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7. フウカの思い8



翌日、フウカを探しに、なずなと春風(はるかぜ)は彼の仕事場であるキッチンカー、“シノさんの店”へと向かった。

昼はいつも、メゾン・ド・モナコの最寄り駅から二駅先、その駅前広場に出店しているらしく、今は昼には早いので、駅前も人は少なく、まだ看板も出ていない。


フウカはいるだろうか、なずなが不安を抱えたままキッチンカーを覗くと、開店準備中のキッチンカーには、店長の紫乃(しの)と、フウカの姿があった。


「いた…」

「本当にねぇ、真面目なんだから…」


二人はどこか拍子抜けした様子で顔を見合せると、安堵から表情を緩めた。

昨夜、仕事には顔を出すだろうと春風は言っていたが、それでも夜中までフウカを探し回ってくれていたのだ、それを考えると少し拍子抜けしてしまうかもしれないが、見つかった安心の方が大きかった。

なずなは春風を見上げた、春風は頷いて、その背中を押してくれた。


良かった、フウカがいてくれた。だが、どうしてフウカが皆の前から姿を消したのか、なずなには分からない。フウカが持つ力のせいなのか、それともフウカのせいで誰かが傷つくと思っているのだろうか。

どうして自分は人間なんだろうと、なずなは思った。同じあやかしなら、きっとフウカの気持ちも分かっただろうし、どこかのあやかしに襲われたって、皆の足手まといにはならなかったのかもしれないのに。


それでも、春風の手はなずなの背中を優しく押す。

フウカに会う勇気をくれるようだった。



「フウカさん!」


なずなが声を掛けて駆け寄れば、フウカは驚いた様子でこちらに目を向け、それから思わずといった様子で、慌ててその場から駆け出した。


「え、ちょ、待って下さい!」


そんなあからさまに逃げるとは思わず、なずなは虚をつかれたが、そのまま急いでフウカを追いかけた。


「フウカさん!待って!」


フウカはなずなを僅かに振り返ったが、それでも前を向いてしまう。こんな時、なずなは自分の運動不足を呪った。フウカがあやかしだからとか、男性だからとか理由を引いても、なずなの足はただただ遅く、その上、すぐに足が痛くなる。アパートの家事で体を動かしていたと思ったが、まだ数週間では、なずなの体力の底上げにはなってくれなかったようだ。

しかし、ここでめげてはいけない、またフウカが居なくなってしまう。もしこの機会を逃したら、フウカがキッチンカーにも来なくなってしまったら、もう、会えなくなってしまったら。


じわ、と視界が滲み、考え事をして走っていたせいか、悲鳴を上げ始めた足が縺れ、なずなは盛大に転んでしまった。


「痛…」


幸いなのは、昼前の人通りが少ない住宅街だった事だ。普段なら、人目を気にして恥ずかしいという思いが先に立つが、今は恥ずかしいよりも、自分が不甲斐なくて、情けなくて、泣きたくて、なずなは立ち上がれなかった。


「…本当に、もう、」


なんでこんな、何も出来ないんだろう。



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