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彼女を映画のヒロインとするなら僕は主人公じゃなく、ゾンビB役だな。 2

「それでは解散です」

はっきり言って、会議の内容など聞いていなかった。いや、聞いてはいたかな。ただ右耳から左耳へ音波をきれいにスルーパスしただけだ。いや、脳は一瞬たりとも触れてないからただのスルーだな。そのスルーさえも結局誰も取ってくれなかったけど。ピッチに僕一人だけ立っている気分。

しかし、気付いたらなんと外が薄暗くなっていた。おかしいな、最近は特に日が長くなってきたのに。そして時計を見た僕は絶句した。もしかしたら僕は会議中ずっと寝ていたのだろうか。ついにぼーっとしているのと寝ているのの区別さえつかなくなってしまったのだろうか。100歳間近のおじいちゃんか、僕は。

あーあ、結構な時間になっちゃったよ。さっさと帰らなきゃな。つむぎが夕飯を1人で食べることになっちゃうじゃないか。ま、僕がいてもほとんど喋ることなんてないんだけどね。・・・と、ぼんやり考えていたら、眼鏡が素敵な文化祭委員長が僕と僕のクラスのもう一人の委員に近づいてきた。

「ああ、1年4組の2人でこれを倉庫に帰してもらえる?」

・・・まじかよ。おいおい、頷くなよ春日井さん。そして今日初めて僕を見るな。重い荷物だけ僕に持たせようなんてなんて都合のいい・・・。

しかし素直に従いそれを持ち上げる僕。つくづく人に逆らえない薄弱さだった。このスクリーンに映像を映す装置はなんて言うんだろ。普通に投影機とかでいいのかな?とにかく重いんだよこれ。僕みたいな軟弱にして脆弱かつ虚弱の上さらに貧弱な男に持たせていいものじゃないぞ。

「体育館前の倉庫だから、はい鍵」

眼鏡が似合う委員長は笑顔とともに鍵を春日井さんに渡し、春日井さんはそれを嫌な顔ひとつせず素直に受け取った。いくら男のほうが力があるといっても鍵1つとこの重たい機械ほどの差はないはずだ。どこ行った、男女共同参画社会基本法!!

「これもね」委員長はさらにコードを上乗せした。しかもなぜか鍵しか持っていない春日井さんではなく、僕が持っている投影機の上に。大した重さはないけどバランスをとるという任務が増えた。僕のあからさまな拒否の表情には気付かないのか無視してるのか・・・絶対後者だ、などと穿った見方もしてしまおうというものだ。

春日井さんは僕に一瞥もくれず、早足で教室を出て行く。体育館まではかなり距離があるが、どうやら歩調を僕に合わせてくれるつもりはないようだ。

それでも頑張って歩く僕。こんな時ばっかりは運動系の部活をやって体を鍛えておけばよかったかなあ、と思う。思いを更に膨らませていくと、練習後に後輩に片づけを押し付けられている僕の図がかなりのリアリティを持って現れたので、慌てて消した。そして頑張ったまま、息を切らしつつ、行程の半分ほどまで来たところで、僕は春日井さんに声をかける。というか音を上げた。

「春日井、さん・・・ちょっと、待って」

「話しかけないで!」

え~~~~~~~~~!

春日井さんは止まってくれることなどなく、むしろスピードを上げてくださった。僕は止まることもできず、何とか差がこれ以上広がらないようにする。あーあ、明日絶対筋肉痛だ。というよりも今すぐにでも腕がもげてしまいそうだ。


この辺で少しばかり謎を解決しておこう。なぜこの僕が文化祭委員なんかやっているのか。そしてなぜ春日井さんが僕をこんなに嫌って、嫌悪どころか憎悪までしているのか―――。


春日井若菜。1年4組出席番号10番。スマートな体型と黒い長髪。―――そう、さつきさんに似ている。ここで問題、高校に入ったばかりの僕は一体どうしたでしょう。

はいそこのあなた、正解。当然告白した。しかし彼女にとっては幸運なことに、彼女は僕の伝説を知っていた。ちなみに伝説と呼ぶのは及川くらいで、大抵のやつらは恥と呼ぶ。確かに今の僕から見れば当時は恥だった。しかし、当時の僕はそれを恥と分からないほど視野が狭く、必死だった。そして今なら言える。間違いなく彼女は僕の被害者で犠牲者だ。

当然さつきさんに似ている彼女にフられた僕は告白周期(命名及川)を2週間から5日へと加速させた。そして僕の評判はさらに地べたを舐めることになった。進歩しつつ退化できる人間なんて僕くらいじゃないだろうか。

今の僕から見ればすぐ分かる。中学2年の自分に対する周りの認識がある程度出来てからならまだ良いかもしれないが(いやよくなかったが)、高校初っ端からこれはまずい。恐らく1人の例外なくこの学校の女子は僕をごみのように見る。そして中でも春日井さんは僕を核廃棄物のように見る。

そう、残念ながら僕は廃棄処分すら出来ないのだ。せいぜい地下深くに埋めるくらいか。それでも安心することなかれ。地殻変動やら地震やらで地表に出てくるぞ、僕は。

そして協調性0・・・というか協調しようとする精神をたらい回しを超えて伝言ゲームのように回され、最後の人がゴミ箱にぶち込むという残念な扱いを受けている僕がなぜ文化祭委員なのか。これについては時間軸を少し前に戻そうと思う。


僕は真剣に悩んでいた。鉛筆の6角一つ一つに番号を振ったのは良いが、二択の状況の中、奇数偶数で分けようか。それとも123と456に分けるか。それとも別の分け方が良いか。手元の鉛筆は「早くしろ!」と僕を急かす。鉛筆の主張にはまったく動じなかった僕だが、「30秒後回収します」という春日井さんの言葉で瞬時に奇数偶数で分けることに決め、鉛筆を振った。

5が出た。よし奇数だ。

「あ、しまった」僕は絶句した。分け方を考えたのはいいが、奇数になった場合どっちにすればいいのかを考えていなかったのだ。

「それじゃあ最後列の人、回収して下さい」

「ええい、南無三!」誤解しないで欲しいのは、僕がこんなセリフを口にしたのはこれが最初で最後だ。とにかく僕は紙に「おばけやしき」とひらがなで書いて4つ折にし、最後列の席だったので回収した。

きれいに紙を整える。その間、春日井さんは他の列の紙をお礼をいいながら受け取っていた。しかし、僕の渡した紙はつままれた。流石の僕でもこればかりは結構ショックだった。だって、春日井さんがこんなに無防備な人だと思わなかったから。核廃棄物を扱う時は、決して素肌をさらしてはいけない。

・・・嘘だ。素で傷ついた。

結局僅差で喫茶店に勝利し、1年4組の文化祭での出し物はお化け屋敷に決まった。

次いで文化祭委員を決める事になった。春日井さんの場合は立候補だったので女子は決定。しかし、仕事量が多い文化祭委員の男子の立候補はなく、長い間保留になっていた。もちろん僕にやる気はなく、置物に見えるようにクラスの後ろで席に着いていた。恐らくクラスの大半は僕のことなど視界に入れようともしないから最悪押し付け合いになっても僕に振ってこられることはないだろう。僕は夕飯のおかずのことを考え、ぼーっとしていた。

だが、のちに悪魔と(僕に)呼ばれる及川がおもむろに口を開いたのだ。

「・・・漆根、お前部活やらないんだろ?じゃあお前で良いじゃん。はい決定」

お前も帰宅部だろうがっ!

長身で筋骨隆々。さらにスキンヘッド。これでサングラスでもかけたら180度360度、さらに上から見ても下から見ても過去も未来もヤクザにしか見えない及川に逆えるものなどいない。僕の抗議はクラスの視線に棄却され、そしてクラスの体裁を守るため、僕は立候補したというように改ざんされ、屈辱を味あわされた。

しかし、それだけならよかった。ああ、まだなんとかなったさ。しかし、さらに僕に追い討ちをかけたのは春日井さんの表情。彼女の顔はこの世の終わりを見てもまだこんな顔をしないだろうといえるような絶望の色を呈していた。



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