版で少しずつ部数を増やしていくという方法か。しかしこうなると宣伝が難しいな。いや、それこそインターネットの時代か。さっき僕を苦しめたインターネットが今度は僕の役に立つ。なかなか皮肉だ。

「嘘じゃないけど冗談よ」

「冗談じゃない!!」僕は織田祐○主演のドラマのタイトルのようにそう言った。

「ていうか知らないわ。私は先週被害者の会を脱退しちゃったから」

「そーなの?」ていうか被害者の会自体は本当にあるんだな。かなりショックだ。

「ええ。やっぱり組織に頼らず自分の力で仕返しをする事にするわ」にやりと不敵に笑う春日井さん。超怖い。

「というわけだから夜道には気をつけておくのよ、漆根君!」びしっと指差す春日井さんは爪の先まできれいだ。しっかりと気を遣っているのだろう。さすが女子高生。

「それは置いといて、夜は危険だからあんまり外に出ないほうが良いよ。君を危険にさらすわけにはいかないから用があるならむしろ僕のほうから行く!」ついに開き直る僕だった。しかし胸を張る僕に対して春日井さんは向こうを向いてしまった。てっきり「結構よ」とか「本当に止めて頂戴」とか言われるかと思ったのに。

「そ、それじゃあ私はもう行くわ。また明後日ね」最後はこちらを向くことなく行ってしまった。僕は首をかしげる。ひょっとして僕の顔を見るのも嫌になってしまったのだろうか。確かに耳まで真っ赤になっていたような気もするし。よほど怒っていたのだろう。やれやれ参ったな。こんな僕でも人に嫌われるのは結構凹む。やはり慣れるものじゃない。結局人は一人じゃ生きていけないという事だろう。

「・・・しょうがないか。僕は恨まれるようなことしたんだし」僕はひとりごちて大きく息を吸った。

よし、僕はまだやれる。



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