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今度はホラー!?ホローズとゴーストー 悲しみを奪う細菌と禁断のリンク  作者: あみれん


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13/21

第13話「拘束」

セレスティア海底トンネルターミナル駅。

早朝の駅舎は、冷たい鉄と硝子の匂いに満ちていた。

無機質なアナウンスが響く。


> 「ヴァルガード行きエアーライナー、発車いたします――」


ノナカ・ノブオは肩に記者バッグを提げ、胸ポケットから古びた者証を取り出した。

フリーになってからは何の権威もない紙切れにすぎない。

だが、これだけが彼の存在を証明する唯一のものだった。


「……久しぶりの国外取材だな」


エアーライナーが音もなく加速し、海底トンネルへと吸い込まれていく。

窓外に青白い光が流れる。岩盤に設置された照明が、無数の流星のように逆流していた。

最高時速600キロ。

深海の圧力を思わせる暗闇の中で、ノナカは心の奥で呟いた。


――ホローズ現象の震源を突き止める。

それが、自分に残された最後のチャンスだ。


ヴァルガード。

到着した港町は、濃い霧に包まれていた。

視界の先に突如現れる巨大な広告塔。その上には鮮烈な青いロゴが踊っていた。


《SPARKLE》


まるでこの国の空を支配しているかのようだった。

だが街の通行人は誰一人笑っていない。監視カメラが等間隔に並び、沈黙だけが支配している。


ノナカはタクシーに揺られ、スパークル社の本社ビルへと向かった。

正規のアポは取ってある。名目は「ヴァルガードの世界的輸出飲料産業の特集記事」。

霧の中に姿を現した本社ビルは、硝子と鉄でできた要塞のように冷たくそびえていた。


ゲートで記者証を提示し、会議室へ通される。


会議室に現れたのは、笑顔を張り付けた広報担当の中年男だった。

彼は用意された資料を手際よく並べ、誇らしげに語る。


「スパークル社は、国内外で愛される飲料ブランドです。輸出量は年々増加し、セレスティア向けの出荷は昨年度比で三割増。ブランド戦略としては――」


マーケティング戦略、売上、輸出比率。

淀みなく読み上げられる数字とグラフ。すべて“安全な質問”への答えだけだった。


ノナカは相槌を打ちながら、タブレットに数字を打ちつける。

だが、その目は鋭く光っていた。


「なるほど……。では次に、品質管理についてお伺いしたい。特に水源と検査体制について」

ノナカは流暢なヴァルガード語で尋ねる。


広報の笑顔が一瞬で固まった。

室内の温度が数度下がったような沈黙。


「……品質管理部門については、企業秘密です。製造工程の安全性は政府認可で保証されています」


「企業秘密?」

ノナカは身を乗り出した。

「輸出食品ですよ。品質こそ一番重要で、消費者が一番知りたがっている部分だ。答えられない理由は何です?」


広報は視線を逸らした。

「……繰り返します。企業秘密です」


「では聞き方を変えます。スパークルはセレスティアでも人気の飲料です。輸入国の市民が“何を飲んでいるのか”知りたがるのは当然だと思いますが、それを閉ざすのは逆に疑惑を招くのでは?」


広報の顔に、怒りと恐怖が入り混じった影が差す。

「……これ以上お話しする事はございません」


その瞬間、会議室のドアが開いた。

無骨な警備員が二人、無言で入ってきた。


「ちょっと待て! 俺は正規に取材を――」


ノナカの抗議は途中で遮られた。

両腕を掴まれ、廊下へと強引に引きずり出される。

抵抗も虚しく、彼は黒塗りの車へ押し込まれた。


「……どういう事だ、これは! 取材アポも取ってあるんだぞ!」


隣に座った制服姿の男が、サングラスを外して睨みつけた。


「産業スパイの疑いで連行する」


車内に重苦しい沈黙が落ちた。


狭い房に押し込まれたノナカは、鉄格子越しに隣を覗いた。

そこに、若い女が座り込んでいた。

痩せた肩、鋭い瞳。

彼女は低い声で呟いた。


「……あんたも捕まったの?」

たどたどしいヴァルガード語だ。


ノナカは苦笑を返す。

「どうやらな。理由は?」


「スパークル社を取材した。安全性について聞いただけよ」

「はは……俺もだ。品質管理を聞いたら、このザマだ」

「ひょっとして...ホローズの件ね?」

「ああ、じゃ、君も...」


鉄格子越しに二人の視線が交わる。

女は短く名を告げた。


「カリーナ。セバウチのフリージャーナリスト」


「俺はノナカ・ノブオ。落ちぶれたセレスティアの元新聞記者だ」

ノナカはセバウチ語で答える。


「あら、セバウチ語、上手ね。ねぇ、セバウチ語で話さない?」


ノナカは小さく笑い頷いた。

「……同じ理由で捕まるなんてね」

「そりゃあ、取材目的が同じだからな」

「でも、はっきりしたわ。スパークルは絶対に何か隠している」

「ああ、そのようだな」

「あなたは何故スパークルが怪しいと思ったの?」

「元スパークルの従業員の情報だ。君は?」

「ある筋から、ヴァルガードのモラウルイ製薬がスパークルからある細菌を検出した、という情報を入手したの」

「モラウルイ製薬が何故スパークルを?」

「モラウルイ製薬がある薬品の開発に使用していた細菌が誤って外部に流出した。モラウルイ製薬は極秘で影響調査を始めた。そしてある地域の水道水とスパークルから菌を検出したらしいわ」

「スパークルはその汚染された水を使って生産していたわけだ」

「ええ、モラウルイ製薬はスパークル社に出荷を止めるように要請したけど...」

「無視して、世界に汚染されたスパークルをばら撒いた、という事か」

「ええ、さすがに問題の水道水を使用するのは止めたようだけど、既に出荷済みの汚染さえたスパークルはリコールしなかった」

「つまり、ある期間に出荷されたスパークルがヤバいって事か。官民結託して国ぐるみでそれを隠してきたわけだ」

「でもね、まだその先がありそうなのよ」

「先って?モラウルイ製薬が震源地じゃ...」

「モラウルイ製薬は薬品製造に特化した会社で、自分では販売は行っていない。つまり、OEMなの」

「と言うことは、モラウルイ製薬にその薬品製造を委託した何かが存在するってわけだ」

「そういう事になるわね、その『何か』が全然見えていない」


看守の足音が近付く。

二人は会話を止める。

だが、奇妙な同盟の芽が、格子越しに芽吹いた。


翌朝。

尋問は形式的だった。

「背後に誰がいる?」「何を狙っている?」

答えても無意味。記録用のやり取りにすぎなかった。


最後に通告されたのは、ただ一つ。


――国外退去。


再び房に戻された二人は、短い沈黙の後で目を合わせた。


「……ここから出たらどうする?」

「帰国して、必ず調べる。あんたは?」

「俺もだ」


カリーナは囁いた。

「ねぇ、ネットアドレスを交換しない?」


ブーツの底から紙切れとペンを取り出し、格子の隙間を通す。

ノナカは笑って受け取り、震える手で自分のアドレスを書きつけて返した。


その日の午後。

ノナカは海底トンネル駅へ。

カリーナは空港へ。

二人は別々の車で連行された。


離れ際、視線が交わる。

言葉はなかった。だが確かに「約束」がそこにあった。


エアー・ライナー。

暗い海底を走り抜ける窓に額を押し付け、ノナカは呟いた。


「ヴァルガード、スパークルにモラウルイ製薬と...…その先の『何か』か...」


唇の端に苦い笑みが浮かぶ。


「面白くなってきた」

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