8. 火の鳥と人魚2
「あなたは、これ以上首を突っ込んじゃダメですよ」
そんななずなの様子を感じ取ったのか、皆が話合いを進める中、フウカがこっそり耳打ちしてくる。
声の近さにドキリと胸が震え、思わず顔を跳ね起こせば、優しい顔が目の前にあり、なずなの体温は一気に上昇し、息が止まりそうだった。
「わ、分かってます、」
どうにか答えたが、囁かれた耳が熱くて恥ずかしい。そわそわ落ち着きがなくなったなずなに、今度は「どうしました?」なんて、心配そうに顔を覗かれるので、なずなは「な、なんでもありませんよ」とどもりながら、さりげなくを装ってマリンの隣に移動した。
自覚があるのか無いのか、無自覚だとしたらやめてほしい。
こちらはフウカへの思いを自覚して、表に出さないよう必死なのだから。
そんななずなの様子に、マリンは「あらあら」と、全て見通した様子で含み笑いをしている。フウカはきょとんとしていたが、マリンが何か示したのだろう、首を傾げながら会議の輪に戻ったようだ。
マリンはなずなに何を言うでもなく、頬杖をつきながら、楽しそうに会議に参加している。その横で、なずなはそっと溜め息を吐いた。
大事な話をしている時なのに、フウカだって自分を心配してくれただけだ、それなのに、自分は些細な事で浮き足立って。これじゃ、フウカにおかしいと思われても仕方ない、今は恋に浮かれている場合ではないのに。
これではダメだと、なずなは自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えて顔を上げた。
自分がこんなだから、すっかりフウカの心配の種になってしまったんだ。役に立つつもりならしっかりしないと。
でも、あやかしの世界の話は、いつかまた聞かせて貰おうと、こっそり胸に留め置いた。
「こいつが帰るのは何日後だ?」
「あと一週間だね」
ギンジの問いに、ミオが答えた。それを聞いて、ギンジは人の悪い顔を浮かべた。
「じゃ、そろそろもう一歩踏み込ませてやる時じゃねぇか?」
「猫達の話だと、既に何度かこの辺りで見かけてるみたいだよ」
「噂として何か吹き込ませようか、今がチャンスと思わせような事を。アパートの中に、なずなさんしか居ないとか」
「疑われませんか?」
「そこは僕の部下達を信用してよ、上手く誘導させるよ」
フウカの不安そうな様子に、ミオは安心させるように笑んだ。
「でも、どうやって?」
「カラスの姿でこの辺りを見張らせるよ、犯人が来た時に、自分も犯人を捕まえようとしてるとか何とか言って。いくらでも正体は欺けるさ」
「じゃあその時は、私達も外に出ておかないといけないかしら」
「そうだね、用心深くなってるかもしれない、気配を辿られたら、隠れていてもバレるかもしれないし」
「じゃあやっぱり、なずちゃんの側には春さんがいた方がいいわね、神様の術は、あやかしじゃ見抜くのは難しいでしょ?」
「あまりハードルを上げないでくれよ」
「あら、謙遜」
春風が眉を下げるので、マリンは、ふふ、と笑った。
それから話は進み、ミオの部下達が手伝ってくれる事で話は纏まった。