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7. フウカの思い4


「こんばんは。この間はごめんね、急に声を掛けたりして」

「ううん、俺こそ、友達がごめんなさい。あの、」


純太(じゅんた)が顔を上げた瞬間、パキ、と、空から音が聞こえてきた。


「え?」


何だと顔を上げると、何もない筈の空が、パキ、パキ、と、まるで氷にヒビが入るみたいに割れていく。現実にはあり得ないおかしな現象に、なずなと純太は理解が出来ず、ぽかんとするばかりだ。だが、その音や、空の割れる亀裂は、どんどん大きくなる。


「な、何これ」

「怖いよ!」


怯える純太にはっとして、なずなは身を屈めて、純太を抱きしめるようにその肩を抱いた。


「だ、大丈夫だよ!こっち、」


だが、なずなが進もうとすれば、空にしかなかった亀裂が、前方に走るのが見えた。驚いて振り返れば、今度は背後に、パキ、と亀裂が入るのが見える。


「な、なんで…」


まるで自分達を取り囲むように、何もない筈の空間に亀裂が入っていく。まるで、見えない壁に取り囲まれたようで、空までもが徐々に迫ってくるような感覚に、なずなも足が竦んで動けない。この亀裂は何なのか、もしあれが危ない物だとしたら、ここから動かない方が安全じゃないのか。ならば、助けを呼ばないと。


「た、…」


助けて、と叫ぼうとした口が止まる。もし、この妙なものを人に見られたら、フウカ達は困るのではないか。

そうだ、きっとこれはあやかしの仕業だ。得体の知れない現象の原因が分かれば、対処が出来る。なずなはフウカ達の助けを呼ぼうと、スマホを取り出そうとして、自分が手ぶらなのに気がつく。


「あ、そうださっき…」


フウカが荷物を持って行ってくれた時、一緒に鞄も渡してしまった。フウカも様子がおかしかったし、なずなの手元まで確認していないだろう。それに、もし鞄だと分かっていても、フウカの事だ、まとめて持って行ってくれたかもしれない。

何故スマホをポケットに入れておかなかったのか、今更思っても後の祭りだ。


パキ、パキ、と、割れる音は止まる気配を見せず、空に入る亀裂は、自分達を閉じ込めようとしているのだろうか。この奇妙な現象に、純太は恐怖に頭を抱えて泣いてしまっている。なずなには、「大丈夫だよ」と、声を掛け抱きしめる事しか出来ない。


「…だ、」


声を発しようとして、なずなは喉を押さえた。

息が苦しい、酸素が急激に減っている。はっとして純太を見れば、彼もぐったりとし始めており、なずなは青ざめた。

この現象が治まるのを待つ事しか出来ないのか、自分達はどうなってしまうのか、まさかこのまま、そう絶望した時だ。


「なずな!」


名前を呼ぶ声と共に、一際大きくバリッと空間が割れる音が響き、なずなは咄嗟に純太の頭を抱き抱えた。


「おい!無事か!?」


間近で声を掛けられ、はっとして顔を上げると、ナツメが焦った様子でなずなを見つめていた。なずなは、ほっと安堵の息を吐いた、いつの間にか息苦しさも消えている、これもナツメのおかげだろうか。


「ナツメ君…!あの、これ、何か、空が…!」

「あやかしの術だ、結界に閉じ込めようとしてる!今、簡単に穴開けただけだから、さっさと出るぞ!」


パニックと安堵が混ざって支離滅裂ななずなだったが、ナツメは冷静に純太を抱え、なずなの手を引く。パキ、パキ、と再び空が割れる中、ナツメが飛び込んできた部分だけ、ぽっかり穴が空いているのが分かった。そこだけ、風景に歪みがなかったからだ。ナツメは純太を抱えてその穴から外に出ていく、なずなもそれに続こうとした瞬間、後ろから、ぐっと見えない力に体を掴まれた。


「え、」

「なずな!」


ナツメがすかさず繋がった手を引こうとするが、それよりも強く、なずなの体が後ろへ引っ張られていく。


「ナ、ナツメ君、」


ナツメが開けた穴がどんどん小さくなる、はっきりと見えていたナツメの姿が歪んで見え、何かがなずなの体を足元から覆おうとしているのが分かる。


もう、出られない。


ナツメの開けた穴が、互いの指先すら遮ろうとする程に小さくなった時、先程の比ではない、バリバリバリッ、と空間を大きく引き裂くような音が、なずなの周囲に弾け飛んだ。



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