8. 火の鳥と人魚4
「これは…?」
キラキラ煌めく泡の壁に、マリンはふふと微笑んだ。
「私の結界よ。今、外からは、私達の姿は人間に見えていないはずよ」
泡の内側にはメゾン・ド・モナコの住人達、外にはミオとナオ、そして側の塀には、ミオの部下と思われるカラスが三羽止まっていた。
「お前が火の玉の真犯人だな!」
「違う!離せ!」
「近所の猫達から証言も取ってる。この間捕まえた火の玉男の側に、お前がいたってのもな!」
猫から人の姿に戻り、ナツメも男の顔を覗き込んだ。改めてその顔を確認すると、ふんと鼻を鳴らした。
「こいつならやりかねないよ、な、フウカ」
そうフウカに問えば、フウカは何か言葉にしようとしたが、すぐにその口を引き結んだ。
その様子に、ナツメは「どうしたんだよ」と首を傾げた。
「フウカさん?」
急に口を噤んだフウカに、なずなも不思議になり声をかけると、ギンジに押さえつけられている鱗の腕の男が、ハッと笑った。
「アンタが俺の事とやかく言えんのかよ!アンタのせいで彼女は一生消えない傷を負った!今でも悲しんでる!アンタは罰を受けるべきだ!一人で逃げやがって…!」
放せ、と男が喚くが、ギンジの力は強く、男は逃げられそうもない。
「それを君が言うのか…だとしても、君がやった事が正しいとは思わないけど」
春風が、やれやれと溜め息混じりに呟いた。
「取り敢えず場所を変えよう、マリン君もその方が安全だ」
春風がミオ達を振り返ると、ミオとナオも了解したようだ。
「俺達も一緒に行かせてもらうよ」
ミオの言葉を合図に、マリンの結界が解かれていく。犯人はまだ抵抗を見せていたが、ギンジに腕を掴まれれば抵抗も出来ず、諦めて歩き出すしかないようだ。
こうしてみると、犯人にとっては呆気ない幕切れだ。
しかし、犯人が捕まったとはいえ、まだ何も解決していないし、心配事もある。
「フウカさん、」
顔を伏せたままのフウカに、なずなは再び声をかけた。
なずなの心配そうな表情に、フウカは苦笑う。フウカの手が微かに震えている事に気付き、なずなは咄嗟にその手を握った。
「大丈夫です、フウカさん。怖い事なんてもうありませんよ」
「フウカ、」
それを見たハクが、フウカの空いている手をきゅっと握る。
驚いていたフウカも、二人の気持ちはグローブ越しでも伝わったのだろう。そっと肩から力を抜いたようだった。
「…そうですね、僕も逃げてばかりじゃいけませんね」
ありがとう、と言うと、フウカはぎゅっと、二人の手を握った。