ちなみにあと2段階残している 2
さつきさんがしばらく休業(何度も思うがどうして仕事に例えるんだろう)をとるというので、僕1人で探す訳にもいかず(なんせ手がかりはさつきさんの記憶だけだし)、暇をもてあましていた。
「なあ、耕太。君は部活というものをしないのか?」
「えっ、何言ってるんですか、さつきさん。僕は立派に部活に所属していますよ」ちなみに暇をもてあましているのは僕ではない。さつきさんだけだ。僕は宿題という強敵を机の上で片付けている。気分はさながら勇者だな。味方に誰もいないけど。むしろ敵しかいないけど。・・・それって普通に僕のほうが世界の敵じゃん。それでも魔王じゃないな。腐った死体あたりが妥当かもしれない。
「なにっ、知らなかった!」
「冗談もほどほどにして下さいよ。最初が『き』で始まって『く』で終わる部活ですよ」
あ、さつきさんの額に怒りマークが見える。これはまずい、僕は座布団を構えた。
「そんな三文字で真ん中が『た』の部活など聞きたくなかったわ!この引きこもりが!」
そういって、さつきさんは飛び出して行ってしまった。もちろん僕が顔の前で構えた座布団には拳の跡がしっかりと残っている。ていうかさつきさん、このパンチ力があれば世界狙えるんじゃないのか?あ、ダメか、怒りに身を任せて対戦相手を投げてしまうかもしれない。そしてジムから解雇されるんだ。でもでも返り咲いて最終的にチャンピオンになれるのなら万々歳だ。今度勧めてみよう。
僕はさつきさんの出て行ったドアを閉め、そして時計を見る。11時。せいぜいもって30分って所かな。僕はもうすぐで終わる宿題に取り掛かる。
「耕太、お腹が減った、昼ごはんにしよう!!」
「・・・・・・おかえりなさい」
さつきさんはやっぱり帰ってきた。しかしさっきから20分たってないぞ。もうちょっと頑張れよ、さつきさん。
退屈な日はいとも簡単に過ぎ去ってしまう。せっかくの日曜日なのにかなり損をした気分になる。これはあれだ、発売日に漫画を買って、その後ブックオフに行ったらその漫画があっちゃったときの気分だ。あの時って「いいんだよ、新品が良かったんだから」とか言って自分をごまかすしかないんだよな。まあ、僕はあんまり漫画買わないんだけど。
夕食はいつもどおりつむぎが作る。僕は「手伝おうか」と言ってみたが、「邪魔するのを『手伝う』というならいいよ」と言われた。相変わらず僕に厳しい。世間一般の皆さん、妹に余計な幻想を抱くな。「あたしおにいちゃんと結婚する」なんて言うわけないだろ!!・・・あ、でも幼稚園くらいの頃言われたな。あれが僕のモテ期のピークか。
「何ニヤニヤしてんの?」
「・・・・・・なんでもないです」どうやら遠い過去の栄光が顔に現れていたらしい。
「暇ならサラダ作って」つむぎは不機嫌そうに言った。
「はいはい」・・・ってあれ?結局手伝ってんじゃん。・・・ま、いっか。手伝わせてくれるんだし。僕はキッチンに入り、すっかりマスターしたキュウリの輪切りを披露する。
「・・・こ、これは・・・」
目の端に映るつむぎはなんとスパイスからカレーを作っていた。おいおい中学生、一体将来何になるつもりだ。しかもそんなことされたら僕の立つ瀬がないじゃないか。この家から僕の存在意義を消すつもりか?最初から大した意義はないんだけど!
ちなみにカレーは絶品で、それだけに僕の適当なサラダは猫の餌くらいに見えた。さつきさんは「いや、なかなかうまいぞ」と言ってくれたが、カレーを3杯もおかわりしたので、結局残してくださいました。そして僕は夜食に皿いっぱいのサラダを食べることになる。いや、まずくないよ、決して。ちょっとしょっぱかっただけさ。