プロローグ
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目の前には真っ暗な闇が広がっていた。浮遊しているような感覚の中、重力の影響もなく、ただひたすらに意識だけが宙を漂っている。身体を動かそうと試みても、指先ひとつすらも感覚がない。
「あれ…俺、死んだのか?」
ぼんやりとした思考の中、浮かび上がったのは最期の記憶だった。仕事もせず、夢も見失い、ただ怠惰に過ごしていた。生きる意味を見出せないまま、ふと気がつけば交通事故に遭い、すべてが終わりを告げた。
「…やり直せるなら、もう一度だけ、ちゃんと生きてみたい」
虚空に向かって呟くその言葉が、どこかへ吸い込まれるように消えていく。目を閉じ、意識を手放しかけたその時、不意に柔らかい光が差し込んだ。
「――おめでとうございます。ここは…異世界『エルテラ』の地です」
温かくも力強い声が、耳元で囁いた。意識が覚醒すると共に、ふいに重力が戻り、彼は大地に降り立っていた。見上げると、澄み渡る青空。耳に届くのは鳥のさえずりと風の音。すべてが生まれ変わったように鮮やかな光景が広がっていた。
そして気が付いた時、自分の中には不思議な力が宿っていた。手をかざせば、青白い光が集まり、指先に力が満ちる。自分のものとは思えない力に、彼は初めて感じた。「この世界でなら…本当に何かを成せるのかもしれない」と。
「異世界『エルテラ』、か…」
自身の手のひらを見つめ、彼は静かに決意した。この新たな世界で、今度こそ、真の意味での人生を歩むと。失った時間の埋め合わせをするために。