僕は・・・僕は、産業廃棄物になるんだ~~!! 1
「よし」
僕が、この僕がこんなすがすがしい気持ちとともに目覚めている。これもさつきさんのおかげだろう。まあその理由は何かっていうと目覚ましよりも少し早く起きたっていうごくごくちっぽけなことなのだけど。ちっさいな、僕。
まあ、いいさ。
「つつ・・・まだ痛いな」額の絆創膏を取って鏡で見てみるとかさぶたになっている傷があった。めちゃくちゃ目立っている。同じように黄色い化膿止めを塗って大きめの絆創膏で傷を隠した。
ジリリリリリリ
まずいっ!!
僕は音源に向かってヘッドスライディングを敢行して見せた。プロ野球の見よう見まねだったけどそこそこそれっぽくなったので自分でもびっくりした。しかし、それよりもびっくりしたのはさっきまで目覚ましがあった僕の顔の真横をさつきさんの拳が通過したことだった。恐ろしいことにこの人は目覚ましを殴って止めるつもりだったのだ。
「ちっ・・・・・・」
顔を上げたさつきさん。
「何に対する舌打ちっ!?勝負に負けたこと!?それとも僕に当たらなかったことっ!?」心臓がバクバクと鳴っていた。さっきのあれは普通に死を覚悟した。
「決まってるさ。敵を殲滅できなかったことだ」
「戦場!?ここは戦場なの!?」ヴァルハラの大地ですか?
「何を言っている?この世に戦わずして生きられる場所などないぞ。楽園は朽果て、神は死んだのだ」
「何かっこいいこと言ってるんですか?」なんだ、何の影響だ?
「くっ・・・この戦争が終わったら、俺、結婚するんだ」
「死亡フラグっ!?」間違いなく特攻に言って死ぬパターンだよ。そのセリフを吐いて死ななかったのはハガ○ンのヒューズさんくらいだよ。
「馬鹿を言うなっ!俺は死なないぞ。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
やめて、やめてくれ。しゃべるごとにフラグがたまっていってるよ!
「・・・・・・っていう気分だ、今」さつきさんは憂鬱気にため息をついた。
「支離滅裂っ!?」全く意味がわかりません。要するにどうやら壊れてしまうほどショックが大きかったようで。たかだか目覚ましなのに・・・。
「さあさあ、布団という名の敵を片付け、朝食という名の次なる戦場に向かおうではないか」と思ったら急にテンションが上がっている。相変わらず欲望に忠実な人だ。
「いやいや、食事は大切だぞ。そもそも耕太がひ弱に見られるのはその卑屈な性格のせいも多分にあると思うのだが、やはり体が小さいことにあるのだと思う」パジャマ姿のままベッドに腰掛け、足をパタパタさせるさつきさん。
「はあ、何で突然僕分析を始めたんですか」布団を畳みながら僕は尋ねた。
「だいたい君は少食すぎるのだ。私に食べすぎだとか言うが、君が食べなさ過ぎなだけなんじゃないのか?」
「ああ、そうやって自己正当化に走るわけなんですね。おかしいですよ!さつきさんって父さんよりも食事量多いんですよ?ここんとこ米の減りが早いって母さんに言われて、僕が夜食で勝手に食べてることになってるんですよ?」両親としても僕が小食なことを気にかけているので文句は言われてないけど・・・。
「なにっ、私の食事を君が奪うつもりなのか!?ばかものっ!」
「だめだ、日本語の問題だ・・・」
「どうだ、もっと食べて太ってみないか?」
「そんなビールもういっぱいどう?みたいなノリで太りたくないですよ。そもそも僕って太りたくても太れない体質なんですよね。ご飯食べ過ぎると気持ち悪くなっちゃうんですよ」ある一定以上食べると胃が受け付けなくなるのだ。食べ過ぎで即吐ける人種だ。
「あーあ、これだから現代っ子は。ご飯をお腹いっぱい食べる喜びを知らない。戦場で生きてきた私にはよくわかる。君はぜいたくすぎる!」
「な、なんとあの死亡フラグのがんじがらめの中、生きて帰ってきたのか・・・!」さすがさつきさんだ。あらゆるフラグをものともしない。
「でもでも現代っ子は昔と違って家計の心配をしなければなりませんからね、ご飯をおなかいっぱい食べるのもひやひやものなんですよ」
「ふむ、では仕方無い。椅子に縛り付けて無理やり食べさせよう」
「いやいや、無理ですって。それよりもどうですか、二人羽織っていうのは。それなら僕は際限なく食べられますよ。そしてちょっと前のめりになっていただいても結構です。むしろ僕はそっちのほうが・・・」
「ば、ばかもの!ちょ、調子に乗るな・・・」そこからのさつきさんは高速だった。目覚ましを止めるスピードよりも早く、まばゆい光線のような右ストレートが僕の顔面を貫いた。
「い、今、鼻がメキって・・・。冗談すらも許されない・・・」床に転げまわる僕。学習というものを知らない。
「君はわざわざ冗談を言う必要などないのだ。君の存在が冗談なのだからな。漆根冗太だ」
「語感がダサい!」涙目だけど必死に突っ込む僕。
「もういい、君はむしろご飯を食べるな!食べずにやせろ、棒になれ!そして私に献上しろ」
「圧政だ~~。まだ食べるんですかっ!?」
「ふっふっふ、君はまだ私の真の恐ろしさを知らない。この私が本気を出した時、それはこの国から食料という食料がなくなるときだ!」
「ごめん、母さん。漆根家はもう終わりかもしれない・・・」これがうわさに聞く恐怖の大魔神か・・・。終端をもたらすノストラダムスか。まさかこんな地味な方法で世界の破滅をもくろむなんて・・・。