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メゾン・ド・モナコ  作者: 茶野森かのこ


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8. 火の鳥と人魚6


碧の国は、海の中に王国があるというが、海上にも幾つかの島が繋ぎ合うように浮かび、そこで暮らす国民もいたようだ。

フウカはその国の上空を飛び、島の連なりとは離れた場所にある、岩が敷き詰め合わせて出来たような小さな島に降り立った。

遠くの島に、キラキラと白波が上がって綺麗だ。その島の近くに、時折、人魚の尾ひれが海上に見え隠れしている。フウカは炎の翼を休めながら、いつか絵画で観た異国の光景に、感嘆の息を吐いた。


だが、火と水は相性が悪い。一休みしたら、近くの水の国に向かおうとフウカは考えていた。マリンのいた水の国は、陸の上に街があり、この頃は観光にも力を入れていた。フウカのような旅人にも、過ごしやすい国だ。


フウカがそろそろ行こうかと立ち上がった時、ぽちゃん、と音がして、フウカは足元の海に目を向けた。岩場の近くに、透き通るような青い尾ひれが見えた。人魚だろうか、よそ者と関わりを持たない国民性と聞いていたので、もしかしたら威嚇されているのかと、フウカは戸惑ったのだが、海上にひょっこり頭を出した姿を見て、フウカの戸惑いはどこかへいってしまった。


水色の鱗が陽に当たりキラキラと輝き、エメラルドグリーンの大きな瞳と長い髪を持つ、とても美しい人魚。

彼女が、テラだった。


「…あなた、外のあやかしよね?」


警戒というよりは、国外のあやかしに対しての好奇心を必死に押し殺して、といった様子で、海から大きな瞳までをひょっこり出して、テラは尋ねた。フウカは、好奇心に満ちたテラの瞳がまるで子供のように見えて、自然と笑みが零れていた。


「はい、火の鳥のフウカです」


フウカが再び腰を下ろして、そう申し出ると、テラは更に瞳を大きく見開いて、それからそろそろと近づいてきた。


「…私は、人魚のテラよ」


そっと差し出したテラの、透き通るような華奢な手に、これが人魚の手かと、フウカはその美しさに息を呑んだ。

それから腕の炎を止め、「よろしくね」と、テラの手を傷つけないように慎重にテラの手を握れば、テラは嬉しそうに瞳を輝かせ、「よろしくね」と、声を弾ませ笑った。


「ねぇ、あなたの国の事を教えて?」


岩場に体を乗り上げたテラは、まるで創られた女神像のような美しさで、それでも顔を覗き込む姿は無邪気な子供と変わらない。その美しさとのアンバランスさに、フウカはテラに不思議な魅力を感じていた。



それからは、外の世界に憧れているというテラに、フウカは色んな国の話を聞かせた。テラは好奇心に瞳を輝かせ、ころころと笑う。テラの方も、色んな世界を見せてくれるフウカにどんどん心を開いていったようだ。


時を重ねていくにつれ、二人はいつしか恋に落ちていた。だがその恋は、人魚達には受け入れ難いものだった。例えば、フウカがどこかで名のあるあやかしならまた違ったかもしれないが、フウカには何もない。火鳥(かちょう)の巣の中の、普通のあやかし。

それでもその思いを止める事は出来ず、二人は事あるごとに岩の小島で逢瀬を重ねていった。




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