バス停
3畳ほどの薄暗く狭いバス待合所。とっくに田舎の1時間に1本のバスは行ってしまい、する事もなくただなかば朽ちかけたベンチに座ってぽっかりと切り取られた入口から覗く沈みゆく朱い夕日を眺めていた。
ふと気が付くと、くたびれたスーツを着た冴えない中年男が座っている。
仕事に疲れた精気のない顔をして、ぼーっと座っている。中年男はこちらが見ていることに気が付くと、顔を逸らした。
何となく不愉快になる。こんな大人にはなりたくない。
男の向こう側には、お爺さんが座っていた。
お爺さんはこちらが見ていることに気が付くと、何本か抜けた前歯を見せてニッと笑った。
何となく不愉快になる。こんな爺さんにはなりたくない。
反対側には、また中年男が座っている。
仕事帰りなのか疲れてはいるが充実した顔で、腕には大事そうに鞄を抱え家族の下へ運んでくれるバスが来るのを待っている。
男は、こちらが見ていることに気が付くと、はにかんだ笑いを見せた。
何となく懐かしくなる。自分にもこんな時代があったことを思い出す。
男の向こう側には、若い男が座っている。
これから社会へ出ていくのだろう、まだまだやる気に溢れた顔で、バスを待っている。
何となく懐かしくなる。自分にもやる気に溢れた時代があったことを思い出す。
夕日が地平線の向こうの寝床へ帰った頃、バスがやってきて、中年男と青年を乗せて走りだした。
すっかり夜の帷が落ちた道に出てバスがすっかり見えなくなると、老人は自分と同じくらいくたびれた妻の待つ家へと歩き出した。