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2. 一週間前のこと5


「な、なんだったの…」


なずなは、困惑のままに呟いた。得体の知れない火の玉が、確かに自分目掛けて飛んできた。しかし、それはあまりにも現実離れしていて、なずなはただ呆然とするばかりだ。


「大丈夫ですか?」


まるで、夢でも見ていた気分だと、呆けているなずなに対し、目の前の彼はとても冷静だった。背中を向けていた筈の彼はいつの間にかこちらを振り返り、心配そうな声と共に手を差しのべてくれている。優しそうで爽やかなその容姿に、なずなは困惑を放り出して、思わずどきりと胸を跳ねさせた。


「怪我はありませんか?立てますか?」

「は、はい、すみません、」


この人が、火の玉と自分の間に咄嗟に立ち塞がってくれたのか。そんな風に思ったら、なんだか急に顔が熱くなって、なずなは気恥ずかしさに、慌てて立ち上がろうとした。


「あ、気をつけて、」

「わっ、」


自力で立ち上がろうとしたなずなだが、かくんと足から力が抜け、よろけてしまう。自分では気づいていなかったようだが、なずなは火の玉のお陰で、しっかりと腰を抜かしていたようだ。

またお尻を打つ、そう覚悟したなずなだが、なずなが尻餅をつく事はなかった。

何故なら、目の前の彼が咄嗟に腕を伸ばして支えてくれたので、なずなの体は、ゆっくりと地面に落ち着く事ができたからだ。


「大丈夫ですか?無理しないで下さい」

「ご、ごめんなさい!だ、大丈夫です!もう大丈夫です!」


だが、体への負担はなくとも、心の負担は重なっていく。彼には助けてもらった上に、更なる迷惑を掛けてしまった。しかも、体を支えられて。それがとんでもなく恥ずかしい。

なずなは申し訳なさも重なって、早く彼から離れなければと、再び焦って立ち上がろうとするが、焦れば余計に力が入らず、地面の上でジタバタするばかり。


ひとり軽くパニックに陥っているなずなだが、彼はそんななずなの姿を見ても、吹き出す事も面白がる事もなく、


「では、手を貸して下さい。ゆっくりいきましょう」


と、眉を下げて柔らかに表情を緩め、再び手を差し出してくれた。

その優しい物言いと、溢れる穏やかな彼の空気に、なずなのパニックに陥った心も不思議と落ち着いてくるようだった。まだ、どきどきと胸は騒がしいが、なずなは顔を熱くさせながらも、おずおずとその手に手を乗せた。


「よいしょっと」


穏やかな声に可愛らしい掛け声が乗って、それに合わせて体がふわっと宙に浮くみたいだった。

革のグローブ越し、優しく握り返してくれた手は思ったよりも力強い。地面にしっかりと足が着いて顔を上げると、


「もう、大丈夫ですよ」


と、微笑む瞳が、なずなを優しく見下ろしていた。その包み込むような眼差しに、なずなは思わず見惚れてしまう。


思えば、なずなは初対面から彼に助けられてばかりだ。この男性は、フウカ。

なずなを火の玉から守ってくれたこの瞬間が、なずなとフウカの出会いだった。




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