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第6話 ゴブリンキング②

キングと僕は、間合いを測るように睨み合っていた。


「身体強化」


スキルを発動する。切れた瞬間にかけ直す。少しでも食らいつくためだった。


だが魔力の消費が重い。

視界の端に表示が浮かぶ。


MP:残り6


このペースで使えば、あと二回が限界だろう。


それでも止める気はない。

目の前にいるのはゴブリンキング。五メートルの巨体。狂暴化した化け物だ。

少しでも気を抜いたらその瞬間に、終わると直感でわかる。

目の前に立つ巨体の、圧で心が震える。


攻撃を見てからではかわし切れないほどのスピード、そして一撃まともに食らったら


「ゲームオーバーだな」


見てからかわせないのなら、予測しろ。

目の前の敵の振るう武器を見ろ、一メートルほど伸びる大剣。

キングの立ち位置、腕の振り方。戦闘が始まって1時間以上見てきた癖。


「……来る」


キングの肩がわずかに沈んだ瞬間、バックステップを踏みすぐさま回避する。

その刹那、振り下ろされた大剣が床を砕く。


「ち…ッ!」


完璧に避けたと思ったはずの攻撃が、形を変え衝撃波として迫ってくる。

即座に槍を地面に突き刺し、吹き飛ばされないようしがみつく。

足元の岩が削れ、体が後ろへ引きずられる。


「クソゲーが……!」


なんとか耐え切り、目を上げた瞬間すでに大剣は迫っていた。

先ほどの攻撃でできた穴に、瞬時に身を滑り込ませる。

頭上を大剣が通り抜け、砕けた破片が降り注ぐ。


「っぶな……!」


だが安心する暇はないと言わんばかりに、即座に影が差す。

次の瞬間、穴ごと潰すように拳が振り下ろされた。


「は?」


地面が弾ける。


反射的に横へ転がる。


一瞬遅れて、さっきまでいた場所が砕け散った。


「執拗すぎだろ……!」


体勢を立て直す前に、キングが踏み込んでくる。

槍を構える暇もない。無理やり体をひねり回避行動をとる。振り下ろされた大剣は、避けた――はずだった。だが遅れて、衝撃が背中を叩いた。


「――ッ!」


口の中に鉄の味が広がる。息が詰まり、嗚咽が漏れた。身体強化のおかげで潰れはしなかったが、衝撃が内側まで抜けてくる。立て直す前にもう次が来る。影が覆う。拳。反射で横へ転がる。直後、さっきまでいた場所が砕け散った。


起き上がろうとする脚に力が入らない。それでも無理やり立ち上がる。

キングは止まらない。踏み込み。距離が一瞬で消える。大剣が振り上がる。

(振り下ろし、衝撃、その後に――)回らない頭で必死になぞる。

だが無慈悲にも大剣は、振り下ろされる。避けきれない、ならばと無理やり槍を差し出す。直撃は逸らした。真横にずれた攻撃の衝撃波で体が宙に浮く。


空中に浮いた僕の体にとどめを刺そうと、キングが腕を伸ばした。

その瞬間、ゴブリンダークとの戦闘でも見た警告が表示される。


ーーーーーーーーーーー

HP:2%

ーーーーーーーーーーー


それと同時に、もう一つの表示も視界に入る。


ーーーーーーーーーーー

狂乱化再使用可能

ーーーーーーーーーーー


「……は」


空中で、笑った。血が口からこぼれる。「間に合った」

キングが迫る。大剣が振り上がる。終わりの一撃。


「――狂乱化」


落下しながら力なく呟いた言葉に応えるように、体から痛みが引き力が戻ってくる。

血が沸騰でもしているかのように体は熱く、視界が一瞬で鮮明になる。

まるで、時間が止まったかと錯覚するほどに、落ちてく自分とキングの攻撃がゆっくりと見える。


「待たせたな」


誰に言うわけでもなく、発した言葉とともにキングの腕を空中で回避する。

着地と同時に、地面を蹴る。

キングも僕の変化に気が付いたのか、少し咆哮を上げるが関係ないとばかりに次の攻撃動作に入る。


ーーーーーーーーーーー

HP:1%

ーーーーーーーーーーー


警告音とともに、段々と視界が赤く染まる。

(五月蠅い)

そんな警告を無視し、槍をしっかりと構えキングへと距離を詰める。

対するキングも「これで終わりだ」と言わんばかりの大ぶりの一撃を振り下ろす。


「――来いよ」


踏み込む。振り下ろされる大剣。攻撃が当たるその瞬間、槍を手放す。キングの視線が一瞬槍に向く。

空いた手で踏み込む先にあるのは、左目に突き刺さったままの剣。

柄を掴むみ奥へと押し込む、黒い血が溢れ咆哮が洞窟を震わせる。


「…まだだ」


だが止まらない。そのまま、更に奥へと剣を突き刺す。


手応え。


硬いものを砕く感触、巨体が止まる。


「終わりだ」


小さく呟き遅れて、力が抜ける。

剣を押し込んだまま、体を預ける。


「……は」


息が漏れる。

巨体が崩れ落ち、床が揺れた。

遅れて、ゴブリンキングの体が黒い霧へと変わり始めた。


腕から、胴へ、頭へと崩れていく。

やがて、完全に消えた。

騒がしかったボス部屋は静寂に包まれる。


握っていた剣が手から離れ、岩の床に転がる。

指が動かず、視界がまだ赤い。

呼吸すらも、うまくできない。


それでも、笑う。


「……最高だな」


視界の端に表示が浮かぶ。


ーーーーーーーーーーー

LLv:6 → Lv:10

ーーーーーーーーーーー


「……上がりすぎだろ」


ぼんやり呟く。だがそれよりも、視線を前に向ける。キングが消えた場所。そこにひとつの武器と大きな魔石が落ちていた。細長い。反りのある刃。


「……刀か」


その時、背後からかすれた声がする。


「……仮面さん……」


振り返る。彩乃が壁にもたれかかっていた。顔は青い。血も止まっていない。それでもこちらを見ている。


「……勝ちましたね……」

「まあな」


短く答える。


その瞬間、洞窟が揺れた。天井から砂が落ちる。嫌な予感しかしない。さらに揺れ岩が落ちる。


「クッソ、ボス倒したら崩れんのかよ」


彩乃に近づき、迷わず、抱き上げる。


「なんだか、お姫様みたいですね…」

「冗談言える余裕があるなら大丈夫だな」


そのまま走る。走れているのかもわからない。ただ前に進む。通路へ飛び込むと、背後で崩れる音が一気に近づいた。

前を見る。暗い通路の先。わずかに光が見えた。


「出口か」


息が荒い。視界が揺れる。それでも足は止めない。一歩。また一歩。崩れる音が近づく。

光が近づくにつれ眩しくなる


「……あと、少しだ」


足がもつれる。それでも前へ出る。

そして――光の中へ踏み込んだ。


△◇△◇


白い空間。音がない。


「――面白かったよ」


声がした。だが姿はない。


「死ぬのが怖くないようだ、なかなか見ない」


「……誰だ」


「気にしなくていい」


軽い声。


「そうかよ」


それに興味なさそうに返す。


「いいものを見せてもらった」


空間がわずかに揺れる。何かが、落ちた。小さな瓶に入った透明な液体。


「サービスだ」


「……は?」


「そっちの女、死にかけてるだろ?腕の欠損も、治る。使うといいさ」


一瞬、思考が止まる。


「……なんでだ?」


「言ったろ、面白かったから」


そして。最後に言う


「新宿ダンジョンで待ってる」


声が、遠ざかる。


△◇△◇


気が付くと、俺たちはダンジョンの外にいた。さっきまでの崩落音が嘘みたいに静かだった。

周囲がざわついている。


「助かったのか?」 「急に外に出された?」 「なんだこれ」 「おい、ダンジョン消えたぞ」


状況が理解できていない声ばかりだ。


「強制転移かよ」


小さく呟く。


腕の中を見る。

彩乃は気を失ったままだった。顔色は悪い、血も止まっていない。


「……これか」


手の中に残っていた小さな瓶を見る。

視界の端に表示が浮かぶ。


ーーーーーーーーーーー

???のエリクサー

ーーーーーーーーーーー


「……はっ」


笑う。


「……ここで死なれると面倒なんだよ」


蓋を開け、そのまま彩乃の失った腕の断面にかける

何も起きない。

が、その瞬間。


肉が蠢いた。骨が伸び、筋肉が組み上がる。

皮膚が覆って、腕が再生する。

まるで元からあったかのように。


倒れてる彩乃を見たのか、警察官の一人が近寄ってくる


「その女性どうかされましたか?」


それに「自分もよくわからない」と答え後のことを警察に任せた。


そのまま、僕は暗い帰路へと足を進めた。

それでも、頭の奥に残っている。


「新宿ダンジョンで待っている」


たった一言。

それだけで十分だった。


「……いいね」


小さく呟く。


握った拳の中にはカラの瓶、それを潰すように力を込めた。

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