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第4話 仮面の探索者

佐藤が力尽き、今度こそ洞窟には静寂が戻った。狂乱化の効果が切れたのか、さっきまで体を満たしていた高揚感は消え、代わりに鈍い疲労が残っていた。


その時、視界にウィンドウが浮かび上がる。


ーーーーーーーーーーーーーーー

【レベルが上がりました】

Lv:2→Lv:6

【スキルレベルが上がりました】

石投げLv:1→Lv:2 水魔法Lv:1→Lv:2

ーーーーーーーーーーーーーーー


「一気にレベル6にスキルも上がったか」


小さく呟く。レアモンスターの経験値はかなり多かったらしい。続けて別の表示が出る。


ーーーーーーーーーーーーーーー

【称号を獲得しました】


・レアモンスター最速討伐

レアドロップの確率+10%

SP+5


・同族殺し

対同族の場合全てのステータスが+5%

ーーーーーーーーーーーーーーー


「同族殺し、ね」


思わず笑う。足元には佐藤が倒れていた。背中を貫かれたまま、もう動かない。その体がゆっくりと黒い霧になり始めた。霧は地面に吸い込まれるように消えていく。血も体も跡形もなく消えた。


「ははっ、処理までしてくれるのか」


その時、足元で小さく光るものが目に入る。拾い上げると黒い仮面だった。


「鑑定」


ーーーーーーーーーーーーーーー

【嘆きの仮面】


効果

・名前非表示

・認識阻害

・ステータス隠匿

・隠密効果+20%

ーーーーーーーーーーーーーーー


「便利だな」


迷わず顔につけると仮面は吸い付くように固定された。視界も問題ない。


その時だった。洞窟の奥から慌ただしい声が聞こえてきた。


「ちょっと待って! 本当にダンジョンなんだけど!」


通路の奥から一人の女が飛び出してきた。手にはスマホ。肩までの黒髪に、大きな目が印象的な可愛い顔立ちの女だった。


女は僕の顔を見るなり固まった。


「え、ちょっと待ってみんな。なんか変な人いる」


『仮面!?』 『ダンジョンで仮面は怪しい』 『モンスターじゃないよな』 『逃げろ!』


スマホから声がすると同時に、女は恐る恐る声をかけてくる。


「人……ですよね?」


「そうだけど」


答えると女は少し安心したように息を吐いた。


「よかった…モンスターじゃなくて」


スマホを少し持ち上げる。


「あの私、配信してて映しても大丈夫ですか?」


『すでに映ってますよ』 『仮面の人強そう』 『コラボ始まったw』 『生存確認』


「好きにすれば、もう映ってるみたいだし」


女は、申し訳なさそうに名乗る。


早坂彩乃はやさかあやのといいます。登録者20万人くらいで――」


スマホを取り出し検索する。チャンネルはすぐ見つかった。ライブ配信中を見ると確かに僕の姿が映っていた。


【人類最速攻略目指す!埼玉ダンジョン潜る】

視聴者:213人


「確かにあるな」


「ほ、ほら!」


『ちゃんと調べてて草』 『慎重な人だ』 『怪しいからなw』


「じゃあ、僕は帰るから」

「え?は、はい。でも今入口、人多すぎて出られないですよ」

「どういうこと?」

「警察とか自衛隊とか野次馬とか…とにかくすごい人で。ダンジョンの入口の前が完全に人だかりになってて」


『ニュースでもやってた』 『ダンジョン封鎖してるらしい』 『全国のダンジョンがそうらしいぞ』 『人多すぎて逆に危ない』


「なるほど」


つまり、今戻っても外には出られない。


「だったら先に進むか」


その一言に彩乃が目を丸くする。


「え?」


「ダンジョンなんだから、奥に行けば別の出口くらいあるだろ」


彩乃は少し迷ったあと、スマホを握り直した。


「ごめんみんな、私この人についていきます。」


『死亡フラグw』 『でもこの仮面の人強そう』 『ついていけ』 『これは神回の予感』


肩をすくめながら、突き放すように言う。


「好きにすれば」


僕の言葉に彩乃は慌てて横に並び、改めてといったように自己紹介をした。


「あ、えっと……私、配信では“あやのん”って呼ばれてます。使っている武器は槍で、火の魔法とか身体強化とか使えます!」


「そうなんだ」


「一応ダンジョン配信してて……人類最速攻略とか目指してるんですけど」


『200人で最速は草』 『夢はでかいほうがいい』 『がんばれ』 『応援してる』


少し笑う。


「僕は仮面でいい」


「仮面さん?」


「名前は出さない主義なんで」


彩乃は少し驚いた顔をしたが、すぐ頷いた。


「わ、わかりました」


『本名隠すタイプか』 『かっけえな』 『絶対強いやつ』


二人で通路を進む。洞窟は思ったより広く、湿った空気が肌にまとわりつく。遠くで水滴の落ちる音が響いていた。


その時だった。

低い唸り声が洞窟に響き、暗闇の奥から緑色の影が三つ現れた。

ゴブリン。


「うわ、また出た!」


彩乃が慌てて数歩下がる。


「ちょ、ちょっと待って3体は無理無理無理!」


『逃げろw』 『配信終われ』 『距離取れ』


彩乃は一瞬スマホを見て、顔をしかめた。


「いやでも……ここで配信切るのはもったいない……!」


『配信者の鑑』 『欲が強いw』


ゴブリンが棍棒を振り上げて突っ込んでくる。


軽く息を吐いた。


「ちょうどいい」


「いや全然ちょうどよくないですよ!?」


一体目との距離を詰め、剣を振る。刃が首を切り裂き、ゴブリンの体が崩れた。そのまま体をひねると二体目の棍棒が空を切る。横に振った刃が胴を断ち、ゴブリンが崩れ落ちた。


最後の一体が慌てて後退する。

足元の石を拾い、スキルを発動する。


「石投げ」


石が一直線に飛び、ゴブリンの額に当たりそのまま倒れた。


一瞬の出来事だった。


彩乃が口を開けたまま固まる。


『強すぎ』 『今の何』 『石で倒したぞ』 『仮面の人やばい』


彩乃が慌ててスマホを構える。


「今の見ました!?三体一瞬ですよ!?」


「早すぎてカメラ追えてないんですけど!」


コメントを無視し、剣の血を払う。

そのまま何事もなかったかのように歩き出した。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


彩乃が慌てて追いかける。


「今のもう一回できません!?」


「無理だろ」


「ですよね!」

△◇△◇


1時間ほど、ダンジョンを進むと空気が変わった。

湿った空気が重くなり、通路も徐々に広くなっていく。

少し行ったところで、僕は足を止めた。


「いいね」


目の前には巨大な石の扉があった。高さは三メートルほど。表面には見たことのない紋様が刻まれている。


彩乃もその扉を見て、思わず声を漏らした。


「うわ……」


『ボス部屋じゃね?』 『完全にそれ』 『RPGすぎる』 『絶対ヤバいやつ出る』


僕は扉をじっと見つめ呟く。


「たぶんボスだな」


彩乃が一歩後ろに下がる。


「やっぱり、そう思いますよね…」


「少し準備するか」


彩乃が首を傾げる。


「準備ですか?」


そう、今までの戦闘でレベルアップした際にもらったSPが4。そしてさっきの称号ボーナスで5。合わせて9ポイントある。


一度、自分のステータスを確認する。


「ステータス」


視界の前にウィンドウが浮かび上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【STATUS】


名前:嘘月うつろぎ 空我くうが

Lv:6


【スキル】


胃袋強化 Lv:1 熱耐性 Lv:1 転倒耐性 Lv:1 雑草知識 Lv:1

発声強化 Lv:1 空腹耐性 Lv:1 石投げ Lv:2 水魔法 Lv:2

鑑定 Lv:1


【ユニークスキル】


狂乱化バーサーク

アイテムボックス


【称号】


レアモンスター最速討伐

同族殺し

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……」

ステータスを一通り確認し、視線を下へ落とす。

ボス部屋の前。ここで使わない理由はない。

少しだけ考える。火力を上げるか、防御を上げるか。それとも情報を取るか。


結局、答えはすぐに出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【スキルレベル上昇】


鑑定 Lv:1 → Lv:3

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


残りSP:4。


一瞬だけ迷う。


身体能力を上げるのが一番単純で、一番強い。


「身体強化」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

身体強化 Lv:2

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スキル振りが終わり、ボス部屋へと視線を向けると彩乃はまだコメントと話していた。


「これ攻略したら、世界最速なんじゃ!?」


『それ思った』 『絶対そうだろ』 『ボス余裕だろ!』 『さっきの戦闘見たらありえる』


何も言わず、石の扉の前に立つ。

彩乃がこちらを見ながら続ける。


「いや、でももし本当にそうだったら……今すごい配信してることになりますよね」


『歴史の瞬間』 『同接伸びそう』 『伝説の配信になる』


その会話を聞き流しながら、扉に手を置いた。

冷たい石の感触が手のひらに伝わる。


「準備はいいか」


彩乃が慌ててスマホを構える。


「え、ちょっと待ってください! 今開けるんですか!?」


『きたああ』 『ボス戦』 『配信神回』 『仮面さん頼む』


僕は小さく笑う。


「ボス前で立ち話しても意味ないだろ」


そのまま扉を押すとゴゴゴ……と重い音が洞窟に響き、巨大な石の扉がゆっくりと開いていく。


その瞬間空気が震えた。


彩乃が息を呑む。


「……うそ」


僕は笑う。


「大当たりだ」


扉が完全に開くと暗く広い部屋の奥で巨大な影がゆっくりと動き、洞窟の床が微かに震えた。

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