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10. 再会6


***



ライブが終わると、三人は温かな拍手に胸を熱くしたまま、感謝の思いを込めて頭を下げた。

アパート内に戻り、人が入らない二階に向かうと、三人は顔を見合わせ、それから泣きながら互いに抱きしめあった。


「なず、明里(あかり)…!」

「泣かないでよ、瑠衣(るい)、ありがとう」

「こっちこそありがとう!」

「最後に、瑠衣の歌が聞けて良かった」

「…私だって、なずの曲、三人で出来て良かった」


泣きながら抱き合えば、「お前ら!」と怒声が聞こえてきた。驚いて顔を上げると、そこにはフウカと、人の姿に戻ったナツメの姿があった。怒っているのは、ナツメだ。


「フウカさん!…ナ、ナツメ君」

「おい、なずな!俺の事すっかり無視しやがって!」

「だ、だってあの状況じゃどうしようもなかったし…!」

「え、もしかして、一緒にやる人って、アイドルのナツメ君だったの…?」


呆然としている瑠衣と明里に、なずなは苦笑った。


「…ちょっとした縁で」

「クッソー!せっかくやる気でいたのに。……でもまぁ、確かにあれはお前らの歌だったよ」

「え、」


ふん、とそっぽを向くナツメに、フウカが「まぁまぁ」と宥める。テレビで見せるナツメとはあまりに違うだろう姿に、なずなは瑠依と明里がショックを受けたり、呆気に取られているのではと、内心ハラハラしていた。

だが、そんななずなの思いに反し、瑠依は少し考えてから、ぽつりと呟いた。


「…やっぱり、なずの曲、好きだな」

「え?」

「ごめん、なずな、明里。勝手にバンドを辞めて。皆でデビューしようって言ってたのに、二人が居たから、私は歌ってこれたのに」


俯く瑠依に、なずなと明里は顔を見合せ、二人して笑って瑠依を抱きしめた。


「もう、そんなの良いんだってば!」

「それに、大変なのはこれからでしょ?こんな事で泣いてたら、やっていけないよ?」


わざと茶化して笑って、「瑠依の一番のファンは私達なんだから」と、瑠依の背中を二人で押した。バンドは終わってしまったけど、三人の仲が途切れる事はない。

これからもずっと、きっと、どこにいたって。






それから少しして、瑠依と明里が再び賑やかな一階へと戻っていくと、ナツメはすぐに猫へと姿を変えた。これからまた、お客さん達の接待へ戻るのだろう。さすがアイドル、嫌がっていても仕事に抜かりはないようだ。


「ナツメ君、ありがとう」


去ろうとするナツメに、なずなは咄嗟に声を掛ける。ナツメがやろうと言ってくれなければ、また三人が集まる事もなかった。

ナツメは立ち止まり振り返ると、ふふん、と胸を張った。


「どうても俺に曲を提供したいって言うなら、カバーしてやるよ!そしたら俺が、この曲を頂点に持っていってやる!」


それから、「最高だったぜ!ライブ!」と言い残し、ナツメは去っていった。


「素直じゃないね、ナツメ君は」


困ったように笑って言うフウカに、なずなも笑った。そして、ナツメなりの優しさに、心の中でもう一度感謝した。

それから、チラッとフウカを見上げる。フウカが帰って来てくれた事にほっとしながら、テラとはどんな話をしてきたのだろうと、なずなは落ち着かない気持ちだった。


「…とても良い曲で、皆さん素敵でした」

「あ、ありがとうございます。まさかの展開ですが、皆で歌えて本当に良かったです。これも、フウカさんのお陰です」

「何を言うんですか、僕は何も。なずなさんが頑張ったからですよ」


優しく微笑まれれば、何だか照れてしまう。なずなはそんな気持ちを誤魔化すように、慌てて話題を探したが、どうしてもテラとの事が頭に浮かんでしまう。昨日からフウカはあやかしの世に戻り、以前の恋人、テラに会いに行っていた。

聞いて良いのか迷いながら、でも聞かずにはいられず、なずなは思いきって口を開いた。


「あ…あの、テラさんは、どう…でした?その、体調とか、」


目を合わせられず、しどろもどろになってしまった。俯くなずなだが、なかなか返ってこない返答を不思議に思い、不安になって顔を上げれば、なずなの思いに反し、柔らかに微笑んでいるフウカがいて、思わず胸がどきりと跳ねた。



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