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彼女を映画のヒロインとするなら僕は主人公じゃなく、ゾンビB役だな。 1

日曜日が終われば月曜日になる。月曜日になれば学生はプログラミングされた機械のように学校に行く。僕も例に洩れず、徒歩10分の学校へ向かう。今日は早めに起きたので、人通りは少ない。

「耕太、私は悲しいぞ」僕の横に並び、さつきさんは溜息をついた。心当たりがない僕はさつきさんの顔を見る。本当に落ち込んでいた。

「君が私を信用してないとは・・・」

「何言ってるんですか。僕はさつきさんのことなら何でも信じてますよ。さつきさんが『明日地球が滅ぶ』って言ったら滅ぶんですよ」

「本当か。じゃあ言うぞ、明日世界が滅ぶんだ」

僕は両手を挙げた。

「な、なんと。これは大変だ。じゃあ今日はこれから学校行って授業受けて、帰ったら宿題やって夕飯食べて夜は眠いから寝なきゃ!!」全身で驚きと焦りをあらわにする。

「・・・・・・はあ」

あれ、ちょっとさつきさん、リアクションは?突っ込みは?・・・おかしいな、僕何もしてないのに。

「どうして目覚まし時計を自分の枕元に置いた!!」

3日目にしてようやく猫を追うより魚を退けよに気付いた僕は結構間抜けだ。しかしさつきさんはどうしてこうも目覚まし時計を嫌悪するのだろうか。僕は密かに決してさつきさんを起こさないことを心に誓っていた。流石の僕でも目覚まし時計を壁に叩きつけて壊すような破壊行為を身に受けて愛と称する事が出来る自信はない。

「目覚ましを止めないと朝起きたって感じがしない!」

「めんどくさっ!ていうかあの破壊行為を止めたと言うんですかっ!?」

そんなばかな、レスラーじゃあるまいし。まあレスラーもそんなこと絶対しないけど。

・・・物は大事にしましょう。

「今度から朝は耕太の息の根を止めようか・・・」さつきさんはブツブツという。

「怖っ!ていうか僕毎朝死ぬんですか!?」

それに「息の根を止める」って・・・。言わないだろ、今日び。せいぜいドラ○エのザラキぐらいだ。

「じゃあこうしましょう、さつきさん」僕は立ち止まり、人差し指を立てた。そして真剣な目でさつきさんを見る。さつきさんも自然真剣そうな面持ちになる。本当にノリがいい人だった。

「明日から目覚ましは2人の真ん中に置く。先に目覚めた方が止める権利を有する―――」

さつきさんもにやり、と笑った。それはさながらチャンピオンの風格。

「なるほどな。だが良いのか、私の寝起きは半端ないぞ」

そりゃもちろん知ってますよ。僕が起きるのはだいたい目覚ましが止まった後だったからな。言うならば今の僕は3連敗。今日だって実はさつきさんが目覚ましに手を伸ばそうとしてたし。

「さつきさんがいかに強敵といえども、僕には決して敵いません」

言いながら僕はさつきさんから隠した片手で携帯を操作する。アラームを目覚ましの1分前にセットした。ふっふっふ、卑怯と僕に後ろ指をさすがいい。僕は甘んじてその言葉を受け入れよう。だがこれも新しい目覚ましを守るため。この勝負、僕は決して負ける訳には行かないのだ!!


金曜日で状況を察してくれたのか、さつきさんはあまり話しかけてこず、学校中をウロウロしていた。あんまり、というのは何回か話しかけてきたからだ。また椅子を倒されたりしたらたまらないので、僕はルーズリーフとシャープペンというあまりにも高校生的なデバイスで筆話した。おかげで最終的には「うちはPS2じゃなくてパソコンで見ます」とか「駅2つ越えたところの風来軒って所のチャーシューメンが」とか明日見たら確実に意味が分からないと思われる言葉が所狭しと書き連ねられていた。

しかし、授業中なんかにさつきさんが教室に戻ってくる姿は実に異様だ。しかも堂々と前から入ってくる。せめて後ろからこそこそ入ってきて欲しい。おかげで「どうした漆根」と何度先生に言われたことか。いや、まあこれは集中力の足りない僕のせいなんだけど。

そして放課後、いつもならまっすぐに家へと帰る僕だが、残念ながらそうは行かない日もある。というわけでさつきさんと別れた。さつきさんは部活見学をして入りたい部を決める、と豪語していたので僕は止めない。「お好きにどうぞ」と告げると、

「なにっ、君は私がホームランを打ったりハットトリックを決めたりしても構わないというのか!?」と言われた。僕としては構わないどころかそんなスターになるなら死ぬ気で応援したい。というわけで僕はさつきさんと別れ、職務を全うするためとある教室へと足を進める。

「あ~あ、いやだな」久々に本気の溜息をついた。何が僕をこんな憂鬱な気にさせるかというのはおいおい分かる。絶対に。しかしそれも僕がまいた種なわけで、僕がそれを憂うのは正真正銘、完全無欠にお門違いというやつなんだけど。

その部屋に足を踏み入れる。少し遅れてきたのが災いして、僕の方に20人以上の人間の顔が向いた。しかし視線はすぐに黒板に切り替えられる。仕事中の人々というのはいつ見ても異様だ。個々の心中ではそれぞれに違うことを考えているはずなのに、表面上の動きだけはまったく同じ。そして、僕も空いている席―――僕のために空けられていた席に腰掛け、異様な集団の仲間入りをする。隣の人は何も言わない。というよりその彼女は始めから僕に目を向けることなどない。それどころか僕と空気を共有することさえ拒否していると思う。それもまた非常に憂鬱なのだが、しかしこれも異常な僕の身から出たさびだった。

「―――それでは、文化祭委員役員会議を始めます」

眼鏡の似合う委員長が切り出した。僕らは黙ってそれを聞き、要所要所でメモを取る。

そう、僕は文化祭委員なのだった。



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