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夕焼けの屋上、三永斗亜は想い人と相対していた。
高校に入って好きになった人と。
斗亜が勇気を出したのか?この機会は斗亜が作ったのか?というと、そうではない。
斗亜は彼女に手紙で呼び出されたのだ。
夕焼けに照らされ、影ができてるせいか、彼女の表情を覗うことはできない。
しかし、彼女の口元が動き出すのは見えて、いよいよかと思ったところ…。
「…良い夢だった。」
斗亜は学園に来るなり、カバンの中のものを机に入れるなどし終えると、ぽ〜っと窓の外を眺めながら、その今朝見た夢のことを思い出し、どこか艶っぽいため息を漏らしていた。
それは斗亜にとっての理想のシチュエーション。
こんなことがもし起ころうものならば…と夢想するのはなんとも情けないことなのだが、欲してやまない理想。
それをいつか実現してみせると、ぽ〜っとした頭で思っていた。
すると、斗亜の前に現れるなり、その独り言に求めてもいないような返答を付け加えるような野暮を働く者がいた。
「えっ、斗亜…そんなにエロい夢を見たのか?」
…一言で言って、台無しである。
その言葉で、斗亜は一瞬でこの現実へと戻って来させられた。
もちろん斗亜も男子高校生という、お年頃なのでそんな夢を見ないと言えば嘘になるが、何事にも節度というものがある。
少なくとも、朝っぱらから教室でそんなことを考えるほど倫理観がぶっ壊れてはいない。
朝の開口一番、こんな最低なことを言ってきたのは、(今は百歩譲って)友人の弘道勇。
倫理観の破壊者である。
彼は学園にも平気でエロ本を持ってくるような生徒であり、授業中でもそれを読んで、興奮しているようなド変態だ。噂では風紀委員室に、在学中、彼から押収したエロ本が数百冊もあって、エロ本専用の本棚を作ることになり、ある意味最も校内で神聖であるはずが、風紀が乱れた場所になってしまったというものすらある。
そんなある種の伝導師、または怪異である彼は顔を赤くして、大変興味深そうな顔で斗亜を見ながら、身体をもじもじとさせていた。
ウザいし、正直、純粋にキモかったので…。
「おはよう、イサム。そして、さよなら。」
とりあえず帰宅を促すことにした。
「ちょっ!?ちょっと待ってくれ!用があってきたんだ!!この話を聞いてくれたら、そうしてやるのもやぶさかではない。」
「…なんだ?」
「……で…どんなエロい夢を見たんだって、やめろやめろ!!冗談!冗談だって、本当は…っ!?」
ギーッ!パタン。ガタガタガタ(出ようと暴れる音)。ドンッ!!(蹴り)………ピ〜ッ、ペタ。ピ〜ッ、ペタ。ピ〜ッ、ペタ。
妙な声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
エロイッサームを掃除ロッカーという名の禁断の箱にガムテープで封印を施すと、斗亜は席に戻る。
すると、大勢の女子生徒たちが掃除ロッカーを囲みだしたが、斗亜は見て見ぬふりをすることにし、バンバンという金属の箱を叩く音に、絶叫という名のBGMを聞き流しながら、窓の外の桜に心を癒してもらっていた。
すると、程なくしてBGMが止み、ふとこんな声が聞こえてきた。
「あっ…。」