2. 一週間前のこと3
極めつけは、とにかくアルバイトをしなければと思っていたら、勤めていた店は経費削減の為、人員を削るという。なずなは、その中の一人だった。
落ち込んでいてもお腹はすく。食べ物を買えばお金はなくなる、働かなきゃアパートだって追い出される。
なのに、こんな時に限って新しい仕事も見つからない。落ち込んだ暗い気持ちが、先方にも見抜かれているのかもしれない。
母から電話がかかってきたのは、そんな時だった。それは、祖母が入院したという連絡だった。
夢に振られた事を家族にも言えなかったのは、言えば実家の定食屋を手伝わされるというのもあるが、まだ音楽を志した自分を、捨てきれなかったからかもしれない。
***
夕暮れの、空に広がる朱色の輝きが目に染みる。病院からの帰り道、手紙の住所がなずなの暮らす町にあったので、自宅のアパートを越えて、住所の場所まで足を伸ばしてみようと思った。
なずなの暮らす町は、東京の端にある小さな町で、駅前に大きな神社がある。神社は映画やドラマの舞台に使われる事もあり、ちょっとした観光スポットだ。なので、駅前はわりと賑やかだが、駅周辺から少しでも外れれば、家々が敷き詰め合うだけの、何でもない普通の町だった。
電車を降り、なずなは手紙の住所に向かう足を止めた。
駅から見える参道を見て、お参りして行こうと思い立ち、神社へと向かった。
日中は、平日でもそこそこ人で賑わっているが、夕暮れを過ぎると、参道は閑散としていた。早めの店じまいに備える参道脇の店の様子を眺めつつ、神社に向かう。それでも、参拝客の姿はチラホラ見えた。
手水舎で手と口をゆすぎ、拝殿へ向かう。なずなは、ご縁がありますようにと、五円玉をお賽銭箱に入れ、けれど不安がよぎり、百円も追加で入れた。
そして、仁礼二拍手、目を閉じ、そっと心の中で願いを唱えた。
“手紙の手がかりが見つかりますように”
「……」
“…私の未来も見つかりますように”
これもとても大事な事だ。なずなは一つ頷き、一礼して拝殿を後にする。
その姿を、拝殿脇から見つめている人物がいた事に、なずなが気づく筈もなかった。