第五章: 火の試練
王子は剣を抜き、鋭い眼光でレンを見据えた。
「力なき者に助けを求められても困る。我が火の国の力を借りたくば、まずはお前の覚悟を見せてもらおう。」
レンは唇を引き結び、前へ一歩踏み出す。
「覚悟なら、とっくにできてる!」
次の瞬間、レンの片腕が鷹の爪へと変化し、風をまとった。
カナは後方へ下がり、援護の準備を整える。
王子は一瞬、興味深げに笑みを浮かべると、手にした剣を振り上げた。
その刃先から炎が噴き出し、レンの前に巨大な火柱が立ち上る。
「これが火の国の力だ!」
轟々と燃え上がる炎の壁。
しかし、レンは怯まない。
風の力を駆使し、火柱の隙間を縫うように王子の懐へと飛び込んだ。
だが――
王子の動きは素早く、レンの攻撃を難なく避ける。
「レン、右後ろ!」
カナの声と同時に、レンは風を蹴り、体を半回転させながら王子の剣の軌道を見極めた。
次の瞬間、王子の剣が地面に突き刺さり、そこから炎の波が奔流のように広がる。
「くっ…! やっぱり真正面からじゃ分が悪いか…」
「どうした? それでも風の戦士か?」
王子の挑発に、レンは息を整えると両足を踏みしめた。
次の瞬間、彼の背中から大きな鷹の翼が生え、空へと舞い上がる。
「ほう、飛ぶか。」
「風の力は、地を這うものだけのものじゃない!」
レンは急降下しながら、鷹の爪の形をした右腕で王子を狙う。
しかし、王子はそれを見越していたかのように、剣を横に振り払った。
「レン、旋回して!」
カナの風がレンの軌道を変え、王子の剣を寸前で回避する。
レンはそのまま王子の背後を取るが、王子はすぐに後ろ蹴りを放ち、レンを吹き飛ばした。
「ぐっ…!」
「いい動きだ。しかし、まだ甘い!」
王子は剣を掲げ、さらに炎を纏わせる。
立ち上がったレンは肩で息をしながらも、挑戦的な笑みを浮かべた。
「確かに、お前は強い。けど、俺は風の力を持つ者。捕まえられると思うな!」
レンは両腕を鷹の爪へと変え、風と共に加速する。
彼の動きは疾風のように速く、王子の目にも捉えにくくなっていた。
「ほう…速いな。」
レンは一気に王子の懐へ入り込み、爪で剣を払いのける。
そのまま鋭い一撃を王子の胸元に向けて繰り出した。
王子は剣を持つ手を翻し、炎のバリアを展開する。
しかし、その瞬間——
「今よ!」
カナの風が王子の炎を一瞬だけかき消した。
「終わりだ!」
レンの爪が王子の肩に触れた、その刹那。
王子は一歩後退し、剣を下げた。
「…見事だ。」
「え?」
「これ以上戦えば、我が軍を指揮する身としての威厳が失われる。お前の力は認めよう。」
「やった…!」
カナが小さく呟く。
王子は剣を納め、レンをまっすぐ見据える。
「風の力、しかと見せてもらった。火の国はお前たちに協力しよう。」
レンは深く息をつき、王子と向かい合う。
「ありがとう。これで、次の国へ向かえる。」
しかし、王子は鋭い視線を向けたまま言葉を続けた。
「だが、気をつけろ。魔法の国はお前たちの動きを察知しているかもしれない。次の国でも、そう簡単にはいかんぞ。」
レンとカナは互いに頷き合い、新たな旅立ちの準備を始めた。