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ストーリーエンダー  作者: Manpuku


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第2話 ストリーエンダーの使命!

スペルトンが手首に巻かれた大ぶりの金属製の何かをゆっくりと,ちらりと見て静かに口を開いた。


「まだ地球では午前の“始業時間”内だな。少し続けても構わないだろうか?」


……腕時計?一条が視線を向ける。

その先で、スペルトンはは得意げに微笑んだ。


「腕時計を見るという行為が”次のアクションへと移行する”という意思表示になるのだろう?」


「……いや、まあ、たぶん間違ってはないんだけど……」一条が頬を搔いた。


「さて、本題に入ろう。ストーリーエンダーの現在のターゲットは、これだ!」


彼が指を鳴らすと、空中のスペースに精巧なホログラムが浮かび上がった。


『転生したら俺は最強勇者だった。無敵の俺は魔王も神もやっつける。天上天下唯我独尊!!!』


「……あっ」三人が、思わず同時に声をもらした。

反応を見るなり、スペルトンは満足げに頷いた。


「ふむ。やはり知っていたか。未完の物語は数が多すぎてな。正直、今回は“悪影響が出そうなもの”から当たっている」


「……まだ終わってなかったんですか? たしか、五千話くらいまで行ってましたよね?」愛住が眉をひそめる。


「俺が高校生のころからすでに連載中だったな」田中が苦笑した。


「諸君、私は別の準備がある。ここからは別行動だ」腕時計をちらりと見てスペルトンは背を向けた。「私は準備に赴く。地球時間の”休憩時間”には帰還しよう」


田中はホログラムを見つめていた。


この作品より、作者のほうが社内では知られていた。自分の作品のパクリだとやたらと騒ぎ、サポートに長文でクレームを送る。SNSや掲示板、動画サイトを使って「ダメ運営」と名指しで叩く。


やり方が多彩で、慣れていないスタッフはまず対応を誤る。皮肉な話だが、この作者が騒ぐと、そのターゲットの作品は話題になりやすい。“新人発掘家”とも呼ばれている。


「うーん……」愛住が眉をひそめながら画面をスクロールする。


「ここが会社だったら言えませんが、私個人として読む気は全く起きません。悪役が次々出てくる。倒したと思ったら復活。新キャラもぞくぞく登場」


「延命治療中だな」田中がぼそりと言う。「人気作ならまあ、定番っちゃ定番なんですけど……」愛住がため息を吐いた。「でもこれ、言い切っていいと思います。この作者、パクってますよ」「そうなのか?」田中の視線が愛住に向いた。


「流行りの『通販』に手を出したかと思えば、次は『ざまぁ』。 かと思えば、今度は唐突に『悪役令嬢』の転生。 節操のないジャンル変更に、不自然な更新履歴……」愛住は無慈悲に画面をスクロールし、冷淡に切り捨てた。「典型的な、迷走パッチワーク作品ですね」


田中はしばらくデータベースの更新履歴を見つめたままぼそりとつぶやく。「高校の頃は読んでいた。序盤は面白かったんだ。必死に戦う主人公に、自分を重ねていたのかもしれない。でも今は、ずっと同じこと繰り返してるのが正直気持ち悪い」


「作者もたぶん最初に人気出ちゃって、引き返せなくなってるんでしょうね。商業化の夢って、捨てきれないものですし。社内でもめるのもいつもそこですし」愛住は空々しい笑みを浮かべた。「……物語の本来の寿命を無視してるか…」田中は短くそう言うと目を伏せた。


「……ごめん」 一条が、ぽつりと呟いた。


「ど、どうしたんですか、一条さん?」 田中が心配そうに身を乗り出す。


「もしかして……ストーリーエンダー、辞めるんですか?」 愛住も軽い調子で続けたが、その声は微かに震えていた。


「うああああああああああああああああああああ!!!」 突然、爆発するような絶叫が響き渡った。一条は机に激しく突っ伏すと、そのまま親の仇でも打つかのように、何度も、何度も頭を打ち付けた。


愛住があたふたと背中をさすり、田中は慌てて水を差し出す。


「ちがう……ちがうんだ……」 一条は顔を上げた。その表情は、まるで世界の終わりを目の当たりにした預言者のように、深い絶望に塗りつぶされている。


「……あれを書いたの、俺なんだよぉ……っ!」


世界が、止まったようだった。


「就職前にちょっと投稿して……少しだけ人気出て……そのまま、止めどきを見失って……」


愛住はハッと何かに気づいた。「……まさか自分でシステムの履歴を書き換えたんですか?パクリ疑惑を消すために!?」田中は瞳が細くなる。長年の謎が、パズルのように繋がる音がした。「傑作だな。サポートを苦しめていたモンスターの正体が、隣のデスクの先輩だったとは。物語の外側から自爆特攻を仕掛ける作者……笑えない冗談だぜ」


「……プロの編集者なのに、作者の目の前で好き勝手言いやがって!」一条は荒々しく髪をかきむしった。「でも……その……物語、ちょっと構造がほとんど崩れてて……」愛住が申し訳なさそうに言葉を選ぶと、一条が顔を上げた。


「く、崩れるって言うな……!もう、必死だったんだよ!俺は……読んでほしかっただけなんだ……」その言葉とともに、一条は力なく机に突っ伏した。


「テンプレの地味な物語だった。書くのは楽しかった。ちょっとだけバズったことがあって……プロの編集部から声がかかって……それが、人生で初めて誰かに認められたって思えた瞬間だったんだ」愛住が少しだけ目を伏せる。「でも、……言われたとおりに直したら。個性がないって言われて…あいつらが俺を潰したって思って」


「それでも、終わらせないことで、自分のプライドを保ってた……ってことですか」愛住の声は冷静だ。「終わらせたら、だって失敗作じゃないか!あんなに時間をかけて書いた作品なのに……」


「皮肉なもんですね。延命の果てに、誰にも読まれないゴーストデータですか」 田中は一条から視線を外し、吐き捨てるように言った。


「『未完の物語は、ただのバグだ』……。これ、新人の頃に俺が一条さんから教わった言葉ですよ。あの時は痺れたんだけどなぁ」一条の拳が、小刻みに震える。 愛住は深く息を吐き、静かに、けれど逃げ場を塞ぐように告げた。


「一条さん。流行にすがって数字に怯えて、本当に描きたかったものはどこへ行ったんですか? その物語はもう、一条さんを食い潰している」


一条は、何も答えられない。


「仕事では、一条さんに何度も助けられました」 愛住は一歩踏み込み、今度は柔らかく微笑んだ。 「だから、今度は私が助けます。そのゾンビみたいに生き延びた作品、ちゃんと弔ってあげましょう。一条さんの、最高の『最終回』として」


「一条さん、バグなら修正できますよ。俺たちの、いつもの仕事だ」 田中はゆっくりと立ち上がり、ホログラムの光を真っ向から見据えた。 「終わらせてやりましょう。俺たちは、ストーリーエンダーなんだから」


その声にはわずかでも前を向こうとする意志と、物語を終わらせる者、ストーリーエンダーとしての確かな熱がこめられていた。

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