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メゾン・ド・モナコ  作者: 茶野森かのこ


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7. フウカの思い11


なずながアパートに来てから、アパートの中は随分変わった。互いの程よい距離感が平和を生んでいると思っていたのに、なずなは、皆が保っていた距離をお構い無しに引き寄せてしまった。

苛立ちや諦めに満ちたメゾン・ド・モナコが、今は明るく変わろうとしている。

だから、怖かった。距離が近づけば、この手がまた誰かを傷つけてしまうかもしれない、その時、自分にはもう行く場所はない。皆が変わろうとしている中で、自分の存在がいつか毒になるんじゃないかと思って、怖かった。


それなのに、なずなは怖れず向かってくる。真っ直ぐにその心に触れてくる。誰かの為に必死で、目を逸らしたくても、逸らせなくて。

伸ばされる手を、掴んでしまいたくなる。

許されていいのかと、願ってしまう。


伏せた視線を上げると、なずなはフウカの言葉を静かに待っているようだ。この気持ちの揺らぎすら、共に乗り越えようとしてくれているかのようで、フウカは何だか心強かった。



「…あなたはもう、アパートの住人じゃないですか」


そうフウカが言えば、なずなは嬉しそうに表情を緩め、はい、と笑顔で頷いた。

その笑顔に頼りたくなってしまい、フウカは繋がる手に視線を落とした。


「…僕は強くなれるでしょうか」

「強く?」

「もう、大切な人を傷つけたくないんです。このグローブは、戒めでした」


ぎゅ、と力のこもる手に、なずなは力強く頷いた。


「なれますよ!傷と向き合うフウカさんは、もう十分強いと思います!大丈夫、大丈夫ですフウカさん」


フウカはきょとんとしてなずなを見つめたが、それはすぐに笑顔に変わった。


「…ありがとう」


それは、とてもキレイな笑顔だった。






二人が少しの照れくささを引き連れてキッチンカーに戻ると、いつもある長蛇の列が嘘のように、紫乃(しの)のキッチンカーの周りだけ客がいなかった。


「え、どういう事ですか!?」

「あ、お帰りーお二人さん」


にこりと手を上げる春風に対し、紫乃の顔は悲壮感に溢れている。


「どうしてお客さん来ないんだろう…俺、何かしたかな、知らない所で食中毒とか!?どうしよう…」


頭を抱える紫乃の隣で、春風はこっそり手を叩く。すると、どこからともなく人が集まり始め、途端に店は賑わいを見せた。


「…まさか」


ジロ、と睨むフウカとなずなに、春風はカラリと笑ってみせ、フウカの背中を押した。


「ほら、お客さんが待ってるよー、フウカ君!」

「あなたね…」

「良かった!早くフウカ君!この店は君が居なきゃダメなんだ…!」


嬉々として動き出す紫乃に手を引かれ、フウカはエプロンを巻き手を消毒する。その手はまだグローブがはめられたままだけど。


「じゃ、家で待ってるよー」


春風の声に振り返り、その隣で手を振るなずなを目に留め、フウカは元気に「はい」と頷いた。






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