販売魔法
目標金額の三千円まで貯める事が出来た天津小夢は、夢にまで見た『愛魔法』を買いにマホウ館へと向かっていた。
漫画やお菓子を我慢して、必死で貯めたお小遣いを巾着袋に詰めて出掛ける足取りは頗る軽い。
マホウ館で売られている『愛魔法』には種類が沢山あり、変身できる魔法や生物の言葉が分かる魔法もあれば、永遠に年をとらない魔法なんていうのもある。
『愛魔法』を購入する価格も様々なもので、百円から五百円で購入出来るのは小さな幸せを呼び寄せるモノで、六百円から千円のモノだと成績や運動能力を上げるモノ、それより価格が高いモノでは、相手の心を動かす事や記憶を盗むモノ等、法に触れない程度で後に皺寄せがくるモノがある。
小夢が購入を決めている『愛魔法』だが、それは彼女がこの先生きるのに必要なモノだ。
マホウ館に到着した小夢は歩みを弾ませ店内へと入っていく。
「夢魔女さ~ん!
『愛魔法』三千円分を買いに来ました!」
元気な声が店内の奥まで届き、部屋からマホウ館の店主である夢魔女のパラオルが出てきた。
「夢魔女さん、今日ついに三千円貯まりました!」
「まあまあ、小夢ちゃん、よく頑張ったね。
これで小夢ちゃんの夢が叶うわねえ」
幸せな気持ちを分かち合い、二人は顔を見合わせる。
「長かったです。
これで今日、人生を変えられます」
「おめでとう……それじゃあ、小夢ちゃんが望んでいる『愛魔法』を持ってくるわね」
小夢が購入する『愛魔法』は貴重なモノの為、奥の部屋に保管してある。
パラオルが持ってきた『愛魔法』は小さな木の実。
「ありがとうございます」
「はい」
木の実を受けとる小夢は、もう片方の手で三千円をパラオルに渡した。
小夢の記憶に当時の映像がフラッシュバックし、長かった人生の重さが心にのし掛かる。
遠いあの日小夢の人生は、ある出来事により一転してしまったのだ。
幼い日、小夢は遊んでいる最中うっかりソレを落としてしまった。
何処を探してもソレは見付からず、なくしたままで何年も時を過ごしていた。
(一年間苦しかった……アレがないせいで、人生に大きな影響が出てしまっていた)
購入した木の実を噛る小夢の胸が熱くなりつつある。
その木の実は、無くした物が戻ってくる『愛魔法』。
「……!」
木の実を噛った小夢の体に強い力がみなぎり、感覚が鋭くなり始めた。
「もとに……戻っていく……!」
「ずっと耐えてきたねえ」
あの日落とした物が小夢のもとへと戻った。
「やったあっ……夢魔女さん、私ついに落とし物を取り戻しました!」
大喜びする小夢の服は、キラキラした青いマント姿に変わっていた。
あの日小夢が落とした物は、彼女の魔法だった。
「良かったわねえ、これで以前のようにまた魔法が使えるわねえ」
「はい!
今度は私が夢魔女さんを幸せにする魔法をかけますね」
魔法を取り戻した魔法使いの小夢の笑顔を見て、パラオルは既に魔法にかかった気持ちになっていた。