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メゾン・ド・モナコ  作者: 茶野森かのこ


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7. フウカの思い12


***



「あれは、春風(はるかぜ)さんの仕業ですか」

「ちょっと、そのじっとりとした目やめてよー、あれが僕の真骨頂だよ?なんせ貧乏神だからね」


パチリとウインクされても、なずなは溜め息しか出ない。聞けば、混み合って忙しく働くのが面倒で、力を使ってお客さんを来ないようにさせていたらしい。


「怠けてるんですから…」

「まぁまぁ、今は大盛況だから良いじゃない。それよりこの後はどうする?」


春風の問いに、なずなは少し言いづらそうに瞳を揺らした。


「あの、せっかくここまで来たので、病院にお見舞いに行きたいんですけど、ダメですかね?」

「お見舞い?」

「おばあちゃんなんです、年齢のせいもあると思うんですけど、病気がちで」

「…そうか、そうだね、僕も行くよ」

「え、いいんですか!」

「うん、お付きがいれば危ない事もないからね」

「良かった!もうちょっと電車に乗るんですけど」


行きましょう、と、ほっとした様子のなずなに手招かれ、春風はその後を追いかけた。




そうしてたどり着いたのは、そこから三駅先の駅で、二人は、駅から十分程歩いた先にある大きな総合病院に向かった。

もう時刻は昼を迎えているが、ロビーや待合室は、診察待ちかそれとも会計待ちか、患者や病院のスタッフで溢れていた。



祖母の居る病室前に着くと、春風は「あっちで待ってるから」と、フロアのロビーの方へ向かおうとするので、なずなは慌てて声をかけた。


「春風さんも良かったら、祖母に会ってくれませんか?せっかくですし」


春風には世話になっている、なずなとしては紹介したかったのだが、春風は笑って手をひらりと振った。


「せっかくだけど、お祖母さんも君とゆっくり話したいだろうしさ。僕の事は気にしなくて良いから、行っておいで」

「…あ、」


なずなが引き止める間もなく春風は行ってしまい、なずなは諦め病室へと入っていった。


なずなが病室に入って行くと、春風はその足を止め、それから踵を返すと、そっと廊下から病室を覗いた。仕切りのカーテンを開けているので、なずな越しに、その人の姿が廊下からでも良く見えた。

キレイな白髪に痩せた体、なずなを見つめる優しげな微笑み、あぁ似てるなと春風は思い、そっと彼女から目を逸らした。


あの人は幸せになったんだなと感じる一方、聞きたい事、話したい事、胸の中で思い浮かぶその微笑みには、もう会う事はないんだと今更ながら思い知り、帽子の鍔をぐっと下げた。


「まったく、いけないね、こんなんじゃ」


そろそろ彼女を自由にしてあげなくては。春風は静かな病院の傍ら、そっと口元に笑みを乗せる。見えない表情は、涙を呑み込んでいるようだった。







病室では、なずなと祖母のサキが、和やかに言葉を交わしていた。


「今ね、アパートでハウスキーパーやってるんだ」


なずなの言葉に、サキは目を丸くした。


「大丈夫なの?なずちゃんは料理が下手なんだから…」

「それ言わないでよ、助けてもらいながらやってる。昨日はカレーが上手く作れたんだよ!」


胸を張るなずなに、サキはおかしそうに笑い、それから懐かしそうに目を細めた。


「ヤヱばあちゃんと同じね」

「え?でもヤヱばあちゃんって、レストランやってたんでしょ?」


それなら、料理は得意ではないのか。首を傾げるなずなに、サキは困った顔を浮かべた。


「実家のレストラン、あの手紙の住所の場所ね。あそこに居た時は、料理がてんでダメだったらしいけど、後からいっぱい練習したそうよ。何でも見返したい人がいたとか」

「そうだったんだ…それが、手紙の人なのかな?」

「さあ、どうなのかしらねぇ」


寂しげに微笑むサキに、なずなは少しでも喜んで欲しくて、笑みを浮かべて身を寄せた。


「あの手紙の事だけど、もうすぐ手がかり掴めそうなんだ」

「本当…?」

「うん、宛名の人の事が、分かるって人と知り合えたから…教えて貰えるのは、ちょっと先になると思うんだけど」

「そう…良かったわ、なずちゃんに預けて正解ね。これでヤヱばあちゃんの思いも伝えられるわ」


ほっとしたようにサキは微笑んだ。なずなは頷きつつ、その為にちゃんと自分の役割を果たさなくてはと、心を奮い立たせていた。




***




「ごめんなさい、待たせちゃって」


サキに別れを告げると、なずなはフロアのロビーに慌てて駆けてきた。

春風(はるかぜ)は、ソファーから立ち上がると、緩く首を振った。


「いいや、おばあさんの具合はどう?」

「体調は相変わらずみたいですけど、手紙の事話したら、嬉しそうにしてくれました。犯人が捕まって、近所の人達と仲良くなれたら、手紙の事ちゃんと教えて下さいよ」

「…うん、勿論だよ」

「…フウカさん帰ってきますよね」

「それは大丈夫だと思うよ、フウカ君だって、帰ってきたいはずさ」

「そうですよね!」


明るい笑顔を見せるなずなに微笑んで、春風は前を向いた。




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