第1話 ランダムスキル
翌日、世界は完全に混乱していた。テレビをつけると、どのチャンネルも同じ内容だった。『世界中のスマートフォンに謎の映像が表示された問題について、各国政府は現在調査を――』画面の下には大きく速報が流れている。
【DUNGEON WARS】【3日後、世界各地にダンジョン出現】【不老不死の秘薬!?】
ニュースキャスターの声は明らかに動揺していた。『なお、現在も原因は不明であり――』
その言葉を遮るように、突然けたたましい速報音が鳴り響いた。
『た、ただいま政府から緊急発表が入りました。政府は全国民に対し、現在確認されている“チュートリアル”を速やかに完了させるよう呼びかけています』
キャスターは手元の原稿を確認しながら続ける。
『政府はこれを未知の現象ではあるものの、現時点で確認されている唯一の対処法と判断した模様です』
画面には新しいテロップが表示された。
【政府緊急発表】
全国民へチュートリアル完了を要請
「へぇ」
僕はテレビをぼんやり眺めながら呟いた。キャスターは慌てた様子で何か説明しているが、結局言いたいことは一つだけだ。
――チュートリアルを終わらせろ。
僕はスマホを取り出し、SNSを開いた。タイムラインは完全に地獄だった。
『政府の陰謀だろこれ』 『どう考えてもハッキング』 『空に穴開いてる動画あるぞ』 『チュートリアル終わらせろって何?』 『終わらないと死ぬってマジ?』
投稿は止まらない。恐怖、疑い、混乱。世界中の人間が一斉に騒いでいるみたいだった。
僕は画面をスクロールしその反応を見る。その様子は、思ったより面白かった。
スマホをポケットにしまい、僕は空を見上げる。いつもと同じ朝のはずなのに、世界はもう昨日までと同じじゃないらしい。
2日後、ダンジョンが現れる。
「さて」
僕は小さく笑った。
「何が起こるか楽しみだ」
△◇△◇
通学路はいつもと同じはずなのに、どこか落ち着かない空気が流れている。道端では何人かが空を見上げながらスマホを構えていた。
『本当に空歪んでない?』 『動画上がってるぞ』 『政府が隠してるだけだろ』 『ダンジョンとかありえないって』 『いやニュース見ろって』
騒ぎ声を横目に、僕はそのまま学校へ向かった。
校門をくぐると、今度は校内がざわついていた。廊下のあちこちで生徒がスマホを見せ合っている。
『ステータス出た?』 『スキルって何?』 『チュートリアル終わったんだけど』 『終わらせないと死ぬってマジ?』
教室に入ると、そこも例外じゃなかった。話題は昨日のダンジョンの件でもちきりだった
「おい見てくれよ!」
そこにとある男子が興奮した声を上げる。
「身体強化!」
次の瞬間、ドンッという音が響いた。押された机が勢いよく滑り、隣の机にぶつかる。教室が一瞬静まり返る。
そして。
『え、今の何?』 『机動いたぞ』 『スキル?』 『マジでゲームじゃん』 『嘘だろ』
騒ぎは一気に大きくなった。
「……まじか」
僕はその様子を眺めながら小さく呟く。どうやら、本当に使えるらしい。
僕は少しだけ考えてから、小さく呟いた。
「鑑定」
次の瞬間、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
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【STATUS】
名前:佐藤 健太
Lv:1
【スキル】
身体強化Lv1
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「すごいな」
思わず小さく声が漏れる。どうやら本当に、他人の情報が見えるらしい。
その時だった。
ガラッ、と教室の扉が勢いよく開いた。
「お前ら、ちょっと静かにしろ」
入ってきたのは担任の教師だった。普段は落ち着いている人だが、今日は明らかに余裕がない。ざわついていた教室が少しだけ静かになる。
教師は教壇に立つと、生徒たちを見回してから口を開いた。
「さっき、政府から全国の学校に通達が出た。昨日の“例の騒ぎ”が収まるまで、すべての学校は休校だそうだ」
教室が一瞬止まり、すぐにざわめきが広がる。
「え、マジで?」「休校!?」「ちょっと待って先生、スキルって――」
質問が一斉に飛ぶが、教師は首を振った。
「詳しいことはまだ分からん。とにかく今日は解散だ。全員すぐ帰宅しろ、という指示だ」
教室は再び騒ぎ始め、はその様子を眺めながら小さく息を吐く。
教師はまだ何か言っていたが、僕はそれ以上聞く気はなかった。騒ぎ始めた教室を横目に、そのまま席を立つ。興奮した声や不安そうな声が飛び交う中を抜けて、僕は教室を出た。
廊下も同じような騒ぎだった。スマホを見せ合う生徒、スキルを試そうとしている生徒、友達と大声で話している生徒。昨日までと同じ学校のはずなのに、空気だけが妙に落ち着かない。
僕はそのまま校門を抜け、帰路に就いた。
そして学校から少し歩いた、その時だった。
ピコン。
小さな電子音が、頭の中で鳴った。
視界の端に、見慣れないウィンドウが浮かび上がる。
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【MISSION】
制限時間:1日
残り時間:23:59:42
チュートリアルダンジョンをクリアせよ
報酬:ランダム
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僕は思わず足を止めた。突然現れた半透明のウィンドウをしばらく黙って眺める。どうやらただの表示ではないらしい。光っているところを押してみると
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【チュートリアルダンジョンに入場】
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という表示とともに黒くゆがんだ穴が現れる。
どうやらこれが入口らしい。
「……まあ、チュートリアルだしな」
小さく呟き、僕はその文字に触れた。次の瞬間、視界が白く弾ける。足元の感覚が一瞬だけ消え、体がふっと浮いたような錯覚に襲われた。
気づいた時には、僕はまったく別の場所に立っていた。薄暗い洞窟。湿った空気。岩肌の壁。遠くから水滴の落ちる音が聞こえる。現実とは思えない光景だった。
その時だった。目の前の空間がゆらりと揺れる。黒い影のようなものがゆっくりと形を作り、やがて人の形になった。
『ようこそ、チュートリアルダンジョンへ』
聞き覚えのある声だった。スマホ越しに聞いた、あの声だ。
『お久しぶりです。ここでは基本的なルールを学んでもらいます』
影は楽しそうに続ける。
『まずはスキルを取得してください。まだ取得していない方もいるでしょうからね』
その瞬間、視界にウィンドウが浮かび上がる。
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【SKILL】
保有SP:9
【おすすめ】
【戦闘系】
【サポート系】
【便利系】
【ランダム】
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いくつかのカテゴリを軽く確認したあと、僕は一番下の項目に目を向けた。
【ランダム】
触れると説明ウィンドウが表示される。
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【ランダム】
取得するスキルは完全にランダムです
※低確率でレアスキルを取得する可能性があります
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どうやら、ただの運試しというわけでもないらしい。
僕はしばらく説明文を眺めたあと、ウィンドウの下にあるボタンに目を向けた。
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【ランダム取得】
消費スキルポイント:1
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おすすめや戦闘系を選べば、無難な能力が手に入るのだろう。だが、僕は少し考えたあと小さく息を吐いた。
「……全部これでいいか」
保有スキルポイントは9。僕は【ランダム】を選択し、そのままポイントをすべて投入した。
次の瞬間、ウィンドウが光る。
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【SKILL取得】
胃袋強化
熱耐性
転倒耐性
雑草知識
発声強化
空腹耐性
石投げ
水魔法
狂乱化
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表示されたスキルを、僕は静かに眺めた。どう見ても微妙な能力ばかりだ。その中で、一つだけ表示の色が違うスキルがあった。
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《狂乱化》
発動中、すべてのステータスが+30%になる。
さらにHPの残量に応じて能力が上昇する。
HP50%以下 能力 +50%
HP25%以下 能力+100%
HP10%以下 能力+200%
【副作用】
・痛覚鈍化
・使用中、1秒ごとにHP減少
【持続時間】30秒
【クールタイム】3時間
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どうやら、当たりも混ざっていたらしい。
僕は表示されたスキル一覧をもう一度眺めた。胃袋強化、雑草知識、石投げ、発声強化。正直、何に使うのかよく分からないものばかりだ。ランダムというだけあって、結果はかなり偏っている。
その時、新しいウィンドウが表示された。
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【チュートリアル装備】
武器を選択してください
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次の瞬間、目の前の地面にいくつかの武器が現れる。短剣。片手剣。槍。弓。それぞれ簡素な作りだが、どうやら初心者用の装備らしい。
僕は少し考えたあと、その中から一本の剣を手に取った。重さはそれほどでもない。振ってみると、空気を切る音が小さく響いた。どうやら、これで戦えということらしい。
そして洞窟の奥から、低い唸り声が聞こえてきた。
暗闇の向こうで、何かが動く。小さな影がゆっくりとこちらへ近づいてくる。やがてそれは洞窟の薄明かりの中に姿を現した。
背は低い。緑色の皮膚。手には粗末な棍棒。
僕は剣を構えながら、静かに言葉を口にした。
「鑑定」
次の瞬間、視界にウィンドウが浮かび上がる。
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【ゴブリン】
Lv:1
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ゴブリンは低く唸りながら、棍棒を振り上げた。どうやら向こうも、もう始めるつもりらしい。
僕は軽く息を吐き、剣を握り直した。
次の瞬間、ゴブリンが地面を蹴った。思ったより速い。棍棒が横から振り抜かれる。
空気を切る音が耳元をかすめた。
「危ないな!」
単純な攻撃だった。ゴブリンはもう一度棍棒を振り上げ、まっすぐ突っ込んでくる。振りかぶりは大きい。僕は横に体をずらし、そのまま足元の石を拾いゴブリンに投げつける
「石投げ」
小石が一直線に飛ぶ。鈍い音がして石がゴブリンの顔に当たった。
「ギャッ!?」
ゴブリンがひるむ。
その瞬間、距離を詰める。振り下ろされる棍棒を横に避け体勢が崩れた、それでも剣を振った。
浅いが、確かに手ごたえはあった。緑色の血が飛び散り、ゴブリンは怒ったように叫び、棍棒を振り回した。荒い攻撃が立て続けに迫る。
だが、動きは単純だ。
僕は一歩ずつ避けながら距離を詰める。そしてゴブリンの大ぶりの一撃、それを交わした瞬間隙が生まれた。
一歩踏み込み、剣を突き込む。
刃が首元に深く入り込みゴブリンの体がぐらりと揺れ、そのまま地面に崩れ落ちる。
そして視界にウィンドウが浮かび上がる。
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【TUTORIAL CLEAR】
チュートリアルダンジョンを攻略しました
ランダム報酬を獲得しました
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「これで終わりか。」
一瞬だけ光が強くなり、すぐに表示が消えた。洞窟の空気が揺れ次の瞬間、視界が白く弾けた。
気がつくと、僕はさっきまでいた道の上に立っていた。周囲には誰もいない。空はいつもと同じ青色だった。
「……戻されたのか」
スマホが震える。SNSを開くと、タイムラインはさっきよりさらに騒がしくなっていた。
『チュートリアル入れたんだけど!?』 『ゴブリン出た!!』 『無理無理無理死ぬ』 『倒したらレベル上がったんだけど』 『これマジでゲームだろ』 『ダンジョン戻された!』
投稿は秒単位で増えていく。どうやら、僕だけじゃないらしい。
ピコン。
そして、視界の端に新しいウィンドウが浮かび上がった。
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【SYSTEM】
ダンジョンの出現まで
残り時間:1日20時
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どうやら、本番はまだ先らしい。
僕は少しだけ考え、ポケットにスマホをしまった。
「まあいいか」
チュートリアルは終わった。
なら、あとは本番を待つだけだ。
「準備だけはしておかないとな」
そう呟いた空我の顔はとてつもなく笑顔で満ち溢れていた




