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ちなみにあと2段階残している 1

次の日。僕は久々・・・といっても2日ぶりだが、に目覚まし時計に起こされた。その音を心地よく感じつつ、僕は目を覚ました。

「・・・何してるんですか、さつきさん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・てへっ」

さつきさんは時計を掴んだまま大きく振りかぶっていた。時計の強度を調べるためには申し分ない衝撃だろうが、そのために傷つくのは僕の部屋の壁で、そのせいで怒られるのは僕なのでぜひともやめていただきたい。

「仕方ないだろ、条件反射なんだから。ビックリしたんだ」さつきさんは目覚まし時計を机の上に置いた。

「じゃああれですか、もし僕がさつきさんを後ろから脅かしたら同じ目にあうんですか」

なんてことだ。脅かされるのに脅かせないなんて。あ、でも当然っちゃ当然か。幽霊を脅かしたりしたらこの国の心霊スポットがなくなってしまいかねない。僕は別に構わないが、そういうのが好きな人もいるんだ。楽しみを奪うのはやめよう。

「大丈夫だ。せいぜいハイキックぐらいだな。流石に時計みたいに頭を掴んで地面に叩きつけたりはしないから安心して脅かせ」

「できるかっ!」どうして朝からそんなぞっとするような話を聞かされなければならないんだ。ていうか朝から突っ込みをさせるな。朝は低血圧なんだから。ああ、眩暈が。

「さあ、朝だ、朝食だ」さつきさんはしゃっとカーテンを開け、東向きの窓から太陽を受けた。さつきさんが影になっているので、僕は太陽を享受できない。そう、さつきさんはちゃんとここにいる。いるはずなのに・・・。

・・・まあ、いいか、そんなことは。

「なんかごろごろしてるのに、ご飯はしっかりいただくって牛みたいな生活ですね。大人としてなんか義務的なのはないんですか?」

さつきさんは少しむっとして振り返った。

「いいんだ。私は第二の人生を歩んでいるんだから」

「定年したんですかっ!?」セカンドライフ・・・。あ、確かにそういえばそうだ。言い得て妙なり。

「そうだ。ファーストライフは短かったがな。ちなみにあと2段階残している」さつきさんは2本の指をこれ見よがしに立てた。

「フ○ーザなのか?あんたはフリー○なのか!?」

そういえばフ○ーザってあんな強かったのにメカになった後トラ○クスに瞬殺だったよな。

「それにちゃんと仕事ならしているじゃないか」さつきさんは得意げに言った。

「人探しですか?」いや、あれは仕事というよりかなり個人的な。

「いや、手のマッサージとか」

「あった、そんな特技。忘れてたよ。ていうかあんなのじゃ就業時間3日のうちで2分じゃん!」いいな、そんな仕事。ぜひやりたい。

「あとそうだな。耕太のお守りとか」

「それはいつも迷惑かけてすいませんねぇ!」何となく僕としては僕がさつきさんのお守りをしている感じなのだが。まあそこは言及するまい。水掛け論はダメだ。

日曜日で誰も起きてないうちに(僕のこの日曜も早く起きる習慣は漆根家の習性ではない。僕固有のものだ)朝食をとり、昨日と同じように部屋でごろごろする。確かに、まったく生産的ではない。

「あ、そういえば知らなかったかもしれないですけど、僕平日は学校なんですよ。だからさつきさんの人探しの休日を変えてくれませんかね」僕が声をかけると、さつきさんは僕の部屋にある数少ない漫画本から顔を上げた。

「なに~!ダメだダメだ。私は他人の都合で自分の予定を帰るのが5番目に嫌いだ!君が変えればいいだろう!」

「・・・・・・」

ムチャ言うなよ。学校だよ!?しかも5番目かよ。それぐらいなら割愛しろよ!

「・・・まあ、いいだろう」さつきさんはしぶしぶ承諾してくれた。

・・・いいのかよっ。

「それで、なんか手がかりとかあるんですか?」

「言っただろう。顔も名前も一切覚えていない」

「そうですか。じゃあ今までどうやって探してたんですか?」というかそれは探していたというのか。ただぶらぶらしていたともいえる。

「なんというかな。雰囲気というか・・・。覚えている事はある。年齢は私より5つくらい上だった。何となく君に似ていなくもない」

「・・・それってダメ人間ってことですよ」

あ、自分で自分のことダメって言っちゃった。る○剣時代の和○伸宏じゃないんだから。

「そうだ、君はダメ人間じゃないぞ。どちらかというと人間ダメだ」

「・・・・・・」

うん、もうどーでもいいや。

「・・・と、まあ冗談はともかく、なんというかな、私のボケを1つ残さず拾ってくれたな」

「ああ、それは凄いですね。僕にはまったくまね出来そうにない。どこの大阪から来たお笑い芸人の方なんですか?」

「お笑い芸人?なんのことだ?・・・・・・覚えている光景は・・・夏の日だな。山の中の豪邸。あれは別荘か。私は森で迷って泣いていた」

「いつの話ですか?」ていうか、そんなに裕福だったの、さつきさん。

「ん?あれは・・・10歳くらいかな。・・・まあそれであの人が私を探しに来てくれたんだ」

「・・・どれくらい昔の話ですか?」

「それがさっぱり分からん。生前のことで思い出せることなんてそれくらいしかない。気付いたら幽霊だったからな」

「そう、ですか」思い出がない。自分自身が何者かわからない。それは足元がおぼつかないという事だ。確かにそれは幽霊の定義にはぴったりなのかもしれなかった。

「ああ、驚いた。そしてかなりショックだったな。最強だと思っていた悟空がベ○ータたちにはまったく歯がたたないと知ったときぐらいショックだった」

「・・・・・・」

微妙。

「うそだ。ドラゴ○ボールを読んだのは幽霊になってからだ」さつきさんは含み笑いをした。何を含んでいるかわからないが。

「まあ、そういうわけで見覚えのありそうな場所をウロウロして今はここにいるわけだ」

「見覚えがあるんですか?」だとしたらかなり近づいているのかもしれない。

「いや、わからないな。もしかしたら前に一度来た時の光景をそう錯覚しているだけかもしれない」

「結局記憶だけの手がかりか・・・」僕は黙って思考する。もちろんコ○ン君みたいに90°に開いた指を当てたりはしなかったけど。しかしあれって現実でやるとかなりダサいよな。

「ああ、めんどくさくなってきた。やめないか?」

「なんだそりゃ。あんたはあれか?秋あたりにやる気が無くなる受験生か?」

きついんだよな、あれ。高校受験でもめんどくさくなった。しかもまだまだ受験まで時間があるってのがいただけない。大学受験はもっときついんだろうな。ああ、萎える。

「まあ、そんな焦ることはない。気長に行こう」

「焦らないと褪せるんですよ」僕の格言。結構いいな、今度学校で使って見るか。いちいち後者の漢字を説明しなくちゃいけないのが面倒そうだけど。

・・・ていうか僕には話す相手がいないか。ダメだ。

「大丈夫だ。なあ、耕太、一緒に老後を過ごそうじゃないか」さつきさんはベッドに寝そべってごろごろし始めた。ああ、なるほど。本気で面倒なんだ。

「いや、そりゃ僕にとってはそれはとても嬉しいですけど、そうもいかないでしょう」

「む、まあそうだな」乱れた髪の隙間からさつきさんが僕を見る。怖いよー。

「まずはさつきさんのことについて調べてみた方がよくないですか?少なくとも名前は分かってるんだし。あ、苅谷さつきは本名ですよね?」

それが偽名だったらもうムリだ。諦めよう。

「ああ、それは大丈夫だ。私は生まれてこの方、死んでもこの方苅谷さつきだぞ」笑えない冗句だった。とりあえず苦笑しておく。

「しかし私のことを調べる、か」そしてさつきさんは体を起してコナン君のポーズをとる。あれ?何でだ?様になってる。くそう、やっぱり何かに愛されてるよ、この人は。

「・・・何か問題があるんですか?」僕は恐る恐る尋ねた。

「なんだかエロティックな響きだな」

「知るかっ!!」僕は叫ぶ。と同時に壁の向こうから物音がした。どうやらつむぎを起こしてしまったらしい。ごめんよつむぎ。・・・でも絶対僕のせいじゃない。

「せめて亡くなった場所でもわかっていれば楽なんですけどね」もしくは僕が警官だったら、権限使って調べられるかもだけど。

「あ、そうだ。40年くらい待ってくれれば警官になって出世して権力使って調べますよ」

「やだよ。そんなに君と一緒は」

「・・・あ、あはははは」

僕はまったく抑揚のない人形のように笑う。なんだろう、この頬を伝うしょっぱい水は。これはつまり僕に海に帰れといっているのだろうか。生まれ変わるならウミウシがいいな。あんな風にぼーっとしながら暮らせるなんて夢みたいだ。あっ、でもあんな派手な色はごめんだ。僕は地味に生きたいんだ。漆色のウミウシはいないだろうか。あとはナマコとか?

「あ、いや冗談だ。本気にするな、耕太。いや、泣かれても困る。あとでいいことしてやるから。な?な?」

「なんですか!?」僕は飛びつく。あれ、こんなこと前にもあったような。デジャヴ?

「ああ、手のマッサージだ」

「・・・・・・・・・・・・しょぼ」

ん?このネタレギュラー化しつつある?

「まあ、しばらくはいいよ。私も少々疲れた。もう何年も探しているが手がかり1つ見つけえられないんだからな。しばらく休んでもいいだろう?」さつきさんは笑う。

「そうですね」僕も笑った。

目的の無い人生にも意味はある。目的を一時保管してもやっぱり生きるだけで意味がある。だったら少しぐらい休んだっていい。父さんも母さんもそんな働きづめで疲れてるだろう?たまには羽を伸ばしたらどう?・・・と、家族思いの僕は思った。

「あれだ、私は育児休暇を使うぞ」

「子供がいるんですか!?」僕は跳び上がった。まいったな。それじゃあ僕は「耕太お兄ちゃん」と呼ばれる事になる。そして僕はなんて呼ぼうか。う~ん、悩む。でもさつきさんの子供ならさぞかしかわいいんだろうなぁ。

「いや、君を育てるのが大変だ」

「自分のことを『耕太お兄ちゃん』って呼べってか!?」

「なぜだっ!?」

妄想を膨らめ過ぎた僕に対して、ついにさつきさんが突っ込みに回ってしまった。すいません、ご苦労様です。

「―――ちょっと朝から勘弁してよ」

つむぎはやっぱりノックもせずに入ってくる。ま、やましいことしてる訳じゃないから別にいいけど。ちなみに僕は携帯を耳に当てている。悲しいかな、常に妹を騙すための準備までしている僕。

「ああ、ごめんよつむぎ。・・・ん?ああ、じゃ」着信してもいない携帯を無意味に切って畳んだ。

「・・・そういえば、あたしのパジャマ知らない?あとお母さんも服が何着か無いって」

不自然に突然話を変えたつむぎは疑いの目を僕に向ける。

「おいおい、まさか僕のわけないだろう。それともお前は自分の兄貴が女物の服着て悦ぶような変態に見えるのか?」

つむぎは何も言わない。その沈黙がすべてを物語っている気がした。無言の視線が痛い。

「・・・ま、いいや。それと今日と明日お母さんもお父さんもいないから」

「へ?」

「最近働きづめだから2人であわせて有給とって温泉旅行に行くって」

「あ・・・そう」つむぎはビックリしている僕を怪訝そうに見て、ドアを閉めた。

いや、いいんだよ。たまには羽を伸ばしたって、別に。いや、ただなんだか僕の意識が仕組まれているような気がしただけさ。それよりも僕はさつきさんをジト目で見る。

「・・・悪かったな、耕太。服はちゃんと返しておく」

「やっぱり」僕は溜息をつく。どこかで見たことあるようなさつきさんの服は、母さんのものだ。当てがあるって言ってたのは僕の家族から拝借するという事か。

「許してくれにゃん」

「は?」突然の猫言葉に対応し切れない僕。ていうか、なんというか・・・萌え。

「ああ、いや、てっきり『この泥棒猫が!?』的なツッコミが来るのかと」赤面するさつきさん。

「この泥棒猫が」抑揚のない声で僕は言う。

「ふん、ダメだ。1回限定だ」さつきさんはそっぽを向いた。

「ちぇっ」



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