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ぬめっとしててねとっとしててふにゃふにゃしてるじゃない!! 3

「おお、耕太、遅かったな。まさか不良に!?ママはそんな子に育てた覚えはありません!」

「いいえ、子どもがどんな子に育ったかは全て親の責任ですよ。この僕が言うんだから間違いありません。覚えのない親のほうが悪いんです」ていうかさつきさんは親じゃないけど。自分の部屋でごろごろしながらお菓子を食べている親なんてこっちから願い下げだ。

ていうかまだ6時半だ。

「・・・つまり」これだけは言いたかった。僕は後ろ手にドアを閉め、さつきさんを指差す。

「僕のこの性格は僕のせいじゃないっ!!」

あ、さつきさんが哀れみを込めた目で僕を見ている。お陰で後に引けなくなった。お願いだ、突っ込んで。

「やれやれ、最近は大人も子供も皆責任を他人に押し付けたがるな。日本はダメだ。私はアメリカ人になろう」さつきさんは溜息をつく。突っ込んでくれなかったので僕はまっすぐに伸びた指を下ろすことすらかなわない。人差し指はさつきさんを差したままだ。

「いやいや、アメリカもアメリカで民族差別とかありますからね。それにほら、今は世界中が不景気ですから、母国のほうが生きやすいと思いますよ」ていうかすぐに逃げることを選択するあんたも今どきの子供みたいだよ。

「ばか者、そんな受身な姿勢でどうする!生きやすい国がなければ私は新たに国を作ればいいだろうが!!」

「うわあ、スケールでけぇ」

「さあ、段ボールを用意しろ!」

「それはただの篭城だ!」

僕も言ったことがあるなあ、幼稚園児くらいのときに。居間の隅に段ボール構えて「僕の国だ!」って言ってたなあ。懐かしい。

「そうしたら君も国民にしてやろう。無論奴隷としてだが」

「人権侵害っ!?」なんて仕打ちだ。ていうかこの場合僕は望んでないから拉致るつもりか。あ、でもさつきさんの奴隷ならいいかも。それに奴隷になれば受験勉強とか就活とかしなくていいからな。

・・・・・・嘘だ。流石の僕もそこまで人生捨てちゃいない。リンカーン先生は偉大なのだ。

「僕も高校生ですからね。遅くなったりもしますよ」

「何をえらそうに。どうせいても意味のないようなことのくせに」

「見てたんですかっ!?」

「ほら、認めた」勝ち誇った顔をしたさつきさん。しまった、誘導か。こんなに簡単に引っかかってしまうとは。浅はかなり、僕。

「ええ、認めますよ。認めますとも。置物のようにじっとしておりましたとも。それでも委員になっちゃったんだから仕方ないんです!文句あるんですか!?」逆ギレだった。こんな時はいつも思う。

―――僕って人間小さいなあ。

「耕兄、ごはん!さっきから呼んでるでしょ、まったく」

突然ドアが開け放たれ、仁王立ちをしているつむぎ。相変わらずノックをしない彼女には兄として注意すべきなんだろうか。でも注意するとすごい反撃が帰ってきそうで怖いなあ。

・・・・・・何で僕は妹に注意するのにもビビってんだ。思わず自分自身に突っ込みをいれる。自分からとはいえ、突っ込みが来たので、ようやくつむぎから見て何もない空間を指差していた僕の手が下ろされた。

つむぎは不機嫌に眉間に皺を寄せたまま階段を下りていく。せっかくの美人が台無しだぞ、妹よ。ひもじそうに僕を見るさつきさんを尻目に僕もその後を追う。今お菓子を現在進行形で食べてるじゃないか。どんだけ強欲なんだ。

僕はあなたをそんな子に育てた覚えはありません!!


向かい合って食事をしている間、つむぎは無言だった。僕はご飯の量よりも多い両手いっぱいの笑いを提供したが、笑うどころか反応すらしてくれなかった。漆根家では食事中にテレビを見るのは禁じられているので、沈黙が僕を針の筵となって覆い尽くしている。精神が大きな穴が開いたサンダルくらい磨り減っていた。僕に目を向けることもなくつむぎは俯いて箸をすすめている。そういえば僕を呼びに来たときも心なしかピリピリしていたな。何かあったんだろうか。

「もしかして、恋わずらい・・・?」その冗談が今夜の僕のつむぎに対する最後の発言だった。つむぎはカッと目を見開いて、半分以上残しているご飯をそのままに箸を置いて、椅子から力強く立ち上がるとチーターもびっくりの速さで階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込み、家が揺れるほど勢いよくドアを閉めた。

「・・・・・・?」僕は固まる。今僕の目の前を過ぎ去ったのは台風だろうか。だとしたら随分と局地的だ。しかし、ここだけは誤解してもらっては困る。僕の妹は普段決してご飯を残すような子ではない。

「仕方ないな」僕はつむぎが残していったご飯を手元に運ぶ。妹の名誉のために彼女が残した証拠を隠滅しようという愛。そう、愛だ。素晴らしきかな、兄妹愛。


 



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